元奴隷は最強の下で幸せになる
げびゃあG81
プロローグ
「そろそろ・・・来る時間かな。」
とある世界、とある場所にあるカフェのテラス席。
太陽・・・ではない光源からの光がギラギラと照らすその場所にて、テーブルの上に展開されたパラソルの日陰で紅茶をすすりながら待ち人をしている者が居た。
彼女の名はシリウス。この辺りでは有名な占い師だ。
「・・・お、来たね。」
彼女はそう呟くと、まるでアンテナのようにアホ毛を使い、目的の人物の接近を探知する。そして手に持っていたコップをテーブルの上に置き、やってくる人物を歓迎しようと、用意していた贈り物を懐から取り出した。
「こっちだよ。こっち向いて。」
その行動と同じタイミングで到着した人物・・・グレイアは、無機質だが可愛らしい顔を動かして声の主を探す。
そして彼女を見つけたかと思うと、手に持っているものを見たことで、まるで苦虫を噛み潰したかのような苦々しい表情を浮かべた。
「なんだいその顔は。もしかして、僕の用意した贈り物が気に入らないのかな?」
「いや・・・ノーコメントで。」
言葉を濁しつつ、シリウスの対面に着席したグレイアは、件の「贈り物」を受け取る。
「まぁ、僕が用意したってのは冗談で。正確には僕の後輩、新しく来た子が用意したんだ。」
シリウスはそう言いながらニコニコと笑みを浮かべ、受け取った物体Xをどうしようか苦悩しているグレイアを眺めている。
「そう・・・ですか。いつ入ってきたんです?」
「少し前だね。君の慣れ親しんだ規格で言うなら、だいたい83日前ってとこかな。」
彼女はどこか闇を感じる笑顔をにまにまと浮かべている。その様子を一瞥したグレイアは深いため息をつき、物体Xを虚空に収納した。
そして彼は息を整え、話の調子を自身に合わせるために圧を含んだ声色で言葉を発する。
「はあ・・・それで、今回はなんの用です?」
先程までの押され気味な様子はどこへやら。グレイアは1呼吸を置いた瞬間にくるりと表情を変え、その無機質かつ可愛らしい顔面には似つかわしくない声色でシリウスに質問をした。
「ふふ〜。いくら君とは言っても、僕にその手は通用しないよ?」
しかし彼女はグレイアの圧など歯牙にもかけず、逆に褒めるように彼の頭を撫でた。
その様子はまさに異次元の様相と言って差し支えなく、謎の小さなポータルを介した彼女の手が彼の頭の上に出現している。
「・・・」
自分の行動が結果として締まらない感じとなってしまったグレイアは、なんとも言えない表情をして彼女のなでなでを食らっている。
「それに、僕だってお堅い話をしたいがために君を呼んだわけじゃないんだ。世間話のひとつやふたつ・・・付き合ってくれなきゃ悲しいよ?」
「・・・はい。」
「よろしい。それじゃあ、件の新入りちゃんについて話そうかな。」
シリウスはそう言うと、彼を撫でていた手を引っ込めて頬杖をつく。
すると瞬く間に彼女の目つきは非常に艶かしいものへと変質し、彼を話から逃がさまいと意気込んでいるかのように話を続けた。
「その新入りちゃんなんだけどね、権能と名付けは完全に君の後輩なんだ。」
「つまり・・・所属は記憶のツリーですか。」
「そうだね。トップが序列5位で、その直下に君・・・6位が居るツリー。その下にはさらに8位も居ることを含めれば、お世辞にも馴染みやすい環境とは言えないね。」
グレイアの目をじっと見つめ、何かを要求するようにトントンと机を指で叩くシリウス。言葉にはしていないが、雰囲気にまかせて頼み事を済ませようという魂胆が透けて見える。
「だから、まずは俺と交流させようと?」
「うん。やっぱり君は物分りが良い。」
(アンタがそう誘導したんだろ・・・)
「ただ・・・君にも管理している世界があるよね?」
「ええ。ありますよ。」
「なら、予定は後日伝えるとして・・・」
頬杖をやめ、背もたれに寄りかかって少し悩む素振りをしたシリウスは首を縦に振ると、テーブルの上の飲み物を1口飲んでから口を開いた。
「・・・そしたら閑話休題。今から本題に入ろうか。」
(今回は短く済んだな。)
何気に失礼なことを考えつつ、グレイアは彼女の言葉に耳を傾けている。彼自身は彼女の話を聞くこと自体はやぶさかでは無いようだが、どうにも彼女の魅力や圧が敬遠されている雰囲気を感じるらしい。
「一応、先に言っておく。これは僕じゃなくて───」
まるで己の中に複数の人格が居るかのようなセリフを発した彼女の頭の上には、羽ペンに似たデザインの模様が外周を囲っている天使の輪がちらちらと姿を現している。
「───私、
そして彼女の一人称が変化した瞬間、先程までの奇妙で艶かしい雰囲気とは打って変わり・・・彼女が名乗ったとおりに、まさしく上位存在らしい雰囲気を醸し出すようになった。
