第2話 聖女とは

教会が所有する接待用の大きな屋敷、そこには聖女の私を見ようと集まった他国の王族と護衛が集まっていた。


「この度は集まっていただき感謝致します。」


怖い…

前世の上司の数倍は圧を感じて、体が震えそうになる。


「初めまして、私は新たな聖女エイラと申します。

皆様の、そして人類のため魔王を討伐する旅へ出ます。王族の皆様には魔王を討伐する手伝いをしていただきたいと考えております。」


王族、特に王子達からはギラギラした眼で見られる。

神に愛された聖女と言うだけで王族にとっては価値がある、もし妻として迎えられれば…などと考える者も少なくない。


「もちろんです。」

「ええ、人類のためですからな。」

「同じ人類で争っている場合ではないですとも。」

「和解をせねばなりませんね。」


(嘘つけぇ…

そんな目で牽制しあってるのに、信じられるわけないじゃん。)


「感謝致します!」


そんな心の声は無視され、私は感謝の言葉を述べるのだった…


それから始まったのは王族達の挨拶。

王と王妃への個別の挨拶は私からで、王子と王女は逆に来てもらう。


皆様子をしていたのか、名前を名乗って少し話して離れていっていたのだけど…


「エイラ殿、ぜひ我が国にいらして下さい。

この時期は希少な果物が美味しいのですよ。」

「そうなのですね!」


ち、近い…

最後の最後でめんどくさい奴だった。


あまり良い噂を聴かない国の王子。王子自身は好き勝手してるとか悪い噂が多い。


「えぇ、王族の所有する湖もとても綺麗でーー」

「兄様、あまり長く話しては聖女様にご迷惑になりますよ?」

「…そうだね、失礼いたしました。」

「では聖女様、また機会がありましたら。」

「はい、また話しましょう!」


だけど王女様は純粋に私を慕ってくれている感じがする。

もちろん裏はありそうだけど。


「お疲れ様です聖女様。

軽くつまめる物をご用意致しました。」

「ありがとうございます!」


小さく切られた果物を食べ、水を飲む。

聖女が食べていいのは野菜と果物だけ、肉は絶対に食べさせてくれなくなった。


(あそこにあるお肉美味しそうだなぁ…)


肉とかパンを食べなくても健康に生きていける。

極端に痩せたり太ったりする事もないけど、お腹は空くし食べたい欲求も湧く。


(一応気遣いはできるんだなぁ。)


朝から動きっぱなしなのを知っているからか、遠巻きで見つめては来るけど話し掛けには来なかった。


「お代わりをお持ち致しますか?」

「そうですn……え?」

「聖女様、どうかなさいましたか?」

「……」


嫌な予感がする。

逃げようとし過ぎたせいで出力を抑えられてた魔力も完全に使える様になっているし、どんどん心拍数が上がっている。


「…何か来ます。

全員!その場から動かないで下さい!」


すぐに会場に結界を張る。


「聖女様なにがあったのですか?」

「嫌な予感が、嫌な物が近づいて来ています!」


ガシャガシャ


扉の先から鎧が擦れる音、かなりの大人数だ。


「おや、流石は聖女、我々の接近に気づいて既に結界を張っているとは。」

「…どなたですか?」


扉を開けて話しかけて来た集団は、顔まで鎧で隠して正体がわからない。


「申し訳ないが答えられない。

我々の要求は、聖女の身柄。」


私?!


「なっ!

そんな事ができるわけないでしょう!」


そうだそうだ!

制限のついてない私の結界をお前らには破れないぞ!


※現在エイラは嫌な予感を強く感じて少しおかしくなっております。


「此方が差し出すのは…」


集団がずた袋を被された3人組を連れてきて。

服装から察するにあの3人は…


「今回集まった中でも力を持つ3国の皇太子の命だ。」

「「「!!!」」」


なんであの3人は会場から外に出てしまったんだ。


「さぁ、答えを聞きましょうか聖女よ。」


嫌な予感が的中してしまった。

あの集団が私を狙う目的はわからないけど、少なくともまともな事じゃない。


裏で奴隷売却ルートとか余裕であり得る。

勉強で裏の事も学んだ、権力者が絡んでたりもするからかなり危険だと教えられた。


(まぁ、どうせ逃げられるだろうし…)


「私が「聖女様を犠牲になんて、そんな事受けれる訳がないでしょう?!」!」


横に居たシスターが庇ってくれた。


「そうか残念だ。では1人目…」

「聖女!

我が国がどれだけ教会に支援したと思っている!早く犠牲になれ!」


1人のトップがそう言ったのを皮切りにあちこちから同じ様な声が上がり始めた。


(やっぱりこの世界は…。)


圧政に続く圧政で苦しい思いをしてる民が多い事は知っていたし、沢山ある国の殆どが同じ状態である事も知っていた。

だけど…


「せ、聖女様…」

「…短い間だったけど、ありがとう。」


世界の事情を教えられて助けようって思った覚悟が萎んでいく。

良い人も居るのは知っている、でもこんなに王しか居ない世界なんて私は助けたくない。


だけど聖女としての在り方がその考えを許さない。


「私がそちらに行きます!」


なんで神が聖女なんてシステムを作ったのか疑問だった。


詳しく調べれば、魔王とは特定の個人を指す物では無く、人類を滅ぼそうとするナニカである。

それは病、災害、強力な魔物、そして反乱などの人が起こしたことまで。


だけど、それらは全て人類の手によって対処可能だったのだ。


過去を振り返ると、病なら薬を作り出し回復魔法で癒していた聖女は必要なくなっていた。

その聖女は必要無いと言われ、後に行方不明となったらしい。


他の事象も殆ど同じ。

王族と結婚するか、行方不明か、

戦場での死か、罪がバレての投獄か、

解決すればなんらかの形で表舞台から消える。


つまり聖女とは、


「魔封じの首輪これを付ければ如何なる存在も魔法を使えなくなる、さぁ付けてもらおう。」

「わかりました…」


魔王への対処療法であり、原因療法が確立するまでの時間稼ぎ犠牲なのだ。


ガチャリ

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