第5話 オムライス
「……」
辛い…
指示はベットに横になって待機、つまり眠る事もできず、ただ横になって過ごすだけ。
開けっぱなしだったカーテンは相変わらず真っ黒だったけど、外から入って来る太陽の光で時間の進みを感じる事ができた。
今はもう夕方、そろそろ部屋の中も真っ暗になる。
「なんだ起きてたのか。」
部屋に入ってきたリサさんはボーッとしていた私を見て少し呆れていた。
いやいや、私がベットから動けないのはリサさんの指示のせいだよ?
「夕飯にしよう、さぁ行くぞ。」
あの、動けないです…
「なにをしている。」
「体が動きません…
きっと此処で待機する指示の効果が、残ってて…」
「…そうか。動く事を許可する。」
あ、動くようになった。
私を待つ事はなさそうで、歩いていくリサさんを急いで追いかける。
「今日の夕飯はオムライスだ。」
「え?!」
今日何回目かわからない驚きの声、だけど今回の声には驚きの中に喜びと疑問が混ざっている。
私が知る限りでは、この世界にはオムライスは存在していなかった。それは調理前の段階からでトマトはあるのだけど、ケチャップとは存在しない。
(なんでオムライスを知っているの?)
前の世界と似た料理ならある。
カリ揚げという唐揚げに似た料理、シテューというシチューに似た料理、など名前が少し違ってたり味付けが違うのが基本。
それにパンが主食の為、私の住んでいた地域では全く無い訳ではないが米はかなり珍しく、食べる方法も雑炊か炒飯に似た料理ぐらいだった。
「さぁ、食べると良い。」
「感謝いたします。」
だがリサの作ったオムライスは、
「お、美味しい…」
前の世界と全く同じと言ってもいい、オムライスだった。
(まさか、私と同じ転生者なのでは?)
だけどもし転生者だとして、どうして私を誘拐する必要があったんだ?
「あっ…」
お肉だ…
米とか卵を食べるのも久しぶりだったけど、お肉まで食べれるとは思わなかった。
「肉は気にせず食べろ。
残すと言うなら指示を出して無理矢理食べさせる。」
「え、はい。」
聖女としての私を盲信してる訳ではないのか。
リサさんの作ったオムライスには、多めにお肉が入っていた。
「美味いか?」
「はい!
昔食べた記憶を思い出して、とても美味しいです!」
「…そうか。」
そこまで言うつもりは無かったんだけど、リサさんが少し微笑んだ様な気がしたから別に良いか。
「ふふふ♪」
オムライスはあっという間に食べ終わった。
全て解決したら前世の料理を再現するのも良いかもしれない。
最後にコーンスープを飲んで、
「ご馳走様でした。」
「頬っぺたにケッチャプが付いてるぞ、どうすればそこに付くんだ。」
「へ?あ、うぅ…」///
恥ずかしい!
「くくく…」
リサさん、笑えるんですね。
まぁ、私の羞恥心と引き換えにですが…
「今日は風呂に入る時間は無い、魔法で我慢してくれ【クリーン】」
埃、ゴミは勿論、少しなら傷まで消す事ができるめっちゃ便利な魔法、私も1人暮らしの時から重宝してた魔法。
でも、私が日本人だったからかお風呂に入らないで体が綺麗になることに違和感を感じる事も多く、家に頑張ってお風呂を作った。
「部屋で自由に休んでいろ。」
「あ、ちょっと。えっと、その…」
「なんだ?」
話したいとアピールするも体は止めてくれない、転生者疑惑とか、料理をどこで知ったかとか色々と聞きたかった…
「オムライス、美味しかったです!
ありがとうございます!」
「…!」
ポカンとした顔も綺麗だったな。
今後どうなるかは、まだ分からないけど直ぐに酷い事はされなそうで安心した。何より女性なのが安心できる。
部屋の中はいつの間にか蝋燭が付いていた。
しかもこの蝋燭は特殊な素材で作られた、永遠に使える蝋燭だった。
「凄い、コレ世界に300本しか無いって言われてる奴だ。」
過去の聖女が創り出した物で、今の聖女である私ですら再現不可能な蝋燭。
値段はどんな傷や病でも治す伝説の薬エリクサーに並ぶほど。
こんな高級品を持っているなんて、ますますリサさんの謎が深まる。
「考えても仕方ない。
取り敢えず今日はもう寝よう。」
まぁ、リサさんの事を考えても事態が変わるわけじゃない。
「おやすみなさい…」
この生活から離れたく無い私と、
この生活から早く離れて魔王討伐の旅へと行きたい聖女の気持ちがある。
それがどうしても不安だ。
このままリサさんが私を此処に居させてくれれば、凄惨な最期を迎える事はないかもしれない。
だけど世界がどう動くか分からない。
私に聖女としての在り方を強制することができるって事は、周りの事象や人の動きを操ることが出来るのじゃないかと。
リサさんの目的はわからないけど、私の我儘でリサさんが辛い目に遭ってしまうかもしれない。
「やっぱり、此処から離れないと。」
逃げる方法は考えておこう。
リサ1人しかいない1階のリビング。
そこではオムライスの入っていた皿を見詰めていた。
「自分を誘拐した犯人にそんな事を言うとは、もう絆されたのか?
やはり聖女には危機感が無いのだろうな。
本当に、本当に…バカだ……」
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