第1話 聖女発表

神官でも一部の者しか入る事を許されない神殿の最奥、そこには貫禄のある教皇と数人の枢機卿が14歳ぐらいの少女を囲うように椅子に座っていた。


カタカタ…


少女は可哀想なほどに震え萎縮してしまっている。

平民の格好をしていることからもわかるように、街からほぼ誘拐同然で連れて来られ教会のお偉いさん方に囲まれる。

きっと処刑されるのだと思ってしまってもおかしくない。


「エイラよ、我等の神から神託が降った。

聖女として魔王を打ち倒す力を授けた、との事だ。」

「「「おおぉぉぉ!」」」


皆が素晴らしいと言って安心される為にも笑顔を見せるが、少女の震えは止まらなかった。


「1週間後に発表とさせていただきます。

それまでは神殿でゆっくりとお休みください。」

「は、はい…」


何故少女がここまで怖がっているのか、

それは少女が特殊な事情を抱えていたから。


(もう働くのやだぁ…

山小屋に帰りたい、1人でのんびり暮らしたいのに…)


新卒から家に帰れるのは1ヶ月に1回というブラック企業に15年勤めて、最後は交通事故で亡くなった前世を持っていた。


異世界に転生して14年、両親は共に亡くなってしまったが1人山小屋でのんびりと生活していた。

転生した者の特権ともいえるチートのような物も持っており、魔物や山賊に襲われる心配も無かった。


もちろん辛い事と苦しい事も経験したが、何とか乗り越え、このままゆっくり人生を楽しむのも悪くないなと思っていたのだ。


街に調味料を買いに行ったあの日までは。


「教皇様、聖女様は作法の勉強がございます。」

「あぁ、そうであったな。

ずっとゆっくりはできなかった申し訳ない。」

「なに、聖女様なら作法も直ぐに完璧になられる。」


(うぅ…

チートは有難いけど、物語の主人公になりそうな聖女は要らないのに。)


聖女は神官の中でもトップクラスに位が高い。

忙しいのは間違いないが、ここで断ろうものなら


『神に選ばれたと言うのに!』

『処刑いたしましょう!』


と、なるかもしれない。


(さよなら、のんびり生活。

こんにちは、忘れかけてた寝不足生活…)


今世の両親が亡くなってしまった日に迫るほど、今日は嫌な日になった。


「シスター達がお世話致します。

皆口が固く、心優しい者しかおりませぬ安心してくだされ。」

「ありがとう、ございます…」


出来るだけ低姿勢で最奥から出ると、外にはシスター2人がニコニコしながら待機していた。


「お待ちしておりました聖女様。」

「湯浴みの準備ができております。」


こうして聖女として勉強の日々が始まった。


ーー1週間後ーー


「新たな聖女が誕生した!!」

『『『わぁぁぁぁぁぁ!!』』』


はは…

私はこの1週間、みっちり勉強させられてた。


聖女としての作法

聖女としての心構え

聖女としての魔法

聖女として……


毎日毎日、聖女聖女聖女。


(辛かった…!)


途中何度か逃げ出そうとはした。

だけど、私の在り方を聖女として、世界を管理してる神に固定させられたせいで聖女の勤めから逃げられなかった。


チート使って気配0にしたのに見つかるし、実力行使で逃げようとしたら魔力が剥奪される。


クソゲーかな?


結局この1週間は逃げられなかったし、聖女が魔王を倒さないと世界が滅ぼされるとか聞かされて、どちらにせよ逃げられなかった事を察したよね。


「聖女を大きな拍手で迎えるだ!」


(ははっ…)


あまりの大歓声に思わず心の中で乾いた笑いがこぼれる。


「ご不安ですか?」

「えぇ、少し…」

「ご安心下さい。

聖女様を悪く言う人は居ませんし、それほど美しい金色の髪を持つのは神に認められた証です。」

「そうですか…?」


聖女になったのがバレた理由の1つである髪色。

私の髪色が急に街中で茶髪から金髪に変わったんだ、異世界の街も意外とナンパとかが多いから、目立たないようにローブを被ったりしてたのに光りながら変わったせいでバレた。


切るのが面倒だからって伸ばしてたのが間違いだっんだ、短ければなんとか誤魔化せたかも知れないのに…


「じゃあ、いってきますね。」

「「はい、聖女様。」」


シスター達を置いて廊下を歩き始める。

だんだん目から光が無くなって無表情に変わる。


「はぁ…疲れたな…」


だけど外に一歩踏み出した瞬間、無表情だった顔が変わり柔らかい笑みを浮かべた。

これが聖女としての在り方、聖女に相応しくない行動は人前では一切取れなくなり言葉遣いも矯正される。


「聖女エイラ、神に選ばれし人類を救う救世主となられたお方だ!」


さぁ前へ、と教皇が目を向けてくる。


「聖女よ、民へ一言。」

「わかりました。」


言葉は飾らずシンプルに、


「必ず魔王を撃ち倒し、世界に平和をもたらす事を誓います。」


『『『わぁぁぁぁぁぁ!!』』』


そう言ってからは優しく微笑み手を振り続ける。

ちなみに私は全く体を動かしてない、これも勝手に動いてる。私が動かそうとすれば動くけど、やっぱり聖女らしい行動じゃなければ動かない。


日が沈み始めた頃に発表は終わり、やっと休めると思ったのだが、


「この後は他国の王族と顔合わせ、その後には会食になります。」

「わかりました!」


(ゆっくり食べたい…)


まだ休めないようだった…

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