第6話 緊急会議

 ゼーティウス連邦国東国境軍事基地


 そこの基地のブリーティングルームでは、今まさに、緊急会議が開かれていた。

 緊急会議に参加したのは計5人。東基地総司令官と、ゼーティウス連邦国のエース部隊、通称“フォース隊”と呼ばれる部隊員とその部隊長だ。

 彼らフォース隊は今、カララバ領国境付近で行われた両軍小隊同士の戦闘から唯一生還した兵の証言を、総司令から伝えられているところであった。


「両小隊全滅、でありますか?」


 フォース隊の隊長、フルグレイス・サジャーマンは、そのにわかには信じられないような内容を再度聞き返す。

 総司令はフルグレイスの問いに頷く。そして、


「私もにわかには信じられはしないよ。しかし、これは事実だ。彼らの小隊によるカララバ領国境付近での小規模な戦闘に所属不明機が介入。所属不明機は我が軍、そしてカララバのTT関係なく、無差別に攻撃を開始し、ものの数分で全機を撃破。こうやって結果が付いてきている以上、信じざるを得ないのだよ」


 そう仕方なさそうに言う司令に、隊員が再び聞く。


「司令は、この所属不明機についてどうお考えですか?」


「どうとは?」


「え? それは、こう、その機体の所属の考察や、もしくは第三勢力、他国の武力介入の可能性です」


「ほう、他国からの介入と来たか。しかし残念。今の時代、同盟国というのは資金や資材の援助程度しかせんよ。それをやっていたのは遥か古の世界大戦時くらいだ。故に、他国の戦争への介入はありえない」


「そ、そういうものなのでしょうか?」


「そういうものだ。仮にも他国からの介入だった場合、こんな結果にはなってはおらんよ。しかも単機での介入、そして全滅ときた。逆にどう思う? 戦争にも関与していなかった国が、一騎当千の機体を作り、軍事基地に攻撃を仕掛けるわけでもなく、小さな戦場での戦況が変わる見込みのない実質無意味な戦闘行為。現実的かね? 戦場とは兵士の質も大事ではあるが、それ以上に数が重要だ。たとえ大人と子供の殴り合いでも、数が1vs5では大人でも負けるだろう?」


「た、確かに……となると、報告にあった黒いTTというのは、謎の存在、ということになりますね」


 顎に手を当て、理解する隊員。

 ————しかし、


「そうとも限らんよ」


 その納得は即座に否定される。しかも納得の原因を作った本人がである。

 流石の隊員も、その言葉で「は?」と腑抜けた声を漏らしてしまう。


「私は他国からの武力介入を否定したに過ぎない。所属不明機に関しては、ある程度予想はつく」


 その司令の言葉から、彼はもう既に答えを出しているのだと、周りの隊員は察する。

 しかし、それは彼だけではなかった。


「貧困者支援団体アスオス。戦禍の激しいゼーティウスとカララバの国境周辺で、逃げられない国民達に対してあらゆる支援を行う私設組織。その恩恵を受けた国民からは、正義の味方、とも呼ばれている。彼らの小隊を襲った機体は、そのアスオス所属のTTである可能性が高い」


「そうだ。流石だな、フルグレイス」


 司令は、自身と同じ考えに辿り着いたフルグレイスを讃える。

 フルグレイスは続ける。


「彼の組織は護身や護衛用として、主力争いの際に不採用となったTTのパーツや、今では旧式に成り下がったTTを組み合わせた、独自的で独特な機体をそれぞれに配備していると聞きます」


「その通りだ。所属不明機が現れた付近には、小さいが村が存在していた。現れる条件も揃っている。可能性としては、この線が一番高いと私は思うがね。しかし、だとしても引っかかるところはある」


「そうです。もしこれがアスオス所属のTTであるとするならば、その機体は単機で、しかも旧式で両軍の小隊を圧倒したことになります。それこそ、先程司令も仰った、1vs5の理論を覆すほどです。そんなことが戦場であり得るのかと」


 フルグレイスは腕を組み、その疑問について悩む。

 現在のゼーティウスの主力TTと旧式TTとの間には、天と地まではいかないものの、明らかな差が存在する。

 その差を埋めるには、パイロットの技量が必要だ。しかも複数機相手ならば、もはやそれは一国のエースパイロットだ。

 司令は言う。


「何を言うかと思えば、君も1vs5を覆す似たような存在であろうに。それに関してだが、実は我が軍のデータベースに興味深い情報があった」


「興味深い記録? この件に関係あるのですか?」


 腕を解き、司令に1歩近づくフルグレイス。

 司令はテーブルのタッチパネルに指を滑らせ、壁に資料を写させる。

 そこには、過去に残されていた文字だけの資料があった。


「いいや、あくまで記録があっただけだ。関係あるかは分からない。しかし、この状況下では、いい判断材料になるいいだろう。と言うのも、これは6年前の記録だが、それは————黒いTTを駆る死神と呼ばれた傭兵についての記録だ」

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