第21話 鹵獲した機体

 場所はゼーティウス連邦国軍事基地。

 フルグレイスはそこに設置されていた整備ドックに足を運んでいた。

 先日行われたカララバ基地の攻略。その際、彼にとって興味深いものが発見されたのである。

 整備士長の後ろを歩き、ドック内を歩くフルグレイス。整備されているTTの側を進み、目的の所へと目指す。


「やはりこの手のものには食いつきますな、大尉殿は」


「私は軍人でありオタクでもあるのだよ。それは敵軍のTTであっても同様さ。趣味の一種だよ」


「ミリオタというものですな。ですが、今回の機体は大尉殿が目を光らせるようなものではないと思います。寧ろ、曇らせるやもしれません」


「ほう? そう言われると余計に気になる。怖いもの見たさは人一倍なのだよ、私は」


 そう言いながら、彼は足を進める。

 やがて、2人は目的の品の前に辿り着く。彼らが着くのと同時に、バッと音を立てて天井の照明がそれを照らす。


「これが……」


 その機体の姿に、フルグレイスはつい声を漏らしてしまう。

 彼の目の前に映ったのは、先日カララバ基地で鹵獲したTTであった。

 全身は純白に包まれている、特に目立った箇所がない至ってシンプルな機体。しかし、頭部はカララバ製にしては珍しいデュアルアイ式であり、ゼーティウス製の機体にも見えなくはない。


「はい。こちらが先日の奇襲作戦で鹵獲した機体となります。機体名は不明。基本構造はカララバのTTがベースとなっていますが、見た目からも分かる通り、他はカララバでは見ない技術が使われています」


「カララバでは見ない技術……まさか、ゼーティウスの?」


 その予想に整備士長は首を横に振る。

 カララバでも、ゼーティウスでもない技術。もちろん世界には他にも国があるので別の国の技術というのも考えられる。

 しかし、整備士長はその国ですらもないと考えていた。


「いえ、ゼーティウスではありません。それどころかその他の国の技術でもありません。これに使われている技術は、そんじょそこらでお目に掛かれるものではありません」


「国家の技術ではない……となると、あそこか」


 フルグレイスは確信する。それだけ選択肢を削られれば、結論を出せるのも容易い物である。

 フルグレイスの言葉に、整備士長は頷く。


「はい。あのしかあるますまい———“アーテライト財団“」


 アーテライト財団。その言葉を聞いたフルグレイスは表情を険しくする。


「……アーテライト財団。やはりこの戦争にも手を回していたか。我が国も予想してはいたが、これで合点がいった。このことを司令に報告は?」


「報告済みです」


「そうか……しかしこれは厄介だ。財団の技術は量産性に欠けるが、その分性能は折り紙付き。少し時間が経てば、単機で戦場をひっくり返すような機体が現れても不思議ではない」


 少し焦りを覚えるフルグレイス。そんな彼に整備士長は言う。


「それだけではないのです大尉。この機体を調べたところ、操縦系統に私は違和感を覚えまして。詳しく調べてみたところ、この機体は普通の人間には扱うことのできない特殊な操縦系統を搭載していることが発覚しました」


「普通の人間には扱えない? どういうことだ?」


「言葉のままです。まずはこちらをご覧ください」


 整備士長はタブレットをフルグレイスに渡す。タブレットにはTTのコックピット内を模した3D画像が映し出されていた。その画像にはコックピットシートとシートベルト、そしてシートの頭部部分に大量のコードを接続され、宙にぶら下げられている謎のヘルメットがあった。

 映された画像を見て、フルグレイスは違和感を覚える。


「これは……この機体のコックピットか?」


「はい。ご覧の通りこのTTのコックピットです。しかし、コックピットにはそれしかありませんでした」


「これしかない? 機体のコントロールスティックはどうした? あれがなければ、機体を動かすことは不可能だ」


 そう、コントロールスティックが映されていないのだ。それはつまり、この機体を手で操縦方法がないということだ。

 困惑するフルグレイスに、整備市長は言う。


「私も最初は困惑しました。なのでコックピットは別にあるのではないかと確認してみましたが、信号の波は明らかにこのコックピットからでした。私どももよく分からなかったのですが、調査中に過去にカララバ関係で聞いた黒い噂をふと思い出しまして。そこで私はそこに映っているある部分に着目しました」


「ある部分……このヘルメット状のものか? 銅線類が束になって接続されているが、これがどうしたんだ?」


 フルグレイスはタブレットの画像を指差す。すると整備士長は画面を二つの指でズームアウトさせ、機体の全体像を半透明で映した。そうしながら、整備士長は言う。


「実はこのヘルメットから伸びた銅線なのですが、この線は機体のありとあらゆるところに伸びているんです。それはまるで、人間の神経かのように。調べてみるとそれは、機体制御の為の銅線でありました」


 淡々と言う整備士長。しかし、フルグレイスはその言葉の意味を察してしまった。


「おい、まさかこれは……脳波制御か?」


 恐る恐る口にする言葉。技術の革命を意味するこの言葉だが、今の時代では悪魔の言葉に等しい。何故ならそれは、まだTTでは実現不可能な技術であったからだ。


「はい」


「どういうことだ? 脳波を増幅させる技術は、未だに実用できる完成度ではない筈だ」


「その通りです。しかし現にこうして運用している。実験段階の品ではあると思いますが、それでも稼働可能。未だに技術不足なのは頷けますが、恐らくそういった問題ではないかと」


 フルグレイスはますます険しい顔になる。整備士長もいい顔をしていない。2人の考えているものは、技術的にも人権的にも恐ろしいものであったからだ。

 整備士長は続けて言う。


「大尉、カララバでこのような噂を耳にしたことはありませんか? —————生体ユニット開発の噂です」


 まさしく、悪魔の言葉であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る