第14話 始まり

それから私は教会所属の騎士として育てられる事となった。辛い事も多かった、ただの貴族の娘が急に剣を持てって言われても持てるわけない。

だけど同世代の友人が出来て毎日頑張って、貴族の屋敷にいた時より充実した生活。


騎士としての勉強中、洗脳魔法という人の意思を捻じ曲げる魔法の存在を知る。

一瞬、私が変わったのはエイラがこの魔法使ったんじゃないかとも考えた。よくよく思い返せばエイラとの時間は少しだけだったのにも関わらず、私にかなりの影響を与えていた。


『洗脳魔法の形跡?【サーチ】…

安心しなさい、無いわよ。』


エイラを信じてなかった訳じゃ無いけど、私で決めた事なんだってわかって安心した。


『ーーー、こっちに来なさい。』


そんな生活の終わりは唐突にやってきた。


『シスター何があったのですか?』

『教皇様が貴方とお会いになるそうです。』

『教皇様が?!』


ただの騎士が名指しで呼び付けられるなんて普通じゃない。


コンコン


『入りなさい。』


静かで優しく安心感を与える声、だけど私にはとても恐ろしかった。


『失礼します…』


私を見て微笑んでいる教皇様。


『こんにちは。

早速なんですがーーー・ーーーーさんで間違いありませんね?』

『はい、そうです。』


緊張でガチガチになっているのを察した教皇様は、わざとらしく大笑いして話し始めた。


『そんなに怖がる必要はありません。

私は貴方を教皇直属の聖騎士として迎え入れたいと思っているのですよ。』

『私をですか?!』

『まぁ事情があるのですが、簡潔に言います。

貴方の父親が貴方を全力で探しています。』


御父様が私を?

私が教会に来てから3年、とっくに御父様は諦めたとばっかり。


『詳しい事情はわかりませんが、最近になって探索が活発になってきました。

ーーーさんには名を変え顔を隠してもらいたい。』


名前を変える、顔を隠すのは騎士になれば基本的に鎧を付けて隠せるから達成できている。


『私に近い聖騎士なら貴族になら強く出れる。

もちろんーーーさんのしたいようにはするつもりで、最大限サポートしようと思っています。』


教皇様の申し出はとてもありがたい。

だけど、


『何故そこまで私の為に動いてくれるのですか?』


今の私はただの騎士、貴族としての地位も名声も富も何も無く。わざわざ教皇様が私を気にかける意味がわからない。


『私はね、貴族を恨んでいる。』


その言葉は、心優しいと評判の教皇様が言った言葉とは思えなかった。


『姉がいたんだ。

それはそれは美しく、村の男達は皆婚約を申し込むほどでね。』


懐かしむように話す教皇様の眼には、少しの怒りが浮かんでいた。


『だけど偶然近くを通り掛かった貴族に誘拐され、帰ってきた時には既に廃人だった。

私は貴族を恨んだよ、正直にいうと君も信用していなかったし憎かった。』


私は少なからずショックを受けている…

教皇様が誰かを恨んでいるなんて思わなかったのだ。


『すまない、長くなって何を伝えたくなったか分かりにくいね。

簡単に言おう、つまりは貴族に対する嫌がらせだよ。私は別に君を助けようと思った訳じゃ無いのだ。』

『そう、なのですね…』

『私だってただの人なのだ、自らの欲のために貴方を近くに置くことで貴族に嫌がらせをしてしまう程度にはね。』


深呼吸した後、私の眼を真っ直ぐ見つめながら再び聞いてきた。


『聖騎士になるの、受けてくれないか?』

『謹んでお受けいたします。』


私が教皇様に感じていた壁はもうなかった。

真っ白な存在じゃ無いと知れて、罰当たりにも優越感に似た感覚を覚えた。


『感謝するよ。

…そうだ、近いうちに聖女様が我らが神によって選ばれる。貴方はもう私の直属の部下だが、聖女様の護衛にあたってもらうかも知れません。』


最後にそう言った教皇様は遠距離移動ができる魔法を使い、あっという間に去っていった。


一方私は教皇様と話し、聖騎士になったという現実感がなくボーッとしてしまう。

結局私が動けるようになったのは、先輩シスターに声を掛けられてから、そして教皇様と話したのは夢では無いかと疑いながら眠りに落ちた。


『ーーー、迎えが来ておりますよ。』

『?!?!』


まぁ夢じゃなくて現実だったんだけどね。

聖騎士になって1週間、訓練というよりは礼儀作法の勉強をし続ける毎日だった。


『ーーー来てください。

聖女様に会いに行きますよ。』


ついにこの時が来た。

教皇様の言っていた事は決定事項だったみたいで、私の勉強の殆どが付き人としての作法だった。


『聖女様は神に選ばれたお方、貴方なら心配要らないと思いますが失礼の無いように。』

『はい。』


教会内でも一際警備が厳重な一室の前。


コンコン


『はい、どうぞ。』

『失礼します。

これから聖女様の護衛と、なる…』


聖女様を見て懐かしい感覚に襲われる、同時に懐かしいとも思った。


だって、


『エイラ…?』

『…?

あっ、ーーーちゃんですか?!』


聖女の部屋で座っていたのは、私の人生を大きく変えてくれた恩人とも言える存在。


『はい、お久しぶりです…』


私の声は少し涙声で震えていた。


『お久しぶりです。また会えてよかった。』


この時誓った。

私は聖女、いやエイラを守ろうとそして最期まで共に行こうと。


『ーーーちゃんは…』

『申し訳ありません、私は聖女様の護衛になった瞬間その名前は名乗れないのです。』

『そうなのですか?

では、なんとお呼びすれば…』


あの時から変わっていない。

無垢で可憐、そして相手を想いやる気持ちを強く感じる。


『良ければ聖女様につけて頂きたく。』

『私ですか?!

うーん、少し待っててくださいね。』


聖女様はあれも違う、これも違う、と言いながら近くに置いてあった紙に候補を書いている。


『決まりました!』


椅子から勢いよく立ち上がって、満面の笑みで私に名前を書いた紙を見せてくる。


『理幸さんです!』

『リサ?』

『はい!

私達が初めて会った時の印象で決めました、頭が良くて笑顔がとっても素敵でーー』


名前の由来というやつだろう。

私は楽しそうに話してくる聖女様に見惚れてしまって細かい所までは覚えていないけど、


今日、私はリサという名前を貰って生まれ変わったのだ。

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