第13話 私の

『あ!もう暗くなる時間!

そろそろ帰ろう!』


楽しい時間はあっという間に過ぎ、

そこまで考えて私がエイラと過ごす時間が楽しいと感じでいることに気づいた。


『そうね…』

『明日の、お昼食べたあと此処でまた会える?』

『わかったわ。昼の後ね。』


帰ったら着替えて、軽くメイクして、他の貴族達とつまらない会食かぁ。


『じゃあまたねー!』

『また…』


それにしても少し遅くなっちゃった、多少の小言は覚悟したほうがいいかもしれない。


『ーーー様!』


私の名前を呼びながら走ってくる人影、私のメイドとお父様の執事ね。

何か問題があったのかしら、時間的にはまだ余裕があるけれど。


『なに?』

『ーーー様、外へ出るのは構いませんが、先に伝えていただかなければ困ります。』

『そうね。』

『それに普段ならもう帰られているはずなのに、帰られていない事で少し騒ぎになっております。』


小言がうるさいわね。

いい気分だったのが最悪の気分に変わっちゃう。


『私に意見するの?

簡潔に言えばいいでしょう、それに今から帰る予定だったのよ?』

『…かしこまりました。』


その後の事はあまり覚えてない。

しっかり会食には出てキチンと受け答えはしていたけど、どうしてもエイラの事が頭から離れなかった。



『ーーー、気に入った平民でも居たのか?』

『!』


御父様はそう聞いてきたのは朝食を食べている最中だった。


『昨日屋敷に帰ってきてから何処か上の空だったからな。

あぁ、会食ではちゃんと対応していたし怒るわけではないから安心しなさい。』

『…はい。』

『それでどうする?

その平民をーーーの奴隷として連れてくるか?』


エイラを私の奴隷に…

朝私を起こすエイラ、気を遣わずに話ができるエイラ、夜は眠くなるまで一緒に過ごす、少し想像しただけで毎日が楽しくなる!


『父上、ーーーに奴隷あげるなら私にもくださいませんか?』

『ダメだ。お前は奴隷を持っているだろう?』

『遊んでいたら壊れてしまったんです。

初めての奴隷で加減がうまくいかなくて、今度こそは長持ちさせるので。』

『ダメだ。』


壊れる?


『おや、ーーーは知りたいのかい?』


私の想像が上手くいってないのを察したのか、お兄様が優しく微笑みながら解説してくれた。


『僕がもらったのは女で痛みを我慢する姿がとても素敵だったんだけど、加減が上手くできなくてーー』


お兄様の話を聞きながら、その壊れた奴隷がエイラだったらと考えて…


『すまないーーー、食事中に話す内容じゃなかったな…』

『いえ…』


今私の顔は蒼白になっているだろう。

お兄様が奴隷をどう扱うか聞いて、脳内で私とエイラに切り替えてみたんだ。


でも全く楽しくなかった。


それどころか苦しくて、エイラが泣いてしまうのを止めたくて…


『ふむ、皆今日も励むように。』

『『はい。』』


奴隷の使い方ってそれだけなの?

エイラとの約束の時間まではまだかなりある、本邸と違って本が少ないけど調べる事ぐらいはできる。


『奴隷、奴隷…』


【奴隷の歴史】


この本を読めばわかるはず。

表紙は文字が掠れて、かなり古い本だ。


『奴隷の扱いについて…

貴族の使い方、痛めつけてストレスを解消したり、慰安目的での使用がほとんど、稀に実験台にされる事もある。

基本的には奴隷は1年で捨てられる。』


目次でそれらしき場所を探し、此処まで読んだところで私は本を閉じて棚に戻す。


そして理解した事、私はエイラを奴隷にしたく無いって事。それだけでなく私は貴族がどれだけ酷い事をしていたかを理解した。


でも、それを私が理解できたのはエイラのおかげだ。

エイラが居なければ奴隷の扱いについても対した感想は出なかったし、もしかしたらやってみたいとか考えていたかもしれない。


『ーーー様。』

『…!な、なによ。』


御父様の執事がなぜ私の後ろに、気配を消してたの?!


『貴族をお辞めになりたいですか?』

『……』


貴族は土地を国を守り、そのことに誇りを持つ者だと思っている。


平民の扱いが雑なのも、我々が守ってる土地に住んでいるんだから当たり前だと思っていた。

だけど平民が居なければ国など成り立たない、その事にやっと気づけたんだ、同時にこの国の貴族がどれだ腐っているのかも。


『お父様に告げ口するの?』

『そんな事は致しません。』

『本当ね?』

『本当です、お嬢様。』


『辞めたいわ。』


これは間違いなく私の本心。

貴族の在り方は数100年単位で変わっていない、このまま貴族家当主となったとしても意識を変える事は不可能だろう。


『私の独り言ですがな、貴族や王族が唯一手を出せないのは教会です。

特に今いる街にある大きな教会は力が強く、難民や避難者を受け入れておりますよ。』


教会、聞いた事がある。

お父様もお兄様も教会に対してイライラしている様子だった。


『爺、ありがとう。』

『…はて?』


惚けている、お礼はいらないという事だろう。

私の部屋に戻り、できるだけ動きやすい服に着替える。


『お嬢様、ご武運を…』


今思い返せばこの時の私は子供だったなと思う。

衝動的に貴族の位を捨て、教会に入るなんて普通ならあり得ない、この考えに至ったのはエイラのせいだけど恨む気持ちなんて少しもない。


『まさか、目が覚める貴族が居るとは思っても居ませんでしたよ。』


保護してくれた教会の人が言った言葉。

私の家が高位の貴族だった事もあって、直ぐに街から出ることになった。


結局その日はエイラと会えなかった。

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