第1章

第1話 同じ夢

 これは、現在よりも先のお話。

 22世紀の終わりに各地で多発した紛争、内戦、そして戦争により、世界は再び対立状態へと陥った。

 さらに地球温暖化や各地の砂漠化や異常気象により、人類がまともに住める場所は減り、中心都市が科学により発展していくのに対し、辺境の土地では時代を逆行していた。

 そして今、24世紀。

 ヨーロッパのゼーティウス連邦国と、アフリカのカララバ連合首長国による2度目の戦争が始まった。




 ☆☆☆




「……」


 ユウは暗闇の中で瞳を瞼で覆っていた。

 このままではダメだと思ったのか、目を覚まそうと瞼に力を入れた。

 しかし、何故か感覚がなかった。

 故に、自身が今どうなっているのか、どこにいるのか、全く理解できていなかった。

 何も見えない。

 何も触れない。

 何も分からない。

 このままだと自分はどうにもならないのではないか? もしかしたら暗闇から抜け出せず、一生このままなのではないのか? そういった不安が彼を襲った。


「————」


 嫌だ。

 そんなの嫌だ。

 俺はここから抜け出したい。


 願望は届かない叫びとなって彼の中でのみ響いた。

 必死に手を伸ばす。


 動いているのかも分からない。

 それでも変えたい。この状況を。


 感覚がないからどうなっているのかも理解できないが、それでも彼は変わろうとした。自身の変革を目指した。


 ————そして、感覚のない手を誰かが掴んだ。


「リ、ディア……?」


 動かなかった口が動き、その名を口にする。




 ☆☆☆




「起ーきーろ!」


 少女の厳しい声。加えてベッドに与えられる蹴りの鈍い衝撃。

 それによって、ユウは目を覚ました。

 流石の彼でも驚いたのか、体をビクッと震わせる。


「仕事してよ仕事。私ばかり早起きとか、バカみたいじゃん」


 少女の声から苛立ちが感じ取られたのか、ユウは手入れされていない黒髪をわしゃわしゃとしながらすぐに体を起こす。すると窓から差し込む外の鋭い光が目に飛び込んできた。

 鬱陶しいと感じたのか、ユウは目を細める。


「そうか、もう朝なのか」


 自然と言葉が漏れた。

 ユウは視線をベッド横で腕を組む金髪の少女に向ける。


 彼女の名はミレイナ・シェイ。ユウが所属している「貧困者支援団体アスオス」の同僚だ。

 年齢はユウと同じ16歳だが、彼がアスオスに入る前からここで働いているので、実質ユウの先輩である。


「すまない、ミレイナ。昨日は夜遅くまで機体の戦闘データをまとめていたんだ。まとめるのが終了するまでに掛かった時間はおよそ5時間。就寝時間は3時頃だった。この失態は、それが原因だ」


 ユウの口からは言い訳の文章が流れる。反省しているとは思えるものの、その喋り方のせいか、特に何も思っていないかのような無神経な回答とも受け取れる。

 彼の言い訳を聞いたミレイナは、口から「ハァ〜」と溜め息を吐く。

 どうやらミレイナは、彼に対してほとんど怒る気力がないらしく————いや、怒ったところで無駄であると分かっているらしい。

 ミレイナは、冷たく呆れた目でユウを見下ろす。


「へーそれはそれは結構なことで。このTTオタク」


「自分の機体を大切に思って何か悪いのか?」


「ここでそんな言葉が出るってことは、反省してなくない?」


 ミレイナはさらに呆れる。

 しかし、そんなのはよくあること。このやり取りを何週間かやってきて慣れたということはないが、分かってはいた。


「まあいいわ。とにかく、さっさと準備して手伝って。ヘリクもさっきから動いてるから、急いでね」


 彼女はそうユウに言うと、部屋から速やかに退出していった。閉まった扉の先では、何やら物音が聞こえており、準備をしているのが分かった。


「……」


 ユウは1人、ボウッとする頭で窓を眺める。

 光だ。夢の中とは違う、現在を照らす光だ。

 それを改めて見て、彼は安心する。けれど……


「……触れられたのに、また、ここで覚めるのか」


 安心と同時に、彼は残念そうにそう呟いた。

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