「はあ、また何か面白い話でも見つけましたか。」
彼女に関連した話にはあまりいい思い出がないグレイアは、浅くため息をつきながらシリウスに質問を投げかけた。
「少なくとも、私にとっては面白い話だった。でも、それが君にとって何に作用するか・・・これは私にもわからないし、君がそれと対面してどう思うかすらも私にはわからない。」
「・・・悪い方向には向かわないといいですけど。」
「そうだね。ただ、君の意向に沿うかはわからないが、私が観測できた中で確定している未来は大きく2つあった・・・・・そして、そのうちのひとつは簡単なもの。前回と同じで、今度も君は導く者となる。地の底から這い上がる少女を未来へと導く、希望の光となるんだ。」
一言で言えば「美化」。そんな印象を受ける説明に、グレイアは言葉が出なかった。
それを確認しつつも、シリウスは淡々と自身が観測した結果を読み上げる。
「ふたつ。こちらは長いから端的に述べるならば・・・その少女にとって、君の存在はいわゆる、運命の転換点となるだろうね。」
シリウスの発した「運命の転換点」という言葉。
その言葉が耳に入った瞬間、彼の脳内は凄まじく不快な記憶で埋め尽くされた。
「君にとっては辛いと思う。でも、これはまさに・・・」
「・・・世界の奔流。過去に俺が転生者として巻き込まれた、この世界における最悪なシステム。」
「そう。君はその少女とともに、新たな物語へ身を投じることとなる。」
ギリ・・・と歯ぎしりをするグレイアの表情は、今まさに泣き出さんと言わんばかりの子供に酷似していた。
過去に何があったのか。彼はそれを話さないため、シリウスは彼の脳内を把握できてはいない。
しかし、ただ1つ、彼にとっての「
「辛いかい?」
「辛くないわけがないでしょう。まあ、人間からの叩き上げは皆そんなものらしいですけど。」
「・・・謙遜するねえ。」
焼き付いたトラウマに加え、頭の中でぐるぐると回り続ける故人との約束。
覚悟という言葉で濁していてたとしても、数多の人間を・・・もとは人間だった天使を見てきた彼女には理解できていた。
「やっぱり、君は管理者に向いていないね・・・・・下界の人間と関わらなければならないのなら、それ相応に情も湧いてしまうだろうに。」
「承知の上です。過去、世界の本流に呑まれた際の俺の運命は「愛される」ことでしたから。」
「ハーレム・・・だっけ。君の認識じゃ、その中に私も含まれているのかな?」
「それはどうでしょうか。」
ちゃらんぽらんな態度で言葉を濁すグレイアに対し、シリウスは本命のモノを渡すため、話題を切り替えようと話を切る。
「・・・まあ、冗談はこれくらいにして、私からひとつ。君に贈り物をあげよう。」
彼女はそう告げると、懐から1枚の小さな巾着を取り出した。
「君の故郷では、こういうのを願掛けと言うのだろうね。君の歩む物語が・・・少しでも良い方向に向かうように。そして、君に飼われる哀れな少女の幸せを願って。」
「・・・これは?」
「なんの変哲もない、ただのおまじないだよ。中身と意味は内緒。私と僕からの、新たな物語を歩む君への贈り物。」
グレイアは巾着を受け取り、手に取って眺めてみる。
ちょうどお守りくらいの大きさの巾着は、表面と裏面にそれぞれ彼女・・・導の天使と、彼女の上司である幸運の女神を象徴する紋章が記されていた。
「そして、君の巻き込まれる世界の奔流。その物語に・・・私は名前を付けてみた。」
「同じく・・・願掛けだと。」
「うん。君がここに来て、私と出会ったように・・・今は確定していない未来が、私の想う人物となるように。」
まさしく天使のような微笑みでそう話し、シリウスは物語の名前を告げた。
「元奴隷は最強の下で幸せになる───とね。」
───
どうも、G81(←こっちが本体)です。
この度は「元奴隷は最強の下で幸せになる」を読んでくださり、誠にありがとうございます。
初っ端から世界観が前回の本作ですが、何せ素人が・・・しかも成績の悪い木っ端高校生が書いているものですので、かなり読みづらい部分もあると思います。
ですがストーリーは・・・多分、恐らく、十中八九、楽しめるものを提供できると思いますので、続きを読んでくださるとありがたいです。
ちなみにですが・・・願掛けは本来、他人に言うべきではないそうです。
なんとも、神様が自分以外に頼っていると思って嫉妬するそうで。
しかしまぁ、本人であるシリウスと、頼る対象である幸運の女神、そして願いの範囲内に居るグレイアくんは全員が知り合い(という設定)なので・・・とくに問題は無いでしょうね。そういうことにしましょう。
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