第13話 お茶会

お兄様の部屋に手を繋いで一緒に行き簡単な荷物の整理を手伝っていると、コンコンとノックの音がしてお兄様が扉を開けると私の専属メイドのエルマが居た。


「エルマ、どうかしたの?」

「アルス様、ルナ様、奥様がサロンでお待ちです」

「サロンで?」

「はい。お茶のご用意が出来ておりますので是非にと。アルス様の御学友の皆様も既にお待ちになっております」


エルマの言葉にお兄様をチラリと見上げれば、お兄様は小さく溜め息をつきながら肩を竦める。


「母上からのお誘いじゃ断る訳にもいかないね、せっかく久しぶりにルナと水入らずだったのに」

「仕方ないですよ、お兄様がお友だちを連れてきたんですから」


事実なだけに反論できずうなだれるアルスを伴い、ルナはサロンへと向かう。




「お待たせしてすみません、母上」


サロンに入ると上座の位置にお母様が、その右隣にあるソファに3人が座って会話を楽しんでいた。


「いいえ、今貴方の学園での様子を彼らから聞いていたところなの」


ふふふっと笑みを浮かべながら空いている左側のソファへと2人を促すと、すぐさまメイドがお茶を用意した。


「どうせ僕の変な話ばかりしていたんじゃないですか?」

「さぁどうかしらね」

「......」

お兄様の失敗談。聞きたいけど敢えて反応せずに静かにお茶を飲んでいるとふと視線を感じて顔をあげれば、丁度真正面に座っていたギルバート様と視線が合いニコリと笑みを向けられた。


......うん、イケメンスマイル恐るべし......まだ十歳なのに既に何とも言えない色気が漂って見える......なまじ、見かけが完璧に王子様なのもプラス要素になっているのだろう......


「......将来たくさん女の子を泣かしそう.....」


ポソッと呟いた独り言なのにもかかわらず意外と部屋に響いたようで一瞬シンと部屋から音が消える。慌てて口を手で押さえたが時既に遅しとはこの事だろう。


「ル、ルナ?どこでそんな言葉を?」

「ルナは本を読むことが好きだから本からではないかしら」


おろおろするお兄様とは反対にお母様は普段と変わらずニコニコしているが後でお説教コースになるだろう予感しかしない。


「僕ってルナ嬢からそんな風に見られてるんだね」

「確かにギルは令嬢だけには優しくしてるもんなぁ~実際お前の事狙ってる令嬢が学園には多いしな」

「確か親衛隊あったよね~」


ギルバート親衛隊。うん、近づきたくないなぁ。


「ご令嬢に優しく接するのは貴族子息として当たり前だろ?父上や母上からもそう教えられてきたんだ。公爵夫人もそう思いますよね?」

「そうですわね......ただ優しさを間違えてはいけませんわね」

「間違える?」

「ええ、今はまだギルバート君もセリオン君もアレックス君も婚約者が居ないから学園に通うご令嬢に分け隔てなく優しくするのも構わないのだけれど、もし婚約者が出来てからも婚約者とその他のご令嬢を同等に優しくしていては婚約者の立場がないし、婚約者になったご令嬢には悲しく辛いことだわ」


せっかく婚約者になったのに他の令嬢と態度が変わらないって事は相手から好意を向けられてないのと同じだものね。私だったら嫌だわ。そんな相手とは婚約したいとも思わないし、まず好きにならないだろう。


「それは、」

「まぁ私と旦那様は恋愛結婚でしたからそう思うのかもしれないけれど、お家によったら第二夫人がいらっしゃるところもありますし、考え方はその家それぞれですわね」


三人は黙り込む。確かランドール家にもレッドベリ家にもキーフェル家にも第二夫人はおらず、政略結婚だった家もあるが夫婦仲はすこぶる良いと聞いたことがある。


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