第2章

第13話 基地への奇襲

 上空から眺める景色は、未だに新鮮であった。

 訓練で何度も試験飛行をしていたので慣れてはいるが、自由自在に飛べるこの開放感、並びにこの上空からの景色。男であるのなら、ときめかない訳がない。

 フルグレイスは自身のTTを乗せた飛行ユニットを操縦していると、つくづくそう思ってしまう。空を飛ぶというのものは、何とも言えない魅惑の力があったのだ。

 時間帯は夜。誰もが寝静まる暗闇の世界だった。


『大尉、敵部隊と我が軍の地上部隊との交戦を確認しました』


 彼の機体と並列になって飛行する部下から、そのような通信が流れてくる。

 フルグレイスは地上に目を向ける。

 そこには何もなかった筈の荒野の隅にカララバの軍事基地がひっそりと建てられていた。

 この基地はそれほど大きいものではない。荒野の隅、つまりはゼーティウスとカララバが戦場としている無主地の中で、あまり目を向けられず、被害も少ない場所であるからだ。要は、そこまで重要ではない基地である。

 一応薄い防壁に囲まれてはいるものの、その中で立ち並ぶ格納庫やらの施設の数は、通常の7割程度で抑えられている。

 本当に何もない所にただ建てた低予算な軍事基地である。


 そんな基地に今、ゼーティウス軍は攻撃を仕掛けていた。

 軍事基地の防壁付近で光がほとばしる。そびえ立つ防壁は破壊され、そこからゾロゾロとゼーティウスの地上部隊が進軍して行っている。

 夜中の奇襲は成功。作戦のフェーズ1が終了する。

 その様子を目で確認したフルグレイスは、同じく並列し飛行をする3人の部下に命令を下した。


「よし。我々フォース隊は別動隊として上空からの飛行攻撃を行う。各員散開し、防壁上に設置された固定砲台を破壊してくれ。全機、行動開始!」


 了解! とハッキリ言う部下達。彼らはフルグレイスを先頭に行動を始めた。

 上空から高速で基地に接近する。防壁上に設置された固定砲台は、壁内下に向けて砲撃をしている。進軍を始めたゼーティウス軍の迎撃をしているようだ。故に今は隙だらけだ。

 フォース隊はある程度壁に近づくと、フルグレイスに言われた通りに散開した。そして攻撃を続ける固定砲台に向けて飛行していく。


「いいか? 散開はするが互いに状況を確認し合え。自分や仲間の身が危険だと感じたら、できる限り支援しろ。戦死は絶対に許さん! 死んでも生きろ!」


『『『了解!』』』


 フルグレイスの追加の命令に対し、部下は皆返事をした。


 ————そして、フォース隊の戦闘が開始される。


 飛行ユニット上から各々の得物射撃兵装をTTのマニピュレータで掴み、その銃口を壁の固定砲台へ向け、瞬時に照準を合わせる。ピンと合わさった照準は一切のブレを許さず、彼らはほとんど間隔を空けずにそのトリガーが引いた。

 銃口の爆発音と共に何度も火が吹かれる!

 放たれた銃弾は、逸れることなく砲台へと吸い込まれていく。当然防ぐものなどない。銃弾は止まることを知らず、無事に砲台に着弾した。

 ドカンと爆発する砲台。中に入って攻撃していた砲撃手も、今ので体が吹き飛んだ。


 流石、というところである。飛行しながら、しかもそれ故に不安定な足場の上で銃口を構え、照準を狂わせることなく合わせ、冷静に発砲し着弾させる。常人にできることではない。だがそれができるが故に、彼らはエース部隊に選ばれたのである。


 ———— 一方フルグレイスは、地上と砲台から放たれる光の弾を、飛行ユニットのスラスターに加えてアポロンの肩部バーニアを利用してアクロバットに回避し、飛行していた。


