第28話 恩人

聖国にある結界を維持する魔道具について説明しよう。


結界の核となっている魔道具は『神像』と呼ばれていて、この魔道具は魔力ではなく人々の信仰心で起動する特殊な魔道具。


今現在、国の機能を残している人間の住む国は聖国のみで人々は強い恐怖を感じている。

そんな状況で人々が縋る事のできる物や存在は神のみ、聖女であるエイラがいれば神とエイラで半分に分かれるがエイラがいない今は全て神像へと信仰心が流れている。


そして魔道具は信仰心が多ければ多いほど強力な結界を張る。

今の起動状態ですら最強の結界だ。


神像の数は7つ、うち3つは同じ場所にあるから5箇所を回らなければならない。


「帝国の第二騎士団副団長、アリエスだ。」

「帝国騎士団の副団長?!

生きていらっしゃったのですね!帝国は今どのような状況で?」


私のやる事は簡単、聖国に向かう道中に帝国の鎧を盗む、そして帝国騎士団で唯一ある程度の地位を持つ女性になりすます。

基本的に名前と帝国の鎧を着ていれば見破られることなどない。


「悪いが今は少し休ませてくれ…」

「かしこまりました!

ただ軍属者はコチラに書いてある宿へと向かわせるようにと言われおります、手厚い治療も受けられるので早めに行く事をお勧めします。」

「あぁ、ありがとう。」


地図に書いてある宿には向かわない、このまま裏路地で鎧を脱ぎ捨て教会へと向かう。

予想だと此処には教会幹部である枢機卿が1人いたはず。


バタン!


「おや、いくら不安でも乱暴はいけませんよ。神は我等を見ていてくださいます。

今は耐える時です、共に頑張りましょう。」


乱暴に教会の扉を開けた私を優しく咎めてくる神父、だがその言葉を無視し神像の元へと向かう。。


「【破裂する罠 弾けて仕留めよ】」


神像の足元で跪き小声で魔法トラップを仕掛けた。

ある程度まとめて破壊しなければ警戒されるから仕方ないが、私が神に跪いていると言う事実に怒りが込み上げてくる。


「もうよろしいのですか?」

「次の街へ行こうと思いまして、1人の力ですが色々な場所の応援になればと思って。」

「なるほど素晴らしいお考えです。

貴方に神の御加護がありますように。」


それは私にとってはデバフだな、間違いない。

きっと魔力完全剥奪とか物理的な耐性を消すとかヤバイレベルのだろう。


「今日中に2箇所はいけるな。」


3箇所を一気に破壊したあと纏まって神像が置いてある場所を襲撃、明日の昼間までには終わらせなければ。


「来ていないだと?!」

「はい、今日は誰も来ておりませんが…」


魔法で透明化し門を出る途中、私が居ないと騒いでる騎士たちが居た。


今回の作戦で1番の強敵となるのは、

私とエイラの恩人であり、教会のトップでもある教皇。


ーーーーー


私はエイラに全てを話した。

何度も同じ時間を生きている事、エイラが死ぬ未来がある事、神は信用できない事。


最初は信じられない様子だったが時間が経つにつれ、私を信じてくれた。


『教皇様に話します。』


共に逃げると決めたが協力者として教皇に話すと言い出した。

考えてみれば教皇は最後までエイラを庇おうとしていた気がする、冤罪をかけられた時も処刑ではなく追放しようとしていた。


『……』


魔王討伐の後に教皇に全てを話した。

髪を疑うとはと怒っている雰囲気も感じたが、聖女についての考察を話すと教皇の様子は一変した。


『そういう事でしたか…

魔王解決後の聖女様の動きは私も気になり調べた事があります。殆どの聖女様が亡くなり、生きていた僅かな聖女も何処かの王族に嫁がされていました。』


納得がいったという反応をし私達に協力すると約束してくれた。

とても心強い仲間を得たのだ。


『聖女様は救世の旅に出ましたので、我々教会も現在の居場所を把握していません。』


私とエイラに2人で静かに過ごせるように姿隠しの魔道具と結界を張り人を寄せ付けない魔道具を用意してくれたり、王族からの婚約の申し込みには居場所を知らぬと断ってもらった。


これで終わったと思っていた。

1年間は本当に平和だったのだ。


『リサさん大変です!』


姿を隠しながら街へ買い物に行ったエイラが走りながら帰ってきた。


『どうしたんですか?』

『これを見てください!』


渡してきた新聞の見出しは、

【教皇 病に倒れる】

我達の恩人である教皇が病にかかって危ない状況だと知らせる物だった。


『すぐに行きましょう!

私なら直せるかもしれません!』

『……』


すぐに返事できなかった。

仮に病が治ったとしても年齢的に引退するはず、そして聖女であるエイラがもう一度表に立たされるだろう。


この生活を捨てるのか?

エイラとの幸せな生活を?


『私は行きます。』

『…ダメです。』


エイラは既に準備を始めていた。

止めようと言葉を出そうと思ったが、エイラの様子がおかしい。どこか怒っているかのようだった。


『行かなくては、行かなくては、行かなくては。』

『え、エイラ…?』


私が見えていないかのように外へ向かって走っていってしまった。


『何故、何故、何故、何故…』


わからなかった。

なんでエイラがあんな様子になったのか、本当に理解できなかった。


1ヶ月経った、新聞の見出しには

【教皇暗殺 犯人は聖女エイラ】

という見出しが広がっていた。


ーーーーー

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