第27話 ノア防衛戦
指示を聞いたユウは無名に乗り、壁外へと身を出す。
既に前方には無数の敵機の影。彼らは陣形を崩すことなく迫ってきている。
ユウはコックピット内のレーダーを確認する。
「25……30……敵数35。ここだけで35機か」
数を口ずさみ、顔を険しくする。流石のユウでも数の暴力には勝てない。戦術が戦略に勝てないようなものだ。
自分1人で無傷のまま10機落せるかどうか。そういったところであった。
しかし、今はユウ1人ではない。
『よう、ヘリクのところの新人。最強無敵のザンバル様と、その愛機“タラスク”の登場だ』
通信越しにユウに語りかける声が一つ。
ユウは無名を振り返らせる。映るモニターは景色を変え、背後の防壁を映し出す。
そこには、無名よりも一回り大きいイエローカラーの重TTが防壁扉の前でデュアルアイを光らせていた。
“タラスク“と呼ばれたその機体は、無名のように軽量で軽装備というスタイリッシュなTTとは真逆であり、超重装甲で超重武装といったダイナミックなTTであった。
フレームは分厚い装甲で覆われており、両腕部には長方形のシールドで覆われた2連装ガトリングガンが装備されている。それに加えて両肩部にはバックパックで接続されたキャノン砲が搭載されていて、火力の底上げがされている。
ザンバルはタラスクを歩かせ、無名に近づく。タラスクが歩くたびに、ズシンズシンと地面が揺れる。駆動音も見た目通り重々しかった。
『数が多くて怯んだかぁ? なぁに安心したまえ。この俺が付いているお前はラッキーボーイだぜぇ』
「ザンバル……話には聞いている。確かヘリクの知人だったか」
『おうよ。俺こそがアスオス第5部隊隊長のザンバル様だ。俺もヘリクから聞いてるぞ? 手が焼ける新人が出来たとかな』
「……」
ユウは答えない。
そして無言のままタラスクの背後に目を向ける。そこには、旧式のTT計7機がズラリと横1列で並んでいた。
どの機体も1世代も2世代も前の機体であり、ちゃんと動けるのかどうかも怪しいくらいボロボロであった。ユウも旧式の機体を未だに使っているが、その有様はまるで別物だった。
「防衛部隊か」
『ああそうだ。財団からの貰い物だけで結成されたその場凌ぎの部隊だ。しかもパイロットは経験のないド素人ときた』
ザンバルの言葉を聞き流したユウは、無名を防衛部隊パイロット達が乗る機体に近づける。
そして彼らの正面に立ち、通信を繋げる。
「こちら第3部隊のユウ・カルディアだ。お前達は全員実践経験がないのか?」
『はい、そうです。訓練はやっていましたが、我々は全員が無主地帯の人間ですので、実践経験は全く』
通信越しのユウの問いに、7人の内の1人が答える。
「なら無理はするな。基本は姿勢を低くして盾を構えながら銃を撃て。機体の露出を抑えれば被弾も少なくなる。それに壁の上からの支援砲撃に加えて、ザンバルが的になる。だから自分の身だけ心配していれば問題ない」
『あ? ちょっと待て! 今俺のこと的にするって言ったか⁈』
タラスクから聞き捨てならないと文句の声が飛んでくる。
ユウはそれに対して「その重く分厚い機体装甲の活かし時だ」と皮肉まじりに言おうとした。
だがその時、ヴィー ヴィーと音を発しレーダーが接近する機影を知らせる。
敵の群れが近い。悠長に会話している暇などもはやない。
そう思ったユウは壁を背に迫るカララバ軍へと無名を向ける。
「話はこれまでだ。敵が来る」
『ああ、そのようだな』
同じく敵影を確認したザンバルも態度を改める。その声質は真剣なものだった。
ユウは言う。
「俺が先行する。陽動と撹乱で敵軍の陣形を崩す。その隙に敵機の撃墜を」
サラッとユウは言う。そしてペダルを踏んで無名のスラスターを吹かせ、群れへと単機で向かっていく。
