頑張る魔王様 1

私は魔王。

邪神様に作られ、この世界を正しい形に向けるため人類を滅ぼす使命を持つ。


どのように人類を攻め滅ぼすかを考え、新兵を訓練し、魔王軍の戦力底上げを行う日々。


その努力があって目的は達成、

人類は滅び世界を邪神、いや世界の神に捧げて、世界は神の作った流れから離れて正しい形になりつつある。


「魔王様、バンザーイ!」

「「「バンザーイ!!」」」


世界の神の目的を達成した私を魔族の者達は慕ってくれている。


まぁ、本当は殆ど何もしてないんだけどね、

人類滅亡の本当の立役者は『リサ』という元人間の騎士。


今では『元』とつくが人間だった頃、たった1人の少女のために魔王軍に協力するというイかれた存在だった。


「貴様が我と話したいと言う人間か。」

「えぇ、そうですよ。」


ヤバイ魔道具で脅し私と対談する機械を作った人間、さして興味は湧かず随分と目が死んでいると思っただけだった。


「その幻影魔法を解いてもらいたい、どうせ見破られているんだから問題はないと思うが。」

「…よかろう。」


この質問から私は警戒を強めた。

私の幻影魔法を見破れる者など聖女以外には居ないはずなのだが、それを人間が知っていたのだ。


「人間が私の姿を見れば驚くと思っていたのだが…」

「私は見慣れているし、貴方の正体も知っている。

驚く方が難しい。」


どういうこと?!

ヤバイよこの人間…


もうこの時点で私のメンタルは限界、正直話なんて聞かずに殺したかった。

だが威厳を保つため表情筋を全力で固めて話す。


「それもそうか、さて要件を聞こうか。」

「私の要求は3つ、

1つ、聖女エイラの身柄

2つ、とある島の占有許可

3つ、人類の壊滅。」

「な…!少しまて。」


もうヤダこの人間、意味わからんよ…

1つ目の聖女の身柄これはまだわかる、

2つ目の島の占有これもまだわかる、

3つ目の人類壊滅、これは意味がわからん。


人類壊滅って、貴方も人類じゃん怖いなぁ。


いや待て、もしかして嘘か?

私がこんな見た目だから舐められてるのか、そうだ舐められてるんだ。


あースッキリした、一応理由だけ聞いてから処分しよう!!


「なぜ、なぜ人類である貴様はそれを願う、何が目的だ。

我々にメリットを表示するのと、理由を教えてもらえないのなら断るしか無い。」


声カッスカス、心では余裕でてるのに体は緊張してるのか。


「その理由を見せよう。」


魔力が私に向かって来て、これは暗殺か?!


いや、これは記憶の共有?

私は見た、体験した、永遠にも思えるほどの記憶の共有。

あの女は代償を考えずに記憶を共有したようだ、私じゃなければ廃人になってもおかしく無い。


5年


10年


15年


早送りのような状態での経験とはいえ体感では15年を過ぎた。


「くくく、アハハハハハ!!」


帰ってきたと理解できたがもう笑うしかない。

魔王のイメージが壊れる失態だが、むしろ正気を保っている事を褒めて欲しいぐらいだ。


もちろん代償はあった。

聖女エイラに対する恋愛感情が湧き出ているし、性格も大分変わってしまっているだろう。


それにしても聖女を助けるため、何度も何度も同じ人生をやり直したリサは壊れてしまったのか。

記憶を体験した私は今回が最後のチャンスだと分かった、リサ自身が気付いていない節目だというのもあるのか今回失敗したら次は全てを滅ぼすと判断しそうだ。


それはヤバイ!


この作戦が失敗している主な原因は一部の魔族による裏切り。

これに関しては魔王の私が粛清するしかないな。


ーーーーー


「何故ですか?!

何故あの人間を我等の仲間に引き入れたのですか?!」

「【這いつくばれ】」

「…!」

「【魂を我が神に捧げよ】」


これで自称上位魔族を粛清した数は134人だ。

記憶でリサを裏切ったと判明した魔族は既に処分を終えて、今は意識改革とその行動に反対する者達の炙り出しをしている。


「魔王様…」

「ヒョッ!オマエはいきなり後ろから声をかけるな!」

「失礼致しました。

幻影を使わない姿で歩いていていたので涙目を見たくなりました。」


魔王軍に表向きには存在しない諜報部隊、リサの記憶にすら存在しなかったヤベー部隊だ。


「本当に精神が幼くなってますね?」

「幼くなったわけでは無い、性格が変わっただけだ。」


コイツには情報操作を主に頼んでおり、滅多に帰ってくることはないのだが…


「何があった?」

「ご報告致します。

魔王様の指示通り情報操作を行なっていたところ、妙な話を聞きました。」


魔族領で噂になるような話が?

私が把握しているならわざわざ話してこないはず、一体どんな情報を?


「魔王様が…」

「私が?」

「……」


おい溜めんな。

なんだオマエ、主人で遊びやがって減給してやろうか。


「相当な少女好きだという噂が。」

「は?」

「いえ、なんでも幼い少女の頭を撫でる姿がよく目撃されているとか、それに抱きついたという噂までございます。」

「……」


…やったわ。

全部やってたわ、リサの記憶の影響がここまで…!


エイラと同じぐらいの少女を見るとつい頭を撫でたくなってしまうんだ。

私の本当の姿ならともかく、幻影の時の姿でそんなことやってたら噂も立つわな。


「…どうにかしろ。」

「ブフッ!

かしこまりました。」


笑いやがって!

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