第33話 増援要請
一方、ユウ、ザンバル達のいる西区域では、未だに激しい攻防が続いていた。
カララバ側での増援は無くなったものの、攻撃が止む訳ではない。味方が減り続けたとしても尚、両者は引き金を引くのを止めなかった。
そんな中、戦場の最前線を駆ける無名にとある緊急の連絡が流れてきた。
「増援要請—————?」
ユウは稼働させていた無名のスラスターを鎮め、エンジンを冷却する。
スラスターが止まり、高速移動を行っていた無名は足裏で地面を削ることでブレーキを効かせる。
無名に流れてきた増援の要請。それは、ユウと同じアスオスに所属している機体からであった。
「この通信コード、正面区域の人間か」
正面区域。それはこの戦場下で最も機体多く配備された区域である。
そこにはアスオスのメンバーも多数配属されていたので、彼らからこのような連絡が入るのはユウにとって少し驚きであった。
だがそんなことはどうでもいい。今重要なのは、この通信が何を意味するのか。
つまり、それは—————
「これだと、前線の崩壊か。いや、この場合はイレギュラーか?」
アスオスのパイロットは皆、TT戦のエキスパート達だ。
故に、圧倒的な戦力の差でもそう簡単には撃破されることがない。
だがしかし、そんな人間が苦戦している。しかも優勢になりつつあるこの状況でだ。
そうなった場合に考えられるのは、それこそイレギュラー—————数では対処できない特殊な存在が現れた時である。
ユウはモニターの一部分に地形データを表示した。そしてこの西側から正面までの距離、それと移動時間をデジタルで計算する。
「無名で3分か」
導き出された数字にユウは表情を歪める。
そして今この西側区域の戦況を確認する。
敵の数はもうかなり少ない。数としては2桁いくか、いかないくらいだ。
それに、ここにはザンバルがいる。短い間だが、ユウから見た彼のパイロットとしての評価は、かなり高いものだった。
ならば、彼にここを任せても問題はあるまい。
そう思ったユウは、前線から身を退き、壁手前でシールドを装備した2丁の2連装ガトリングを放つタラスクに接近する。
「ザンバル、今の通信を確認したか?」
『ああ! 増援に行きたいのは山々だが、こっちもこっちだ! 持ち場を離れるわけにはいかねぇ!』
通信越しから必死の声が伝わる。
「俺は今から要請を受けたポイントに向かう。ここは任せる」
『はあ⁈ ちょっ、お前、何言ってやがる⁈』
ザンバルの必死の叫びが響くが、ユウは「すまない」と一言だけ残すと、無名のスラスターを噴かし始めた。
射撃を続けるタラスク、そして防衛部隊数機を置いて、遠ざかっていく黒いTT。道中で地面に転がったガ・ミジックのマシンガンを回収し、発信ポイントへと向かっていった。
「ふっざけやがってあのクソガキがぁ! 自分勝手にも程があるだろ! どうなってやがるよヘリクぅ!」
その背中をただただ眺めることしかできなかったザンバルは、誰に聞かせる訳でもない怒りを吐き出す。
そんなことをしている内に、発砲を続けていた両手のガトリングの残弾が切れる。ガトリングは発砲することなくしばらくカタカタと回転を続けると、やがてその動きを止めた。
「チィ! クッソ! 弾もこれまでか!」
両肩部のロケット砲も、すでに残弾0。タラスクは射撃メインの重TT故に、これら以外の兵装は持ち合わせてはいなかった。
眉間にシワを寄せ、歯を軋ませるザンバル。
正面のモニターに目を向けると、そこにはアックス片手に急接近をするガ・ミジックの姿があった。
そんな時、スピーカー越しに声が流れ込んでくる。
『今だ! これでこいつはただのデカブツ!』
それは正面にいる敵TTのパイロットの声であった。
高らかに勝利を宣言し、確信と自信と共に突撃をする。
その声を耳にしたザンバルは、ピタッと動きを止める。
絶望か、それ故の諦めか。ザンばるの表情が曇り出す。
まるで水が氷へと身を固めるかのように、固く固まった。
そして耳がピクリと痙攣する。
そして目がカッと開かれる。
そして筋肉に血管が浮き出る。
「——————だぁれがぁ」
タラスクの排熱ダクトから蒸気が噴き出る。それはまるでザンバルの言葉に呼応するように。
そして、両手で装備していた2連装ガトリングガンから手を離した。銃口が地面に突き刺さり、重さに耐えられずに転がる。
続けて、両肩部のロケットをパージし、取り外して地面に落とす。
眼前に迫るガ・ミジック。スラスターから光る青い光は、何tもあるガ・ミジックを思い切り押し出していく。
対して、ザンバルの乗るタラスクの装備は両腕部に装備された2枚のシールドのみ。攻撃用の武装は、もはやタラスクの手にはなかった。
——————しかし、
「デカブツだってぇ!」
ザンバルは怯まずに前に出る。
1歩。機体の脚を前に出し、多少の勢いを付ける。
手は拳、いや鉄拳に。肘を後方へと突き出し、溜める。
そして、腕部に装備されたシールド、その下側面を敵に向け、思い切り片腕を突き出した。
『ウ、ギャァッ⁈』
スピーカー越しの断末魔。加えて重々しい音が空に響き渡る。
アックスはタラスクに届くことはなく。
前に突き出されたシールドは、その細い側面でガ・ミジックのコックピットを抉り、動きを沈黙させた。
タラスクは突き刺さったシールドを引き抜き、ダクトから再び蒸気を吐き出す。
「やってやろうじゃねぇか……このクソッタレがぁ!」
ザンバルは怒りとやる気を叫び、機体のレバーを押し出した。
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