第11話 地下基地にて

 荒野を進むユウ一行。

 道中、カララバの偵察部隊との遭遇や、ゼーティウスのフォース隊との戦闘があったが、なんとか彼らはゼーティウス国境近くへと辿り着いていた。時間は午後6時。陽が沈む時間帯である。

 ヘリクの運転するトラックは、巨大な岩場の側でトラックを止める。

 周りには何もいない。人も、車両も、TTも。

 そのことを確認したヘリクはトラックの窓を開けてそこから空へと手を突き出す。

 すると、トラックの目の前の地面がゴゴゴと動き出し、長方形の区切れが現れる。

 区切れは段々と明確になっていき、やがて地面から切り離され、蓋のように上へと開き出す。

 開かれた地面の下にはコンクリートで出来た道が整備されており、坂となって地下へと続いている。

 ヘリクは完全に開き切ったことを確認すると、その中へとトラックを進めた。坂の先は暗闇となっており、ヘリクはトラックのライトを付けて進んだ。

 トラックが完全に入り切ると、開かれた地面は再び元の平面に戻るべく、閉じ出した。

 これにより、外からは見られない限り、誰も場所が分からない。

 そう、ここは地下への隠し通路。彼らアスオスの地下秘密基地への扉である。




 坂を下るヘリクのトラック。照らされる暗闇の先は深く、かなりの地底へと潜っていく。

 やがて、彼らの目先に輝く出口が見え、そしてくぐる。


 くぐった先は……幾つものTTが立ち並ぶ巨大な整備場であった。

 TTを収容する関係上、整備場の屋根の高さはかなり高く、巨大な電灯が地底を照らしている。

 奥行きもそこそこあり、TTが互いに向き合いながら整備をされている。さらにその視線と視線がぶつかり合う真ん中の空間は、トラックが通ることができる車道になっていた。


「ふぅ〜、帰ってこれたー」


 道を進みながら、緊張が解けたのか、ヘリクは肩をがっくりと下げた。

 彼の様子を助手席で見ていたミレイナは言う。


「肩に力入りすぎでしょ。肩凝るわよ」


「もうとっくに凝り固まってるよ。銃弾飛び交う世界なんだから、気を抜いていられないよ」


 肩を手で揉みながら、仕方なさそうに言うヘリク。それでも、道中すれ違っていく同僚達にも挨拶するのも忘れない。

 やがて、彼らのトラックは整備場の空いているスペースを見つけると、そこを曲がった。

 TT同士の隙間で車を停めたヘリクは、トレーラーを開かせながら車を降りた。

 すると、降りたヘリクに1人の声が近づく。


「いよっ、お疲れさーん。長旅疲れたね〜」


 その声に反応し、ヘリクは振り返る。

 そこには、整備士の服に身を包んだ赤髪の若い女性の姿があった。


「ミラディエットさん。はい、今戻ってきました」


「おっ、その顔は本格的に疲れてるねぇ〜?」


 ヘリクの顔を覗き込むように近づくミラディエット。ヘリクは頬を引っ掻きながら苦笑いする。


「ハハハ、分かります?」


「分かるさ。何年見てきたと思ってんのさ。まあここの配属になってから3年だけど」


「まあそれもそうですけど」


 会話をする2人。

 そんな中、ミレイナとユウは機体を動かしてアームの付いた壁へと機体を動かそうとしていた。


「ユウって、こういった作業は初めて……じゃないよね?」


 通信を介してユウに確認をとるミレイナ。

 ユウはそれをコックピット内で聞きながら、機体を立ち上がらせる。


「いや、傭兵だった頃はここまで充実した整備用機械はなかった。その場で横にさせたまま手による応急処置程度の整備。その程度だった」


「あー。なら一応気をつけてね。充実してるとはいってもTTみたいにアームとか頑丈じゃないから」


「了解した」


 ユウはコックピットを開けながら機体を動かし、アームが接続された壁へと機体を動かす。

 そんな彼に下にいたミラディエットは声を上げる。


「あーそこにTT立てといて! あと、色々と要望があれば、できる範囲でなら応えるよ!」


『了解した』


 スピーカーから声を出し、ユウは機体を壁に立たせる。


「移動完了。人への被害はなし。自立によるアームへの干渉もなし」


 問題がないことを確認すると、ユウはコックピットからハシゴを垂らし、機体から降りていく。


「そういえば、15分後に代表者の招集掛かってるよ。この先のブリーティングルームね」


 機体から降りると、ミラディエットはヘリクにそう言っていた。

 聞かされたヘリクは「分かりました」と言い、ミレイナに後のことを任せて指示された場所へと向かっていった。

 彼が行ったことを確認すると、ミラディエットは振り向き、ユウを見る。


「さっきも言ったけど、何か要望があれば遠慮なく言っちゃって。新しい機体が欲しいだとか、フレームを大きく交換したいだとかはムズイとこあるけど」


「問題ない。そこまでの頼み事をすることは決してない。ただ……武装の追加をお願いしたい」


「武装の追加? それくらいだったら問題ないさ。いいよ、どんなの?」


 ユウは無名を眺め出し、そのまま言う。


「……ナイフは取り回しは良いが、レンジが短い。だからゼーティウスのロングブレイドの様なものが欲しい。それと、中、遠距離射撃兵装、これも頼みたい」


 考えながら呟くように言うユウの言葉を、ミラディエットはポケットから取り出したメモ帳に書き留める。

 そして、言われた注文を復唱し、確認する。


「ロングブレイド、射撃兵装……分かったよ。従来の武装はそのままで、トレーラーに乗せておく感じね」


「それと、腰部のウェポンラックの大型化を頼む。重量は増えるが、持てる武装を増やしたい」


「ウェポンラックの大型化、ね……OK。あ、そうだ。ミアの奴がお前を呼んでるよ。顔出せだって」


 彼女は親指を壁の扉へと向けて、ユウに伝える。指を刺された部屋には、第4技術開発室と書かれていた。


「……了解した」


 ユウは示された扉に目を向け、遅れて答える。

 基本的に、ユウの目には感情というものがない。いや、存在はしているが、他人からは認識が難しい程だ。

 しかしその時だけ、彼の目は少し悲しんでいた。

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