第29話 全ての終わり

「もう呼び出すとは、相変わらず仕事が早いなぁ。」


ついに終わる。

今日に至るまでの過程が頭に浮かび消えていく、魔王に石像を破壊する魔法の制御権を渡す。


「だが本当にいいのか?

1人で襲撃をかけるのは流石に危険だ、私が魔道具をあげたからと言って絶対に勝てる相手ではないだろう?」

「それ以外に方法が無い。

私以外に攻め落とせるのは魔王だけだが万が一にでも死なれたら困る。」


魔王が死んだら魔族の怒りは間違いなく私に向くだろう、全て返り討ちにしていては神へ隙を作ることになる。


「無事で帰ってくるのだぞ?

【ゲート】」

「もちろん、それと準備をしっかりと頼む。」


魔王のゲートを潜った先は聖国の首都上空。

貼られているのは魔族を拒むだけ人を拒むことの無い結界である。


服に付けていた防御系の魔道具を全て稼働させ、片手には槍を持つ。

このまま神像のある神殿へ向かって落ちる。


「…!」


私に向けて魔法の矢が飛んできた、いつもより迎撃が早い。

魔道具は着地の時に殆ど壊れる、出来るだけ温存するために私の魔法で矢を防ぐ。だが近づくにつれて矢の本数が増えて防ぎ切れない。


「やるしかないか…

【解除】」


魔道具の起動を止める。


「グッ…」


どんどん私に矢が刺さっていく、後10秒耐えればいい。

これで最後なのだから…


「【起動】…」


その10秒は私には重すぎた。

体中に矢が刺さり血が足りない、治療をしなければ1時間も持たないな。

これから衝撃も加わる、助かる事を祈るしかない。


「「「ーーーー!!!」」」


人の叫び声が聞こえる。


パリン!


