第7話 黒猫がやってきた

聖魔法を使うチャンスは意外と早くやってきた。


その日ルナは屋敷内の薔薇園でひとりお茶をしていた。元々は兄と一緒だったがお父様に呼び出され席を外している。侍女のエルマはお茶菓子の追加を屋敷へと取りに行っていた。花が好きなルナにしてみれば一人でも全く飽きることなく色とりどりに綺麗に咲いた薔薇を眺めながらのお茶は至福の時間だった。後一年も過ぎれば兄は学園に入る準備で忙しくなり、こうしてルナと庭でお茶をする時間も少なくなっていくだろう。必然的に一人お茶の回数はこれから増えていく事になる。

それが寂しくないと言えば嘘になるが。


な~


「ん?」


何か聞こえたような気がしてルナは周囲を見回すと、薔薇の隙間から一匹の黒猫が飛び出してきた。


「どうしてこんなところから猫が?」


じっと見ていると黒猫の方もルナに気がついたのか、警戒心もなくゆっくりと近づいてくると軽い足取りでテーブルの上に飛び乗ってくるのをルナは驚きよりも凄い凄いと喜ぶ。


「あれ?猫さん怪我してるの?」

「にゃーん」

「ん?」


まるで言葉が通じてるかのように返事をする黒猫にルナは違和感を感じつつも、これは聖魔法を試して見るチャンスなのではないかと考える。他人の目のある場所で試す事の出来ない聖魔法だからこそ、自分一人しかいない今が絶好のタイミングだった。


「黒猫さん怪我治してあげるから大人しくしててね」


ルナはそう言って周囲に誰もいないか再度確認してからそっと患部に手をかざす。人の手を怖がらずに黒猫はじっとの手を見つめているかのように見える。

手のひらから淡い光がぽうっと小さく輝き一瞬で跡形もなく怪我は完治したのを満足げにみる。


「......聖魔法も問題なく使えるみたいね......」

『治癒魔法も使えたんだな、お前』


突如聞こえた声にルナは誰かに見られたのかと慌ててキョロキョロと周囲を見るが、当然そこには誰もいない。

「?......気のせい??」

『いやオレだってば』

「へ?」


恐る恐る声のした方を見ればそこには治療した黒猫だけで、ルナはまさか?と思う。


『お前、ミネルヴァだろ』


まるで人間のようにニカッと笑う黒猫の口から前世魔王時代の名前を告げられるとは思いもしなかった。








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※補足的ななにか※


ルナの話し方ですが、両親や兄達と話す時は三歳児らしく見えるようにわざと幼い話し方を常日頃ルナは心がけてますが、丁寧に話過ぎて逆に両親と兄は「ん?」と少し考えるところはあるようですが基本本人が言うまでは見守るタイプの家族。

一人でいる時は記憶通りの精神年齢に近い話し方をしてます。

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