第3章

第22話 ノア

 彼らアスオス第3部隊の任務は3つ。

 1つは幾つかの村への物資支援。

 2つは村々の状況の確認。

 そして3つは巨大共同体への医薬品の輸送。

 この3つが彼らに課せられた任務である。

 彼らは上記のうち2つの任務を終え、3つ目の巨大共同体へとトラックを走らせていた。




 時刻は真昼。空は相変わらずの晴れ。だが海が近くにある為か、その日の空には雲の絨毯が敷かれていた。

 そんな空の下、アスオス第3部隊の面々は荒野の中をトラックで進んでいた。出発してから早2週間。最早この距離の移動にも慣れたものだった。

 すると、運転席と助手席に座るヘリクとミレイナの目先の地平線から分厚い装甲で出来た壁が出現する。

 その景色を前にミレイナは驚き、言う。


「あ、共同体ってあれのこと? もう外壁まで出来たんだ」


「そうだね。結構前から計画は進んでたから出来ててもおかしくないさ」


 ヘリクも驚いてはいるものの、当然のように言う。


 無主地内村落共同体構築計画によって作られた巨大共同体。無主地帯内の人々全員を保護する為にアスオスが建てた共同体である。

 海のすぐ側に建てられており、別大陸からも物資を運搬できるようになっている。リスクのある場所設定ではあるが、そこは止む無しといったところだ。


 トラックを走らせていると、彼らに対して通信が入る。ノイズ混じりではあるものの、普通に聞き取れる声だ。


『————そこのトラック。"ノア"に接近する目的を述べろ』


 ミレイナはノイズの混じった音声を、通信機本体を弄ることで聞き取りやすく調節する。

 通信機から流れた声にヘリクは疑問を抱く。よって尋ねてみることにした。


「ノア? すみません、ノアというのは我々の前方にある共同体のことでしょうか?」


『そうだ。再度尋ねる、貴様らの目的を述べろ』


 返答を聞き安心し確信するヘリク。そして聞かれたことに対して答える。


「我々はアスオス第3部隊。目的は、そちらの共同体への医薬品の輸送です」


 そう答えると、通信機の先の人物は『了解した』と一言口にすると、入り口への経路を伝えて通信を切った。それを聞いたヘリクは、言われた通りの場所へとトラックを走らせる。


「ノア————か。まあ、無主地帯の人から見たら箱舟のような存在か。まさかもう名前が付いてるとはね」


 ヘリクは呟く。


「“もう”じゃなくて“ようやく”でしょ? さっさと命名すれば呼びやすいのに。それくらいもっと早くしろって私は思うけど」


 対してミレイナは文句の言葉を口にした。


 彼らはやがて壁に辿り着く。

 壁の上には固定式の砲台が申し訳程度に取り付けられており、見た目に反しての防衛力の低さを物語っている。

 彼らが外壁の前でトラックを止めると、目の前の壁の一部が上へと展開され、全長約15mの長方形の入り口が出現した。外壁に取り付けられたスピーカーから『入れ』と声が響く。

 ヘリクは言われた通りにトラックを進め、ノアの中へと入る。彼らが通過すると、再び装甲の壁は下へと降り、道を塞いだ。


 ノアは未だに未完成ということもあり、総人口は約1000人程である。市民はノアの内壁より少し離れた中心地域で生活していおり、テント生活ではあるものの、壁外で暮らしていた時よりは安全に暮らすことができている。加えて、戦闘になった際には身を守れるよう、いたる所に地下シェルターが設けられている。あまり広くないので入ると窮屈ではあるが、戦闘からの身を守るには十分な性能を有している。

 市民が中心地域に集まる一方で、内壁のすぐ側には中心地域を取り囲むように整備ドックが設置されており、ノア防衛の為のTTが収められている。これは、いざという時に迅速な行動を取れるようにと考えられた工夫である。

 そしてドックの側には総本部も備えられており、ここで代表者達による会議等が行われている。


 入り口を抜けたヘリク達を出迎えたのは整備ドックだった。内壁には何機ものTTが背中を壁に付けて横1列に並んでおり、そのカメラアイをノアの中心へと向けている。それはまるでノアの市民を見守っているようにも見える。そんなTT達の足元では何人もの整備士がタブレットやパソコンを手に機体を整備していた。

 ヘリクはトラックを内壁に沿って進める。すると、彼の目線の先に見覚えのある人物が映り込む。その人物はヘリク達の乗るトラックに手を振り、自身の存在をアピールしていた。

 ヘリクはその人物の元までトラックを進めると、ブレーキを掛けて停車した。そして窓を開けて顔を出す。


「ミラディエットさん、来てたんですか?」


 そこには赤髪の整備士、ミラディエットの姿があった。

 彼女を見てヘリクは少々驚く。そんな彼にミラディエットは笑みを見せる。


「当然。誰がユウの機体を見ると思ってんのさ。ミアは来れなかったけど、まあ整備程度なら私で十分でしょ?」


 腕を組み、そう言うミラディエット。確かに、ユウの乗る無名を整備できるのは彼女しかいない。実質無名の専属整備士なのである。

 そして彼女は続けて言う。


「というか、あんたら遅すぎだよ。待ちくたびれたったらありゃしない。ほら、さっさとユウの機体見せな。あと、15分後に本部のブリーフィングルームで部隊長とノアの代表者の会議があるから急ぎな。ミレイナは医薬品届けた後、食料を市民達に運ぶの手伝って。OK?」


 その言葉を聞き、「分かりました」「OKです」『了解した』とそれぞれ返事をする。

 そして、それぞれで行動を始めた。

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