第18話 弱音
順番というのはとても重要だ。
1つでも前後してしまえば、その時点で私の知っていた未来とは完全に変わってしまう。
だから私は村を出てから、ほぼ大陸の端から端まで移動しなくちゃいけない。
この順番に辿り着くまでもかなり掛かった。
「此処が限界か…」
人類の限界を何度も突破している私でも、流石に休憩無しで長距離の移動は難しい。だが前回の検証より長い距離進めた事で計画の前倒しができる可能性が上がった。
「【ポイント】【ゲート】」
進んだ場所の座標を登録し、エイラの封印されているダンジョンへと戻る。
このポイントは何故か1日しか効果が保てない。
「破損している、予想以上に此処が見つかるのが早いな。」
防衛用のゴーレムの腕が少し破損している、予想ではまだ1週間ほど猶予があったのだが…
まぁいい、慌てるような事じゃないし修理すればいい話。
「神が本気?
いや、今までの経験を合わせると、偶然冒険者が紛れ込んだのか?」
はぁ…
いくら考えても意味は無い、もう今日は休もう。
ーーーーー
夢を見ている。
『〜〜〜♪』
懐かしい。
確かループがまだ1桁の頃だったか、夜中の湖でエイラが今まで聴いたことのない歌を歌っていた。
『素敵な歌ですね。』
『ふふ、ありがとうございます。』
その時の私は、魔王を倒す事を考えるよりエイラをどうしたら救えるのかをずっと考えていた。
魔王を倒しても1年以内にエイラは死んでしまう。
それどころか前回は魔王討伐の目前で回復できない毒を盛られてしまい、聖女のエイラが不在だったのにも関わらず、魔王は簡単に討伐できてしまった。
それを経験したからか、考えているとは言ってもほぼ何も思いつかずに心が折れかけていた。
『綺麗ですね。』
湖に月の光が反射し、さらにエイラの綺麗な銀髪がキラキラと煌めいている。
『えぇ、そうですね。』
『何かお悩みでもあるのですか?』
心臓を掴まれたかのような感覚だった。
『……』
『リサさん、私と初めて会った時の事は覚えてますか?』
覚えている。
他人の目を気にせずその場で崩れ落ち泣いてしまったのだから、エイラは焦って色々と話をしようとしてくれたが全て拒絶した。
『話してくれませんか?』
私は1人で抱えるのは限界だった。
だけど、この旅をするのがn回目なんて信じてもらえるのかわからなかった。
『夢で見たのです…』
少しだけ話を変えた、前の旅のことを夢で見たとして伝える。
『貴方を助けられなくて、また夢の通りになってしまうんじゃ無いかと怖くて…』
エイラは私の話を真剣に聞いてくれた。
酷い妄想、魔女の虚言、そう言われてもおかしくない話を真剣に…
『私も怖いです。』
そう話し始めたのは、私の話が終わり気持ちが落ち着くいたあと。
『静かに故郷で暮らしていたかった。
あの両親と暮らした山の中の家で、近くには何もないけど静かで自然の多い場所。』
繰り返してた中で初めて聞いたエイラの弱音だった。魔王が怖い、死ぬのが怖い、なんで私が選ばれたのかわからない…
その時、私は思い出した。
エイラはただの少女だったのだ、聖女だと選ばれ魔王討伐の旅に強制的に参加させられた。
普通なら恐怖で動けなくなってもおかしくは無い、それでも前に進むのはエイラが聖女としての責務を全うしようと努力しているからだろう。
『やっぱり話すと気持ちが楽になりますね。』
『えぇ、そうですね。』
この日初めてエイラの本心にに触れた気がした。
それがとても嬉しかったんだ。
『今日の事は2人の秘密です♪』
イタズラが成功した子供のように笑い、手を繋ぎながらテントへと戻った。
ーーーーー
「ん?強いな。」
幸せな夢を見ていた時間は唐突に終わった。
この空間に侵入者が現れたのだ。昼間ならともかく夜中、しかもゴーレムと互角に戦う存在。
「占い結果通りだ。」
「ここに聖女様が…直ぐに助けよう。」
入ってきた男2人組には見覚えがある。私が率いていた騎士団の騎士だ、そこまで強くは無かったし神からのサポートを受けているのは間違いない。
「そこまでだ。」
「「!」」
ゴーレムを下がらせて私が声を掛けると、驚いたようで振り向く。
「ーーー隊長?!
何故此処に、まさか隊長も聖女様の救出に来たのですか?」
「あぁ、そうだ。」
「今まで何処に…」
「私はエイラを救うつもりだ。だけど貴様らとは違う方法だがな。」
油断している隙に剣を抜き2人が反応できない速度で首を切り付けた。
「呆気ない…」
この空間から亡骸を出そうとした時、呪いが発生した。効果はメンタルを揺さぶりつずける物だが、私の耐性で継続的な効果はなく一時的な物になる。
「ダメだ、今エイラに会うわけにはいかない…!」
弱い心が私をエイラの元へ連れて行かせようとする。私のやった事、やろうとしてる事に嫌悪を感じてしまう。
私は自分でこの道を選んだんだ!
今更後悔するなんてあり得ない!
意思のない筈のゴーレムが私に近づいて、慰めるように近くにいてくれた。無意識に指示を出していたのかもしれないが、近くにいたゴーレムのおかげで少し暖かかった。
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