物理結界に当たるが勢いは衰えない。

そのまま私は教会の屋根を突き破り並んでいる3体の神像をー







「リサ!よくやった!」


どうやら私は気を失っていたようだ。

辺りからは人々の叫び声、剣同士がぶつかる音、魔法の詠唱などが聞こえる。


「魔王…」

「もちろんだ、次に目覚めた時には全て終わっている。

【封印】」


そうだ、これで良い。

魔王、頼む…


ーーーーーーーーーー


「やってくれたな。」


暗い空間を漂っていると久しぶりに神と会った。

大体140回ぶりぐらいだろうか、前回会ったのはエイラと私しか人間が居なくなってから私の体を乗っ取り世界を浄化する為に魔族を虐殺した。


「なぜあの聖女にそこまで固執する。

そしてなぜお前は私の眷属、力を知っている?」

「諦めたのか、貴様らしくないな。」

「この世界は諦めるしかない。

私の眷属と能力のいい人間は居ない、憑依できる人類はもはやお前だけだが死にかけで魔王により封印されてる。流石に詰みだ。」


人の形をした光が首を振りやれやれといったように動く。


「どうせ私はこの世界に干渉できなくなるんだ、最後にお前の動いた訳を教えてくれないか?」

「エイラのためだ。」

「あの聖女の?」


神は意味がわからないといった雰囲気を醸し出している。


「私自身、何故こんなにも辛い思いをしてまで助けようとしているのかわからない。

ただ、私はエイラの笑顔が見たかったんだ…」

「そうか…」


神は考え込む様子を見せ、意を決したように話しかけてきた。


「私はね人類を愛していたはずだった。」


この一言を聞いた瞬間、私は一瞬信じられなかった。だがそこから話された内容はもっと衝撃的だった。


「今の君の一言で思い出したよ。

私もただ人類の皆んなが安心して過ごしてくれれば良かったんだ…」

「……」

「でも甘やかすだけじゃいけなかった、試練を与えないと人類は堕落してしまう。」


試練、魔王のことだろう。


「そして私は1人の眷属を作った。必要悪として私と対をなす、この世界限定の闇の神として。

そこまでは成功だった。

あの子は闇の象徴である魔王を作り出し、私は光の象徴を作るため1人に力を与え聖女が生まれた。」


此処までは少しだけ楽しそうに話していた。


「だがある時にこの世界の外、別の世界から神が攻めてきた。

魔王をわざと弱く作り聖女の旅を短くして私への信仰心を増やした。そうしなければ相手の神に勝てなかった。」


だんだんと苦しそうな声に変わる。


「その時気づいたんだ、私の力を強くしないと世界を守れないって…

それからはどうやって信仰心を増やし私の強化をするか、そればっかり考えていつしか聖女はただのシステムと成り果てていた。」


聖女として選ばれた少女達には申し訳ない事をしたと泣いている。

この様子では落ち着くまで時間がかかるだろう。


「全てを知ってる君には信じてもらえないと思うけどね。」


もちろん信じる事などできない。

それどころかエイラを利用するぐらいなら世界を他の神に受け渡せとすら思っていた。


ガタガタ


「そろそろ時間みたいですね。

最後に私の目を覚させてくれてありがとうございました。」

「…私は貴方を許す事はない、これから先も。」

「はい、私はそれだけの事をしました。

あの子が世界を継ぐと思いますし、協力してあげてほしい。」


空間の揺れが激しくなる。

此処は神と私の精神世界だから、私の体から神を追い出そうとすれば崩れるのは当たり前だ。




「さようなら…」


ーーーーーーーーーー


「お、起きた。

調子はどうだ?」


柔らかいベット上で目を覚ました私は魔王と目があった、顔同士が至近距離にあった。


「最高の気分だ、全て終わったんだな。」

「あぁ良くやったな、リサは本当に凄いやつだよ。」


早くエイラの元へ行かなければ!


「待て待て、その怪我で行くつもりか?!

自分の体をよく見ろ!腕と足にはギプス、身体中包帯まみれ、回復魔法を掛け続けないければ死んでもおかしくないぞ?!」


どうでも良い、どうでも良いんだ。

全て終わったとエイラに告げたい、止めようとする魔王より先にエイラの場所へと移動する為の言葉を唱える。


「【我の声 我の血に答えよ

エイラの元へ我を連れていけ】!」


転移した先では警戒用の魔道具が一斉にこっちを向くが術者と気づくと警戒を解いた。


「【解除】」

「…ん、んぅ?」


エイラを此処に何度もしまって、やっと次に進めた!

これでいい、全て全て終わった!


エイラと共に幸せに過ごせる!


「んん?!

すごい傷、リサさん一体何をしたんですか?!」

「おはよう、エイラ…」

「普通に挨拶ですか?!

…どうして泣いているのですか?」


エイラに言われて動きにくい手を顔に持っていくと自分が泣いている事がわかった。


「わからない、ただ悲しいんじゃない…」

「そ、そうなのですか?

って早く治療しましょう、血が滲んでます!魔力を使う許可をください。」

「【許可しよう】」

「【ヒール】【ヒール】!【治って】?!」


相変わらず可愛らしい、しっかり魔法名で発動してたのに最後にはただの単語で発動させている。

最初の5回ぐらいで治っているのに魔法を掛け続けているところもとっても可愛い。


「もう治ってるぞ。」

「本当ですね?」

「本当だ。」


あ、そうだ。

やっと約束を果たせる。


「エイラ…」

「なんでしょうか?」


あれ?

おかしいな、だった一言言うだけなのに緊張する。


「た、ただいま。」///


唐突な私の言葉に暫くキョトンとしていたが、意味を理解してくれたのか笑顔で言ってくれた。




「おかえりなさい、リサさん。」






*********************


こんにちは作者のノツノノです。

今回の作品である

『転生聖女様 目に光がない女騎士の奴隷にされる』

はこれにて完結となります。


最後は駆け足になってしまいましたが楽しく書けたので良かったです。

本当はもう少し続く予定だったのですが、なんか良い感じだったのでストーリー的には完結です。


この後は

リサが能力を手にした理由(多分書くはず…)

エイラとリサがゆる〜く暮らす話を数話更新して、過去描写は気が向いたら書きます。


後日近状ノートに色々とまとめて書こうと思います。


フォロー、応援、★レビューをしてくれた方々

本当にありがとうございました!



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