第21話 閑話 カイル・マルシーネ(父)

アージェンス王国第三公爵家マルシーネ。

過去には王家から王女が嫁いで来た事もある由緒正しい家系でもある。


そしてそのマルシーネ公爵家の現当主がこの私、カイル・マルシーネだ。


思えば私のこれまでの人生は順風満帆だったと言えるだろう。公爵家の嫡男として産まれ、魔力量も多く魔法に剣に勉学と全てに於いて恵まれ才能を伸ばすことが出来る環境にいた。勿論私の努力があったからこそ今に至る訳だが。


学園では今では友にも恵まれ、そして最愛の妻に出会い、結婚し、素晴らしく可愛らしい子供達も産まれ元気に育ってくれている。

しかも二人とも本当に素晴らしく素直で優しい子だ。


嫡男のアルスは私に似て頭も良く、魔力操作にも長けているようで学園では常にトップクラスの成績をキープしている、何より妹思いの優しい子だ。


長女のルナは母親であるアンナに似て、それはもう小さな頃から可愛すぎた。噂を聞き付けた貴族家からは本人に会っても居ないのに釣書だけが届く始末だ。


勿論速攻お断りした。


私達夫婦が恋愛結婚をしたのもあるが、元々我が公爵家は政略結婚を推奨していない。過去に王女が嫁いできた当主も居たがそれも政略ではなく恋愛結婚だったと伝え聞いている。しかも中々におしどり夫婦だったとか。


だからこそ、アルスにも未だ婚約者は居ない。学園でも、学園を卒業したら本格的に参加となる夜会ででも、アルス自身が望む相手を見つけられたら良いと考えている。


「問題はアルスよりもルナだな......」


コンコンと執務室の扉がノックされ無遠慮にもレイスが入って来る。


「......まだ入って良いとは言ってないが?」

「今更だろう?それに呼び出したのはお前だろうカイル」


肩を竦めて苦笑するレイスに椅子を薦める。


「ルナの治癒魔法はどんな感じなんだ?」

「そうだな、ルナ嬢はかなり筋が良い。何て言うか元々治癒魔法がどんな物か無意識下で理解しているように感じる時がある。このまま指導すれば治癒魔法を極められるかも知れないな。凄い才能を秘めてると思う」

「......そんなにか?」

「ああ。それに加えてまだ子供なのにあの容姿だろう?しかも性格も良いときてる。本人はまだまだ自覚がないみたいだが......あれでは王家や他の高位貴族家が欲しがるのも無理はないよ」

「お前はどう思う?」

「私か?......と言うか、それはそう言う意味で聞いてるのか?カイル」

「勿論」

「......歳が離れすぎてる......」


少し考えてからレイスは溜め息をついて私を睨んでくる。確かに少し年齢は離れすぎてる気はするが成人すればそれぐらいの年齢差で結婚をするのは貴族家ではあっても可笑しくはないだろう。


「少し考えるぐらいには娘を可愛いと思ってくれているんだな」

「......好意的に思っていない相手の先生等引き受ける訳がないだろう......」

「そうか」


スターレン侯爵家の次男であるレイスは学生の頃から自分の興味の無いものには無関心だった。男にしては美しい容姿の彼は同年代の貴族令嬢以外にも年上にも年下のご令嬢にも騒がれ纏わりつかれても、特定の婚約者を作ることはせずに学園卒業後は教会へと所属した。そして今現在も結婚せず独身真っ最中だ。


何か理由があるのか、一度友人の一人が聞いた時彼は小さく呟いた。「待っている」と。


それが何かは私達は知らない。けれどもしかしたら、それは娘ではないかと、この五年間の彼らを見て思う時があるのだ。


まぁ流石に娘はまだ十歳。

どうなるかはわからないがまだまだ当分先の話だ。


「取り敢えず娘の治癒魔法の指導は引き続きお前に頼むよ。信用している奴以外に娘は任せられないからな」

「.....だが私は王都には行かないが?」

「一年間は私達も王都に居るから長期休暇のタイミングで良いから来て欲しい。二年目からは少なくとも私とアンナは領地に帰る予定だからルナも休暇には戻って来るだろうからその時に指導して貰えれば良い」


結果的に一年間は王都に来て貰わないといけないがレイスならば転移も出来るから不都合は無いだろう。


「......わかったよ。ルナ嬢を他の奴に任せる訳にはいかないからな......」


大きく溜め息をつくレイスに私は満面の笑みを浮かべる。


「お前ならそう言ってくれると思ってたよレイス、いや水の賢者殿ーーー」





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