第17話 病の村

顔を隠した騎士の女と商人の男が馬車に乗りながら話していた。

話の内容だが、男はなんとかして女が向かう村に行かせないように説得しているようだった。


「お客さん本当にいいのかい?

今あの村に行くのは正気とは思えねぇ、村の近くまでなら送るがその後は歩いてくれよ。」

「あぁ、それで構わない。」


この男もしつこいな。

魔物から偶然助けてやっただけなのに、これから人類を滅ぼそうとしてる私にこれだけの恩を感じるとは。


昔の私なら同じようにしただろう、だがもうエイラ以外がどうなろうがどうでもいい。


「俺が連れて来れるのはここまでだな、魔物から助けてくれて感謝するぜ。」

「あぁ。」


馬車から降ろされた場所は村までは歩きで後1時間はかかる。

だがこれでも村に近づいた方で街で、馬車を探しても目的地があの村と言った瞬間に間違いなく断られていた。


「走るか、【ヘイスト】」


あの商人に送ってもらうより走った方が早い。

それでも助けたのは今の情勢を知るため、どんな事が起こるか知っていたとしても、僅かな差から全く別の未来に変わる可能性もあるからだ。


今の所は変わりはない、強いて言えば教会が少しピリついているぐらいだろう。


「ひ、人だ…商人さん…?」


村の前で倒れている子供。熱があるのか汗を沢山かいていて息が荒い。

確かこの子は薬を求めるために、村の入口で商人が来るのを待っているんだったか。


「残念だが私は商人じゃない、だが君達を楽にする事はできる。」


私を見上げてお礼を言おうとする子供。

それに対して私は、


「ありがーー」グシャ!

「恨んでくれ。」


きっと今の私を見たらエイラは悲しい思いをするのだろう。

だけど私はこの道を行くと決めたのだ。


ーーーーー


『【パーフェクトヒール】』

『おぉ奇跡じゃあ…』

『『『ありがとうございます聖女様!』』』


予知夢を見た私は聖女様に直談判し、旅の初めの目標をこの村に変えてもらった。


夢の中ではこの村の生き残りは1人だけ、それも幼い子供でその子は自分だけ助かった事で心を病んでしまったのだ。それをなんとか変えたいと思った。


『病の原因を調査しましょう。』


夢と違うことが起こった。

前回は子供を助けて直ぐに村から離れた、だが今回は原因まで調査するという。


『これは普通の病じゃありません、魔法で調べましたが見つかったのは王都でも度々見られる普通の病、死に至るほどの病ではなかったんです。

ただ極端に魔力が減っていました、まるで何者かに食べられたように…』


騎士達の間に緊張が走る。

皆この事件に魔王軍が関与してるのではと思い至ったのだ。


『しばらく村に滞在します。

騎士達は集団行動を意識して、気をつけて行動してください。』

『『『はっ!』』』


一斉に村中に散会する騎士達は皆警戒している。

此処には聖女であるエイラが居る、魔王軍がいつ仕掛けて来てもおかしくない。


『私も探してみますね、少し集中するのでリサさん周辺の警戒は任せます。

【エリアサーチ】』


誰もが長期戦を覚悟したが原因は呆気なく判明した。


『ふむふむ…

全くわかりません!』


聖女様が少し離れると言って出歩いてから帰ってきた時に持っていた宝石、これが元凶らしい。

直ぐに破壊しようと意見が出たが誰も破壊できず、聖女様の鑑定でも正体がわからなかった。


『逆転の発想で魔力を込めてみます?』

『それは危険です!』

『確かに危険なんですが魔力を吸う状態では持ち歩く訳にもいきません。

破壊することも出来ないですし、魔力を容量いっぱいになるまで流してしまえば良いのではないかなと思いまして。』


聖女様は自分の身を切って無理をする方だとは思ってましたが、心配で倒れそうになる騎士達の事を少し考えて欲しいですね。


『万が一があるので離れてください。』

『いえ、我々は聖女様のお近くに。』


仕方ないですね、と笑い宝石に魔力を込め始めた。


宝石の色が灰色から鮮やかな青色に変わっていく、それと同時に神聖な雰囲気を感じ取る事が出来るようになった。


『わっ!』


カッと強い光が出て宝石は美しい輝きを取り戻した。


『聖女様、これは一体…』

『……』


宝石を凝視している、どうやら鑑定をしているようだ。


『ふふ、皆さんこの宝石は神様からの贈り物らしいです。』


鑑定結果を説明してくれた。

効果は魔法を1つ登録する事ができ、登録した魔法は詠唱を完全にカットしてノータイムで連続発動させる事ができる宝石。


製作者の所には我等の神の名前が入っていたそうだ。


『おめでとうございます聖女様!』


騎士達が盛り上がっている、もちろん私も。



ーーーーー



「やはり此処にあったか。」


村にある1つの家、そこの地下室の中心にある台座の上に灰色の宝石が置かれていた。


「神の作った物など要らない。

あの時エイラを裏切り殺した、私はそれを許さない。絶対に殺してやる、せいぜい首を洗って待っていろ。」


バキ!


エイラですら破壊不可能だった宝石は、魔王から貰った魔道具を使うと呆気なく粉々になった。


「次だ…」




自分が情けない。

宝石が良き戦力になると知って喜んでしまったんだから。


何故かって?


それはこの宝石が村人達の命を奪っていた事を私達は忘れていたからだ。

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