後日談1 人類の痕跡

目が覚めたら傷だらけのリサさんが目の前で泣き出した件について。

控えめに言って意味がわかりません。


「【ヒール】【ヒール】」


しかもリサさんの傷が私の使った魔法でも中々治らないんです、こんな事は初めてで焦りながら回復魔法を使い続ける。


「もう治ってるぞ」

「本当ですね?」

「本当だ。」


回復魔法を過剰にかけたからか前に見た時にあった傷跡も綺麗に消えてた。

それにしても凄い怪我だった、魔道具を取りに行って傷だらけになってた時以上の怪我で素人でも命に関わるとわかるほど。


「エイラ…」

「なんでしょうか?」


顔が赤い、まさか恥ずかしがってる?!

リサさんが表情に感情を此処まで出すとは思わなかった。


「た、ただいま。」///


可愛い…


ハッ、つい見惚れてしまった。

相変わらず目に光は無いけど、表情に感情が浮かぶようになって親しみやすさが出てる。


「おかえりなさい、リサさん。」

「…!」


笑顔になったと思ったら泣き始めた?!

情緒が不安定すぎませんか…


「え、ななんで?

まだ痛いところがあるんですか?治しますよ!」

「違うんだ、本当に終わったと思ったら制御できなくてな…」


色々と聞きたい事はあるけど、今は落ち着かせるのが先だ。私の座ってた椅子にリサさんを引っ張っていき座らせる。

そして何故か私はリサさんに抱かれる形で膝の上に座らせられた。


「私頑張りました。

やっと私とエイラだけになりました。」


私とリサさんだけ?


「ふふ、この世界には人類と呼べる種族は私とエイラしかいません。」

「え?」

「私と魔王で滅ぼした。

これで邪魔者はいない、貴方はずっと私と居ればいい。」


サラッとえげつない事言ってる。

リサさんは魔王と手を組んで人類を滅ぼした、あの大量にあった国はひとつも残ってないのでしょう。


リサさんが私を奴隷にした理由って人類を滅ぼしたかったから?


「信じられないか?」

「えっ、まぁ少しだけですが…」


多分、いや絶対に滅ぼしてるとは思っているけど、それが真実だとわかってしまったら聖女の在り方がどのような反応するかわからない。


精神面にも影響が増えつつあったし、理解しちゃうのは危険だ。


「では見に行こうか。

【ゲート】」


止める暇もなく抱き上げられて魔法で転移された。


「此処が聖国の首都だ。

掃除はすでに終わってて、ただの廃墟だな。」

「……」


そこはボロボロの廃墟となった、私が聖女としての教育を施された国だった。

人で溢れていた酒場は閑散としており、何十人も祈りを捧げていた教会は屋根と壁が壊れていた。


「なんで…?」


聖女としての在り方は勿論だが私自身もリサさんに恐怖を感じた。

怒りが少し混じっていた。


「全てエイラのため。」

「私は望んでない!」


叫んでいるのが私か聖女なのか、それはわからなかった。


「なんで人類を滅ぼしたんですか?!

私は魔王を倒そうと頑張ってたのに、もう何をすればいいかわからない!」

「エイラに死んでほしくなかった。

私を恨んだとしても、これからは2人で過ごすしかない。」


私との会話のはずなのにズレている。


「話をーー」

「もうエイラが死ぬ可能性は無い。」

「…!」


リサさんの一言に一瞬確かにと考えてしまい、止まってしまった。

そうだった、私は苦労して魔王を倒しても世界から消される可能性があったけど魔王が勝ち人類が滅んだ今なら私は…


「違う…私、私は…」


喜んでるのか?


「だって、魔王を倒してからなんとかして逃げて、両親との思い出が詰まった家に戻ってひっそり暮らそうって…」


喜んでない、だって魔王を倒して助けようとは思ってて。


でもそれなら何故私は安心しているのでしょう?


「エイラ…」

「リサさん、私は最低なの?」

「わからない。

だがエイラが悪人になったとしても私は永遠に共に居るよ。」


…わからない、

私にはリサさんがなんで私に執着しているのかが本当にわからない。

それに私が考えてる事はわかっているはず、幻滅するんじゃ無いの?


「むぐっ…」


リサさんが私の頬っぺたをギュッとして顔を掴み目を合わせる。


「くだらない事を考えているな?

私は幻滅なんてしない、それにエイラが最低なら人類を滅ぼした私はなんになる?外道か?悪魔か?」

「でも…」

「全て私のせいだろう?」


え?


「エイラは魔王を倒し人類を助けようとしていたじゃないか。

それを出来なくさせたのは私、だから貴方は私を恨めばいい。エイラの悩みは全て私のせいなのだから。」


ダメ、そんなこと思っちゃいけない、考えちゃいけない。


「それにエイラは私の奴隷だ。

私と共に暮らすしかない、エイラを閉じ込め人類を滅ぼした私とだ。」

「……」

「ずっと、ずっと一緒にいるのだ。

私が主人である限り死なせないし壊さない。」


ハハッ…

仕方ない、仕方なかったんです…


「私は貴方を許しません。」


そう言うとリサさんは口角をあげて邪悪に笑った。


「そうだ、それでいい。

これでずっと一緒に居られるのだからね。」

「私もずっと許しません。」


本当は理解してるんだ。

リサさんが私の心を守ろうとして居る事は、でも人というのは楽な方へ逃げたがる。


私は全てをリサさんに押し付けるという形で心の平穏を保つ事を選んでしまった。


だから、


「新居へと向かうか、可愛いエイラ。」


いつまでも着いていきますよ。

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