『1人でだと⁈ おい、ちょっと待て————』
ザンバルはユウを止めようとしたが既に遅く、無名には止まる気配が一切ない。
黒いTTはもう止まらないと確信したザンバルは『クソガキがぁ!』と1人叫んだ。
無名は加速を続けて敵機へと急速接近する。
敵機は全てガ・ミジック。マシンガン以外にもロケットランチャーやバックパックに伸びるベルト給弾式ガトリングなどを装備している。武装変更で様々な状況に対応できる汎用性。その利点を上手く強みにしているようだ。
だがユウは止まらない。圧倒的に不利な立場だったとしても、無名と自分なら問題ない。そういった自信と覚悟があるからだ。
レーダーには無数の敵機が赤いマークとなって写っている。対してモニターには3機のガ・ミジックがこちらの接近に気づき銃口を向けている。
「前方の敵数3。無名、交戦を開始する」
そして敵機による発砲が始まる。連射される銃弾は音を超え、無名へと一直線に進んでいく。
だがユウは無名を動かし、地面を滑るようにそれを回避した。銃弾の雨は無名の装甲をかすることなく通り過ぎていく。
その間にユウは無名の左手にショットガンを装備させる。射程は短いが近接ではかなりの威力を発揮するこの兵装は、彼のお気に入りだ。
ガチャリと無名は銃弾の雨の中でショットガンを前方に構え、その照準を敵機に合わせる。
多少のブレはあるが、散弾なので気にする必要はない。そう思ったユウはコントロールレバーのトリガーを押し、発砲した。
ズドンと発射される無数の銃弾。反動で上へと跳ねる銃口。排出される空薬莢。銃弾は見事に敵機の頭部に着弾した。
銃弾が抉り込んだ頭部はもう使い物にはならない。故に、今がチャンスだ。
「まずは1機」
止まることなく加速を続ける無名は腰部にマウントされている対TT用の太刀を右マニピュレータで抜刀し、メインカメラの潰れた敵機の横を通る。
そのすれ違い様、ユウは太刀の刃を地面と平行にし、加速の勢いでその腰部を切断した。
下半身を残して地面に落ちる上半身。切断面からはオイルが弾け、血のように噴水ができる。パイロットは辛うじて無事ではあるが、もう戦闘続行は不可能だ。
敵機の撃墜を確認したユウはオーバーヒート間近のスラスターを停止し、脚部で地面を削りながら加速を止める。
「次だ」
ユウはすぐに切り替えて次の標的を見る。
発砲は未だに続けている。自軍の勝利の為なら味方でも撃ち抜く、敵機からはそういった姿勢が見られた。
スラスターの冷却は間に合わない。今再び吹かせたらすぐにオーバーヒートだ。
故にユウは太刀を腰部にマウントし、代わりにナイフを装備する。
そして腕だけで勢いをつけて近くの敵TTに向けて投げつけた。宙に放り出されるナイフは刃先を敵機に向け、真っ直ぐに吸い込まれていく。
敵のガ・ミジックは回避しようにも間に合わず、そのままコックピットを貫かれる。
「2機撃墜」
カウントを増やす。
そしてスラスターは今の短期間で冷却された。無名に詰めれた強制冷却システムは最新鋭のものであり、加えてミラディエットによるカスタマイズされているので性能がさらに上がっている。
故にスラスターの再度使用が可能だ。
ユウは近くにいるもう1機のガ・ミジックに無名の頭部を向ける。死神の鋭い目が、敵TTを睨みつける。
一方、敵パイロットは混乱し動揺していた。
今の動きは何だ?
味方が何で一瞬でやられた?
一体何が起こっているんだ?
そういった不安、恐怖、絶望がパイロットを支配する。
「冷却完了。いくぞ、無名」
無名を鼓舞するように呟くユウ。
対して無名はそれに応えるようにカメラアイを黄色く発光させた。
⭐︎⭐︎⭐︎
タラスク 機体イメージ「ガンダムヴァーチェ」
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