第31話 赤と青

 ノアとカララバ。両軍による激しい戦闘はピークを迎えていた。

 数で力任せに押し寄せてくるカララバ軍に対し、経験と戦略で迎え撃つノアの勢力。

 激しい力と力のぶつかり合い。戦況の有利は、奇跡的にもノア勢力側に傾いていた。

 数による圧倒。それも作戦と言える。しかしそれは戦場で使うべき作戦であるかというとそうではない。良く言えばシンプル、悪く言えば幼稚だ。

 そんなものが本格的な戦術に敵う訳がない。無限に湧き出る予算、人員なら話は別だが、これはゲームなどではなく現実。そんなことがあり得る訳がない。非力だと思われていた小さな勢力に対しては尚更である。


 故にこの状況を招いた。

 カララバの戦力は時間が経つにつれてどんどんと数を減らしていった。

 50、40、30と、その戦力数はノア勢力とほとんど変わらない程にまで減少していっていた。


 もはや彼らの背後には増援など存在せず。背後の者達に託すべき誇りも意志も、受け手がいないので悲鳴と共に散っていった。




 そんな残骸散らばる荒野の中を2機のTTは駆け抜ける。

 次世代型のバーニアを光らせながら進むその速さはまるで稲妻。大きく舞う砂塵のカーテンは、その殺人的な速さを物語っている。

 そんな中、赤と黒でカラーリングされたTTに乗る白髪赤眼のパイロット《少年》が口を開く。


「スゲェや! 見事なまでのやられっぷり! 前座には感謝しねぇとな!」


 漏れた言葉は、まるで死人を嘲笑うかのよう。それどころか命落とした彼らに対して興味を持っていないようにも思える。


「No.44、それ本当に思ってる?」


 そんな彼に、もう片方の青と黒で塗られた機体に乗るパイロットの少年が聞く。


「んな訳あるかよ。育成学校でロクな成績が出なかった奴らの最初で最後の晴れ舞台。それでまさかの敗北。だとはいえ、正直に思ったのはただ1つ————ざっこ!」


 その質問に対しNo.44は嬉しそうに笑いながら言う。少年の中には死者達に対しての労いの気持ちなど微塵もなかった。

 あるのは闘争の心のみ。戦いたくて戦いたくてうずうずしていたのだった。


「やっぱりね。まあ、僕も同じだけど」


 それを聞いてNo.45は薄い笑みを浮かべる。


「それにしても、やっぱこのヘルメット窮屈だなぁ。接続されたコード束のせいで頭動かしにくい。あームカつく」


 No.44は頭に被る剥き出しのコードが接続されたヘルメットに手を伸ばす。

 ヘルメットから伸びるコードはコックピット内の後部に接続されており、脳から発せられる信号を機体全身に送り届けていた。


「No.44、脳波コントロールに文句とか言わないで。僕達が気持ちよく戦闘する為には必要不可欠な物なんだから。僕らの会話は録音されてるんだから、文句の内容によってはまたされるよ」


「分ーってる。ところで敵数はどんな感じだ? そっちの機体はレーダー良いんだろ? 教えろ」


 苛立ちながら聞くNo.44。

 No.45はその綺麗な青い瞳を動かし、コックピットに映る高性能レーダーからの機体信号を確認する。


「……8機かな? 真正面だけだと8機いるって感じ」


「少ねぇな。俺らの分も取っとけよ」


「敵はかなり小規模だからね。それでも生き残ってるってことは、それなりの敵なんだと思うよ」


「そういうことだな」


 ニヤリと2人の兄弟は笑みを浮かべる。

 TTによる殺し合いは彼らにとって唯一の娯楽だ。薬や検査はもう懲り懲り。命を賭けた殺し合いはゲームそのものだ。







「? 何だ? この反応……?」


 戦闘を続けていたターラ・カザイールはレーダーに映る新たな反応に困惑する。

 防衛戦も既に終盤。今まで戦っていたカララバ軍の機体もそのほとんどを撃退することができていた。

 残るは敵はあと数機程。そういった時に、突如としてレーダーが新たな反応を捕らえた。


「これは————速い」


 反応は2つ。そしてそのどちらも、異常なスピードでこの戦闘地域へと入り込んできた。

 それと同時に、何故か今まで相手をしていた敵TT部隊が撤退を開始しだす。


「一体、何が……」


 カララバ軍のその謎の動きに対し、ターラを含めたノア正面の防衛陣は困惑した。


 そして、入れ替わるように新手の2機のTTが姿を現す。


 現れたのはベースの造形が同じ赤い機体と青い機体であった。

 頭部のメインカメラはデュアルアイ。体型は硬さと大きさが売りであるカララバ製にしては珍しい細身であった。

 そんな両機を差別化しているのは赤と青のカラーリングだけではない。


 赤い機体「ディナス」は白兵戦を目的とした機体であり、4門のマシンキャノンを内蔵した巨大なランスを片手と脇で抱えながら装備している。加えて両腰部にはサブウェポンである2本のナイフ。

 それ以外には目立って装備されているものはなく、完全な近接戦仕様の機体として仕上がっていた。


 青い機体「エムリス」は中距離戦を目的としたであり、両腕には2丁のマシンガンを装備。加えて両肩部にはロケット砲、両腰部と両脚部とには4連装ミサイルポッドが取り付けられている。

 さらに射撃時の衝撃対策の為に肩アーマーと腕部、胸部、そして脚部には増加装甲が取り付けられている。

 これにより、射撃時の設置性、安定性が向上している。


 目の前に現れた赤青の2機は、防衛部隊を前にすると立ち止まり、その緑色のカメラアイを光らせる。

 その眼はまるで獣のよう。獲物を見つけたことに喜びを隠さずにはいられないようにも見られた。

 そんな2機の機体を目にして、ターラは呟く。


「—————まさか、新型?」






「今前線引いたのは作戦知ってた奴らか。全く、逃げ足だけは速いんだなぁー」


 モニターに映るノア勢力を目にしながら、No.44は呟く。

 レーダーとモニター両方に映る機体数は8。戦闘続きだったのでそのほとんどが小破状態であった。

 それを理解したNo.44は、白い眉間にシワを寄せた。


「なんだよもうボロボロじゃねぇか。それにどれもこれも旧式ばかり。これじゃあ5分も遊べねぇよ」


 No.44は苛立った言葉を吐き捨てる。

 それを聞いたNo.45は「まあまあ」と彼を宥める。No.45は44のストッパー的存在でもあるのだ。


「っまーしゃーないしゃーない。俺ももう子供じゃない。ここは我慢して、限られたおもちゃで遊び倒すとするか」


 諦めと納得、そして我慢を口にするNo.44。

 そして次の瞬間。2人の目つきは変わり、狂気的な笑みを顔に貼り付けた。




⭐︎⭐︎⭐︎




ディナス 機体イメージ「ガンダムルブリス+ジンクスⅢ」

エムリス 機体イメージ「ガンダムルブリス+ジェスタ・キャノン」

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