第16話 負けている

「あの魔道具は人類壊滅作戦の要、あの人間に与えて宜しかったのですか?」

「あぁ、問題はない。

貴様にも教えてやろうか、奴がどんな道を歩んできたのか、その始まりを。」


リサが去った魔王城で四天王と魔王が話している。

魔王は楽しげだが、四天王は不安そうな顔を隠しもしていない。

 

「そうだな、奴が聖女と共に私に勝った時の話でもするか。」 

「勝った…?

それはいったいどういう…」


「それも私の話を聞けばわかる。」


ーーーーー


『いよいよですね。』


ついに魔王城前、此処まできた。

私も他の騎士達も何度死にかけ、何度エイラに救われたかわからない。


特に四天王達との戦いは瞬きをしている間に殺されていてもおかしくない程に、危険で強い恐怖を感じていた。

だが奇跡的にも旅のメンバーに死者は居ない、エイラの回復魔法がとても強力で、死にかけた者は三途の川を見て帰ってくるからだ。


『補助魔法をかけていきます。

【リジェネ】【ヘイスト】【ストレングス】…』


エイラが今まで得てきた全ての補助魔法、しかも聖女が使うとなると効果は通常の倍。普通の村娘ですら国の騎士団員程度なら倒せる様になる。


『行きましょう!』

『『『おおぉぉぉぉぉ!!』』』


魔王軍には四天王以外の戦力も揃っていた、魔王城の中には強い魔族がいくつもの防衛ラインを作り私達の進撃を拒んでいた。


『【ホーリーランス】!』

『聖女様の魔法でラインが破れたぞ、突撃!』


『此処は絶対に守るぞー!

魔王様の元へは行かせるな!』

『『『おおぉぉぉ!』』』


魔王の元へ辿り着いた時には、皆の魔力はギリギリの状態。

まともに戦えるのはエイラだけ。


『よく来たな…』


椅子に座りながら話す魔王からは諦めの感情を感じる。


『皆の者!

全てを振り絞って魔法を放つのだ!』


誰かが言って、各々が使う事のできる最強の魔法の詠唱を始めた。


『待っ…』


全員の魔法が放たれ、魔王に全て直撃した。

誰も違和感を覚えず勝利を確信、だけどエイラだけは魔王の居た場所を見つめている。


『…どうかなさいましたか?』

『魔王はきっと…』


砂埃は晴れたが魔王の身体はなかった。


『聖女達よ、よくぞ魔王討伐をやり遂げた。』


頭に神の声が響く、体が辛いながらも全員祈りを捧げ始める。

もちろん私も。


『全員を我が神殿まで移動させよう。

聖女とは少しだけ話があるゆえ、帰還が遅れるが心配することはない。【転移】』


神殿に戻った私達は教皇達に出迎えられ、少し遅く帰ってきた聖女は民達の歓声に囲まれながらスピーチを行ったそうだ。


私は転移されたのと同時に気絶してしまったから詳しくはわからない。


旅が終わってからの1ヶ月間はとても忙しかった。

聖女であるエイラは勿論、旅に参加していた騎士達も英雄として各地を回っていた。


『ん?』


ガサガサ


真夜中、警備の者は居るが殆どの棋士が寝ている時間。

隣のエイラの部屋から物音がする、侵入者か?


『【バインド】!』

『きゃあ!』


部屋に入るのと同時に音が聞こえる場所に向かって拘束魔法を発動。

見事命中、だが聞こえたのはエイラの悲鳴。


『な、なんですかこれぇ…』

『すいません!

こんな夜中に物音がしてたので侵入者かと…』


私の魔法に捕まったエイラはいつも寝る時に着る服じゃなく、顔と髪を隠せるローブを着ていた。


『どこかに行く予定でも?』

『え、あ…えっと…』

『……』


『うっ、外に行こうと思ってました…』


軽く圧を与えるように微笑むと正直に答えてくれた。


『なぜそんな事をしようとしたんですか?

もう神殿に帰るだけですよ。』

『…怒らない?』

『わかりました、怒りませんので教えてください。』


時々途切れながらも説明してくれた。


要約すると、魔王を討伐したしそろそろ自由に暮らしたい。そして森の中で余生を1人静かに暮らすつもりだったと。


『私達には聖女様が必要なんです。

そんな事、言わないでください…』


『私は怖いの…』


エイラは私の言葉を聞いて考えていたが、弱音を私に話してくれた。


『聖女の役割は魔王の討伐で、それが終わったら私は用済みなんじゃないかって。

どんな風に扱われるんだろうって、何処かの国に嫁ぐとか、回復魔法を使うだけの存在になるとか、私という個が完全に消えるんじゃないかって不安なんです。』


何も言う事ができない。

私はそこまで頭が良いわけじゃない、エイラはエイラで聖女であることは変わらないし、個が消えるって言うのも難しくて意味がいまいち理解できない。


『私をいかせて。』


本気で懇願される。


『私はーー』


グサッ


私のエイラの考えを支持するというか言葉は、何かが刺さるような音で止められた。


『あ、ぇ…』

『エイラ…?』


エイラの胸元から血が出ている。

背後から刺されたのか、私に向かって切先が飛び出ている。

そして私もエイラも誰の気配も感じておらず、急に剣が飛び出てきたとしか説明のしようがないのだ。


『直ぐに治療を…』

『何事だ!せ、聖女様!』


騎士達が近付いていることすら気付かなかった。

動揺していたとはいえ、大人数が近づいてくればわかるはずなのに。


『…何をしているんだ、奴を捕えろ!』

『待て!その前に治療を!』

『うるさいぞ!聖女様の敵だ!』


なぜだ、なぜ皆が私を攻撃する。

いや状況だけ見れば仕方ないが、なぜ誰もエイラを治療しようとしないんだ。


『ーーーーーー』


私の意識が途切れる瞬間、エイラが私に向かって何か話していた、何を伝えたかったのかは永遠にわからない。



『あっ、ーーーちゃんですか?!』


意識が急にハッキリとする。

此処は聖女としてのエイラと初めてあった1室、そして初めて言われた言葉。


『どういう事…』

『お久しぶりです!』


夢か?


『グエッ…

ど、どうしたんですか?』

『生きている、生きているんだ…』


あれは予知の類だったのか?

正体はわからないが、知っていれば対策できる。


エイラを守らないと…



ーーーーー


「…つまり、何度もやり直していると?」

「その通りだ。

奴には本当の意味では勝てんし、敵対より協力した方がいいのだよ。」


信じられないと考えているのがわかる。


「どのようにしてそんな力を…」

「予想だが、1度目の聖女が何かしたのかも知れないな。」


魔王と四天王はリサが敵対しないで良かったと心の底から思うのだった。

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