第11話 最後の記憶
「ゴホッ!やめて…」
「起きたか。」
口と鼻を軽く抑える起こし方はやめてほしい。
「リサさん、怖いです…」
「私は今の貴方は信用できない。
どれだけ自分の意識が残っている?自分で考えて行動はできていのか?過去を覚えているか?」
急にどうしたんですか?!
昨日までの心の開き具合は何処へ行ってしまったのか…
自分の意識は私自身だし、口調はともかく自分で考えて行動してる、過去…
なるほど、リサさんの言いたいことがわかった。
過去、前世の記憶はきちんと覚えているけどエイラになってからの記憶が殆どない。
覚えているのは聖女として勉強をしていたことだけ、リサさんの問いと前世の記憶が無ければ気づけなかったかもしれない。
「無い…」
「だろうな。
一緒に寝たのは偶然だがそろそろだとは思っていた。」
こうなるのを予想してたのか…
随分と私について詳しい、いや聖女についてか。
「貴方と過ごせるのは今日で最後か。」
「えっ…」
「今回で終わらせるつもりだから、きっとまた会えるさ。
さぁ朝食にしよう。」
今日で最後って…
でもまた会えるって言ってましたし、きっと大丈夫ですよね?
「共に作るか。」
「え、良いのですか…?」
「別に構わない、パンケーキだしお互いがお互いのを作ろうか。」
「わかりました。」
普段通りに過ごそうと思っていても最後という言葉が脳裏に散らつき。
「焦げるぞ。
奴隷にされたささやかな抵抗か?」
「あー!本当だ、すいません!」
朝ご飯のパンケーキを焦がしそうになるし、
「何を見ている?」
「ちょうちょ…」
「……」
お昼の散歩では、普段サクラを眺めているのに蝶を眺めている。
やっぱり今日で最後というのが予想以上に怖いのだ、昨日の夜からリサさんが少し怖くなっちゃったけど、今までの生活は楽しかったからだと思う。
「夕飯を作るから戻るぞ。」
時間が早く感じる。
過ぎてほしくない時間は早く終わって、終わってほしい時間は長い。
リサさんとの生活は本当に楽しかったんだ…
「ハンバーグだ。」
「ありがとうございます…」
夕飯も体感ではあっという間に完成してしまい、味わって食べたつもりが殆ど覚えてない。
え、何で?!
今日1日、体感30分で終わっちゃった。
「そろそろ行くか。」
「えっとあの、何処にですか?」
「地下だ。」
地下にはお風呂場もあるけど、いつもお風呂に入る時に地下って言い方はしない。
奥のあまり掃除されていなさそうな部屋に向かうのだろう。
「私は、どうなるのですか?」
「軽く眠ってもらう。
そうだな、長くても1年間はずっと寝ていてもらう。」
「えっ…」
1年間?!いや、私は死にはしないけど逆に寝れるのかな?
私が悩んでいる間も腕を掴まれながら、地下室に向かっていく。
ギィィ
何年も開けられていなかったせいか、扉を開けるのに少し苦戦していた。
だが予想外にも部屋の中はとても綺麗で、埃が積もったりはしていない。部屋の真ん中には白いソファが置いてあった。
「これに座るんだ。」
「…はい……」
恐る恐る、ゆっくりと座る。
ソファはとても柔らかく、体に一切負担が掛からない、想像以上に快適だった。
「エイラ、私は貴方を絶対に助け出して見せます。」
聞こえた声は今にも泣き出しそうだった。
「貴方は私を怨むかもしれません、ですが」
リサさんは微笑んでいた、目にも僅かだが感情が宿っているようにも見える。
「次に会う時は…」
そういえば私は今日リサさんの顔を正面から初めて見たな。
「おかえりと、言って欲しい。」
私はリサさんの事を何も知らない。
リサさんに妨害されていた、というのはただの言い訳だろう。
私が少し勇気を出せば、誘拐した理由なんていつでも聞けていた。
それをしなかったのはリサさんとの生活が終わってしまうのが怖かったから、最終的に破滅がわかりきってる魔王討伐の旅に行きたくない。
私はそう思って、リサさんを利用していたんだ。
「命令だ。
私がここに戻るまで眠り続けろ。」
「待っ、て……」
「本当にすまない…」
いや、謝らないといけないのは私。
自分自身で知らないふりして、貴方を利用して、このままではリサさんに危険が迫るとわかっていたの。
一度だけ怪我をしたリサさん、あれはきっと私を取り返そうとした世界のせい。
『起きろ。』
「…?」
「やはり干渉してきたか。」
『魔法を唱えろ。』
性別も年齢もわからない声で指示を出される。
眠りに落ちていった意識は白いモヤが掛かりながらも起き、保っている。
「口を閉じろ。【スリープ】
魔道具起動、対象エイラ。」
『封じ込められた魔力を解放しろ。』
「【シールド】!」
何が起こっているのか、詳しい事はわからない。
わかるのは命令を出す声とリサさんが争っていることだけ。
『命を燃やせ、ここから脱出せよ。
聖女としての役割を果たすのだ!』
「私は、アンタとはもう数えきれないほど戦ったんだ。
全ての対策はしてある!」
パリン!
薄いガラスが割れるような音がし、それっきり命令を出す声は聞こえなくなった。
リサさんの命令だった眠れは無効になっていたけど、謎の疲労感に襲われる目を開ける事は勿論、熱が出た時のように体が重くダルい。
「り、リサさ…」
「もう大丈夫だ。
もうエイラに苦しい事はない、私に全て任せてくれ。安心してくれ。」
私は今初めてリサさんの本当の声、本当の心を聞いた。そして何か大切な事を思い出した気がした。
「ーーーーー」
私の最後の記憶は、リサさんが言った一言だった。
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