第19話 貴族を
時間を想定以上にロスしてしまった。
「【ヘイスト】!」
現在は昼過ぎ、予定ではもう着いていたかったのだがこのペースだと夕方になってしまう。万全を期すために目標の動きを把握しておきたかったのだが、時間が無い。
今晩を逃すと計画を全て変更しなくちゃいけなくなるのもあって、ぶっつけ本番だ。
性格が終わっているが力だけはある貴族、少しでも隙を見せれば負けてもおかしくない。
そして、神が守ろうとする人間の1人。
私には神の思考が理解できない、一体何を目的にしているのかを調べた回もあったが全くと言って良いほどわからなかった。
僅かな情報からの予想だが、
神は人類に試練を与えて、それを聖女が解決するのを眺めているのではないかと思っている。聖女はその為だけの道具で、その後はどうなろうと別に良い存在なのだろう。
「聖女が神に愛されているのならば、あんな性格の人間の物にするわけがない…!」
ーーーーー
全てがうまくいったと思った回だった。
魔王を倒し、パレードを終え、エイラは教会で暮らす事が決まり、これ以上ないほど全てが噛み合ったと信じていたんだ。
『ーー卿の所へですか?』
『はい!
私宛に病気で領から出られない娘の為に会いに来てくれないか?って手紙が来たんですよ。』
エイラに手紙を送ってきたのは貴族の中でもトップクラスの実力者、それは攻撃系の魔法のみならず回復、支援、防御、など様々な魔法を使う事ができる。
魔王討伐の際には、魔王軍の残党1万を5時間で殲滅した。聖女の一行の影に隠れてしまったが、間違いなく英雄だ。
『では共に行きましょう。』
『はい!』
これから向かう領地は辺境にある。
なぜ王都の近くではないのかと言うと、あまりにも力が大きすぎるため自ら辺境に移動したとのこと。
海に面しており、海鮮系の食材がとても美味しいと旅行先に人気の場所だ。
『そうなんですね、とても楽しみです。』
あと1日で着く距離まで移動したところでエイラにどんな場所なのか問われ、私が知る限りの情報を話していく。
本当に平和で幸せな時間だった。
街の中に入り、貴族の屋敷に向かっている馬車の中。
外からは焼き魚のいい匂いがする。
『魚とか、食べちゃダメですか?』
『…後で内緒で用意しましょう。』
『本当ですか!
ありがとうございます!』
この時点で私はエイラに甘かった。
ひっそりとパンを用意したり、真夜中に教会を抜け出して遊んだり、と聖騎士としてはあり得ないことばかりしていた。
まぁ私に後悔や罪悪感は一切無かった。
エイラが楽しんでいる姿を見れる事が私の幸せだったから。
『聖女様、到着いたしました。』
『では行ってきますね!明日の夜に此処で合流しましょう!』
『気をつけてくださいね。』
『はい!』
…………
…………
……どうして?
確かに違和感はあった。
私以外の護衛の騎士達が教会に呼び出されたり、突如として行方不明になったりして最終的には私1人で迎えに行くことになった。
『聖女様のお迎えの方ですな。』
『あぁそうだが、聖女様はどうなされた?』
『中でお待ちです。
荷物もございますので付いてきて頂けますか?』
『わかった。』
無駄に広い屋敷だ。
だがおかしいな人の気配がしない、全くしないわけではないのだが、この屋敷の維持に必要な人数には足りない。
『こちらです。』
そう案内された部屋、気配を探れば2人分の気配がする。1人がベットで横になり、隣に椅子で座っているもう1人。
『失礼します、聖女s……』
部屋の光景を見て私の言葉は途切れた。
『あ、りさだぁ。かえるのぉ?』
これは、一体…
椅子に座っていた少女の着ている服には大量の血がついていた。
『もう十分楽しんだから持って帰っていいよー!』
『なぜ、このような…』
『私が楽しんだから!
聖女って頑丈なんだね、壊す勢いでやってたのに精神はともかく肉体の原型が残ってるの、不思議だなぁ。』
戦いの中で傷を負うことはあったが、エイラがこんなに傷だらけの姿は初めて見た。
『あ、自己紹介が遅れたね!私が聖女をここに呼んだ、ーーー家当主だよ。
貴方もかわいいね、良かったrーー』
最後まで聞くことなくエイラを抱えて走り出した。
1秒でも早くこの街から離れようと全てを無視して走り続ける。
『すごいすごい!はやい!』
幼い子供のようにコロコロと笑っている。
走り続けて辿り着いた場所は、森の中にある綺麗な湖だった。
安心したのか私の体が力が抜ける。
『大丈夫ですか?
湖がとても綺麗ですよ…』
そう言ったあとエイラの様子がおかしいのに気づいた。
エイラの目は何も見ていない、目を瞑っているわけではないのだが目の焦点が合っていない。
体が一気に冷えたのがわかる。
『ずっと暗いんだ…
眠いなぁ…』
『なん、なんで…』
『おうちにかえりた、い…』
これがこの回のエイラが言った最後の言葉だった。
ーーーーー
そろそろ着く、夕方までに着けるとは思わなかった。
「門を閉じろー!」
早いな、やはり神が動いたか?
あの騎士達による足止めで神が私を異物だと認識したか、神の戦力である存在を早く殺さねば。
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