「グッ————フフ」


 その際に掛かる肉体へのGは相当なものであったが、そんなものは彼にとって問題ではない。寧ろ、その殺人的な加速を心から楽しんでいた。


「この加速、この重さ、この高揚、まさにだ!」


 フルグレイスは回避しながらアポロンのライフルで砲台に攻撃を仕掛ける。

 彼の機体が装備しているライフルは、部下が使っているアサルトライフルとは違いセミオート式なので、狙うには更なる技術が必要だ。

 しかし、彼はその武器を難なく使いこなし、確実にターゲットを沈めていく。彼にとって速さや重さなど関係ないのだ。怨念や執念に近いその考え、気持ちこそが、彼の一方的なこの結果に繋がっているのだ。


 少しして、砲台のほとんどを破壊したフルグレイスは地上に機体のカメラアイを向けた。戦況の確認である。先程は奇襲ということもあってことも有利に進んではいたものの、今は一体どうなっているだろうか?

 ……結果、地上の状況は両軍拮抗状態であった。


 こうなってしまった原因として考えられるのは、単純な戦力不足だ。

 先程も述べたように、この基地は無主地帯の中でも辺境な所に位置しており、規模も小さく設備も古い。それ故に、攻略に当てられた部隊の数は全部で4部隊と非常に少ないのだ。

 なので、時間が経つにつれて非常に脆くなっていく。


 そんな中、1つの味方部隊が彼の目に止まった。

 その部隊は通常3機編成1小隊の中、誰か1人欠けてしまったのか、2機で行動をしていた。

 しかも運の悪いことに、彼らは複数の敵機に囲まれつつある。非常にマズい状況であった。

 フルグレイスはそんな彼らの状況を見て予想する。


「あのままでは確実に落とされる。どれだけ機体性能が素晴らしくても、数の前では誰もが不利になる。しかし————黙って見過ごすような人手なしにはなっていないさ!」


 予想と同時に決まる行動。本来彼に課せられた行動とは違うが、そんなことは彼にとってどうでもいい。

 飛行ユニットを旋回させ、地上の味方部隊に近づく。


「そこの小隊、聞こえるか? 私はフォース隊のフルグレイス大尉、聞こえたら応答しろ」


 フルグレイスは通信で地上に立つ2機のアストレアに呼びかける。

 その声に反応した2機のTTは頭部を空中のアポロンに向けた。


『は、はい!』


 フルグレイスは2機に命令する。


「貴官らはそこから一時後退し、他部隊と合流したまえ。私が時間を稼ぐ。その内にだ」


『し、しかし!』


「何、私の心配をすることはない。これでもエースだ。10機は落として見せようとも」


 フルグレイスは余裕そうに言うと、彼らを包囲しようとしている敵陣へとユニットを加速させた。その際にもう一度命令を下す。


「上官からの命令だ。貴官らは自身の身を第一に考え一時後退。死ぬことも、今の命令を拒否することも、私は認めん!」


 彼らの返事を聞かず、フルグレイスは通信を切った。

 目指すは 20機はいるであろう敵の群れ。しかし、所詮は辺境に配備された旧式。ならば、フルグレイスにとって問題ではない。


「さあ、止められるのなら止めてみるがいい!」


 さらに速度を上げる。

 まさに神速。体に掛かるGは凄まじい。

 しかし止まることを知らず。彼の進みを止められる者などここにはいない。

 フルグレイスは不敵な笑みを浮かべながら、超低空飛行で敵の群れへと突撃していった。


 結果————敵機 全滅





 ここは戦場と化している無主地帯の中でも辺境中の辺境。戦場の火の粉を浴びることがないある意味安全な地帯である。

 “カララバ第6基地”

 こんな場所に建てられた基地の名である。ゼーティウスからは、何の為に建てたのか分からない基地、と言われている。

 しかし、カララバにとっては逆であった。この基地は今後も続くであろう戦争の中で一発逆転が狙えるとある重要な“兵器”を作り上げるには最適な場所であったからだ。

 国内で作ろうとせず、わざわざ無主地帯で開発をしたのには様々な理由がある……しかし、残念ながらまだ語ることはできない。

 そのような裏事情によって無主地帯に建てられたこの基地は、カララバ軍の上層部からはこう呼ばれている。



 カララバ第6研究所 またの名を —————
















“生体ユニット開発研究所”

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