第36話 野外学習当日・5
初級水魔法で森の中に押し返すも、ブラックタイガーには殆ど傷を与えられて居ない。
「マルシーネ嬢は危ないから下がっていなさい」
先生が慌てて私の前に出てくるが、今はそんな事を言っている場合ではないと思う。
皆で力を合わせなければ騎士団が来るまではとてもじゃないけどもたないだろう。
逆にそうわかっているからこそ、先生達は私達に逃げろと言っているに違いない。
「先生、今は皆で力を合わせた方が良いと思います」
「だが君達はまだ初級の魔法しか使えないだろう?教師として無駄に怪我をさせる訳にはいかない!!」
「いいえ、僕は家庭教師から学園に入る前に中級の魔法は習ってます。実践は初めてですが....」
第二王子殿下も何とか先生に食い下がろうとするがあくまでも教師としてはまだ学園に入りたての生徒に中級クラスの魔獣の相手をさせる訳にはいかないのだろう。
「.....しかし....」
迷う先生に、けれども水魔法で攻撃されたブラックタイガーは容赦なく咆哮をあげ魔法を放った私目掛けてその鋭い爪を伸ばしてくる。
対抗出来ず逃げるだけにいる私達を嘲笑うかのように。
「あっ!」
「マリア!?」
背に庇いながら逃げていたマリアが足元に躓き倒れた瞬間を見逃さなかったブラックタイガーがマリアを獲物に捉え襲いかかろうとするのを私は咄嗟に自分の身体をブラックタイガーとマリアの間に滑り込ませた。
「ルナ!マリア!!」
水の魔法で咄嗟に結界を張るのと、ブラックタイガーに向けて高位の雷魔法と風魔法が叩き込まれたのはほぼ同時だった。
それは一瞬の事だった。
雷の直撃を受け、更に風が鎌鼬のようにブラックタイガーを切り裂き、ゆっくりと倒れていった。
辺りは静寂に包まれている。
そこにいた誰もが何が起こったか解らなかったからだ。もう誰もが駄目だと思っただろう。
実際に私自身がそう思ったから。
「ルナ!」
聞きなれた声が私の耳に届いた。
「.....お兄様!!」
そう。急いで私の元に走り寄って来たのはお兄様だった。
「お兄様が助けて下さったのですか?」
「ああ。森の魔力の異変を感じて慌てて教室を飛び出したんだ!間に合って良かった!!」
ギュッと抱きしめてくるお兄様の温もりに、私もようやく助かったのだと実感がわき、慌てて自分の下のマリアを振り返る。
「マリアも大丈夫だった!?」
「ええ、ルナが守ってくれたから大丈夫よ。ありがとうルナ」
「よ、良かった~」
ふふふと笑うマリアに心の底から安堵する。
「僕だけじゃなくギルバートも手伝ってくれたからね。雷魔法はギルバートだよ」
「まぁ!お兄様が!?あ、お兄様!」
マリアが慌てて私の下から出て自身の兄の姿を捉えた。
「マリアもルナ嬢も、他の生徒や先生も無事で良かったよ....」
「ありがとうございます、お兄様」
間もなくして騎士達が到着し森の中を散策した結果、他の生徒達も無事に森の中で発見されて保護されたそうだ。
野外学習はこの時点で中止となり、教師や騎士団なので原因究明に森を詳しく調査する事になったと担任からその後説明されたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます