17話

「・・・」

「いつまで拗ねてるんだよ。お前のメイドもご機嫌だってのに。」

「誰のせいだと思ってんだクソッタレ。」


口を尖らせ、ムスーっとした態度のグレイア。普段の他人を引っ張ろうとする言動からは想像できない・・・わけでもなく、ニアの言葉とは裏腹に、彼はなにかと喜怒哀楽が激しいタイプのようだ。


「どうです?ご主人様っ!」

「可愛い。作った奴には感謝したいくらいだ。」


まるでそこには居ないかのようにコウスケを除け者にするグレイアだが、それに不満を抱くまでもなく、コウスケはさらに彼を煽る。


「ん?誰に感謝したいって?んん?」


顔を近づけ、本当にウザイ距離感と馬鹿にしたような表情で彼を煽る。


「うるっせえ。感謝してるってんだよ・・・ありがと。」

「それはよかった。今後ともご贔屓に。」


グレイアは拗ねながらも素直にお礼を言い、コウスケはニッコリと笑いながら言葉を返す。


「・・・ああ。近々また来るよ。」


後ろ手で右手を振りながら歩いていく主に置いていかれないよう、エルはコウスケにお辞儀をしてからそそくさとグレイアの後を追って行った。


「うんうん・・・我ながら最高のコーデが完成した。」

「今回もいい仕事だったね。あの子も喜んでたじゃん。」


ベレンはひと仕事終えた雰囲気でコウスケの肩に頭を預ける。


「あいつの隣に居る時点で未来は約束されてる。次会う時が来たら、赤髪の子がどんなに成長してるか楽しみだな。」

「未来は約束されてる・・・ね。確かに、心身共に強くなるかも。」


2人はそう話すとそのまま店へと戻り、忙しい時間帯へと移りゆくファッション街へ対応するための準備を始めた。



~~~



さてグレイアとエルは再び中央へと歩き、今度もどこかへ行こうとしているようだ。


「ご主人様、やっぱりこの服は・・・」

「どうした?個人的にめっちゃイイと思うんだけどソレ。」

「いえ・・・あの・・・」


歩きながらずっともじもじと恥ずかしがっているエルの服装は、とくに露出が高いわけでもない格好。強いて言えばヘソと太ももが結構出ている。

その件の服装は、上半身はへそ上丈のノースリーブインナーシャツに胸下丈で袖がゆったりと余裕のある長袖パーカー。下半身はキュロットパンツとワークブーツを履いている。

そして、ウエスト部分には無駄に品質の良い皮で作られた謎のえっちベルトが装備されている。用途は不明だ。

我々の基準では多少なりともへそ周りと下半身が心もとないものの、この世界ではこの程度の露出はむしろ少ない方。むしろ彼女は露出ではなく「オーダーメイドの服」という事実に拒否反応が起きている。


「値段・・・どれだけしたんですか・・・?」


いくら庶民色が強いとは言え、貴族のもとで仕事をしたことのある彼女は物の値段をある程度知っている。

仕立ての良さと布の質感の良さ。彼女が感じているのは所謂「見ればわかる高いやつやん!」と言うヤツである。そのせいで怖気付いてモジモジしているのだ。


「金貨6枚と銀貨7枚。貴族向けだが庶民色・・・だが少なくとも、これで「庶民です」は無理だろうな。」

「本当に言ってるんですか・・・?」

「そう狙ったんだ。服なんて魔法が使えりゃ基本的に1度買ってそれっきり。なら最初っから良いのを買っときゃいいんだよ。」


金貨6枚と銀貨7枚。それ即ち日本円にして6万7千円。中々の値段だが、その中に「ブランド代」は存在しないため、この服が相当な技術と布でできた代物であることが伺える。


「魔法が使えれば・・・とは?」

「修復系と防護系の魔法を使って服がダメにならないようにするんだ。ちなみに、もう既にその服装一式には件の魔法の術式が編み込んである。」


ニコニコと得意げな表情でそう語る彼からは、よほど彼にとって魔法というものが退屈しのぎに役立っているのかが伝わってくる。


「ちなみにだが、今から向かおうとしてるのは魔法をテーマにしたテーマパークだ。」

「テーマパーク・・・とは何ですか?」


グレイアに向けて質問しているように、エルは出自が故にテーマパークの存在を知らない。そもそも貴族は忙しすぎて遊びに行く暇がないと言うのもあるが、例え遊びに行くとしても奴隷を連れていく阿呆は居ない。

ちなみに、この世界におけるテーマパークは普通にこちらの世界と変わらない扱いのため、彼が今行こうとしている場所を端的に表すのであれば・・・要は大阪のあの場所である。


「何かテーマを決めて、それを主軸に開発した遊園地。まぁ要は沢山遊べる場所ってことだ。」

「なるほど?私は存在を知らないのでよく分かりませんが・・・」

「なら教えてやるよ。昼飯食った後でな。」


グレイアは時計を確認しつつそう話し、時間帯的にも人が少なくなった中央通りに入る。


「時間帯でこんなにも人の量とは変わるものなんですね。」


到着直後との人混みの密度の差に、エルは少し驚きながら感想を述べる。確かに通りの人はかなり少なくなっていて、建ち並ぶ店の詳細もよく分かる。そのうえ、2人が歩いている中央通りは飲食店がとても多く、文字通りに発展の中心だった場所であることが伺える。


「ああ。正確には人の集まる場所が変わっただけだけどな。そろそろ昼飯時だし、少し早いがレストランとかが混む前に昼飯を食べよう。」

「はい。わかりました。」


(・・・ご主人様は食事を娯楽として捉えている。なら、これから確実に美味しいものが食べられるのでは?)


従者らしい所作で彼の後を歩くエルだが、その心の内は確実に「食べ物」に対する期待で支配されていた。

この人の精神状態とかもう極めて健康的な状態なんじゃないかな。


(今から行く店は万人受けする所を選んだつもりだけど・・・喜んでくれるかどうか。選り好みしようにも、味の好みは自分でも分からないだろうしなぁ。)


対してグレイアは相変わらず悩みに悩んだ挙句の心配事で頭の中を埋めつくしている。

とても彼に教えてあげたい。君が思っているほど、彼女の頭の中は深刻じゃないということを。



~~~



さて。2人はしばらく歩き、今度は人気のない裏路地・・・知る人ぞ知る名店がありそうな場所へとやってきた。

ここは裏路地にしてはやたら小綺麗で、地面には白線も引いてある。まるでどこかへ続く列を整理するかのように。


「ご主人様・・・お昼ご飯を食べに行くのではなかったのですか?」


彼女からしてみれば、前にも同じような事があったので大丈夫だとは思うが・・・というヤツだろう。心の中では大方、先日の朝のような寄り道だと補完して納得しているはず。


「ああ。もちろん食事処へ向かってる。それがこの先にあるってだけのこと・・・っと。噂をすれば。」


彼が視線を向けた先にあったのは、いかにもカフェっぽい見た目の入口と、そこに並ぶ数人の客。エルはここで、先程から地面に引かれている線の意味を理解した。


「人が並んでいますが、これで混んでいないと?」

「ああ。ここまで早くても並んでんのはちょっと引くかな。」


流石にかなりの昼前でも人が並んでいるのは予想外だったようで、グレイアはやるせなさそうに頭をかく。

ちなみに、店の前に並んでいる客の格好はどれも「上級庶民」と形容すべき服装で、ここがかなり良い店であることが予想できる。


「さてと。並ぶか。」

「分かりました。」


2人は行儀よく入店待機列の1番後ろに立ち、雑談をしながら順番を待つ。


「それにしても、焦らされる・・・と言うのはこうも想像力を掻き立てられると言うか・・・」

「楽しみでソワソワしてるんだろ?」

「ええまあ・・・私自身、このような感覚は初めてなので、とても不思議な感じです。」


そう話しながら、期待に胸を膨らませて待つエルの姿をグレイアは暖かい目で眺める。普通に微笑ましいので、一時的にだが悩みも飛んでいるようだ。


「あっ・・・そうです。先程のお2人に教えて貰った事があったんです。」

「?」


彼女はどうやら、あの服屋の夫婦に何かアドバイスをされていたようだ。エルはグレイアに寄りかかると、艶かしい手つきで彼の手を引っ張り、ぎゅっと握って指先を絡める。


「この格好なら従者として振る舞うのも違和感がある・・・なので愛人として振る舞うのが自然だと。」


あの夫婦、とんでもない事をアドバイスしていたものだ。流石のグレイアも鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている。


「・・・はぁ。」

(あの野郎、次会ったら土手っ腹に穴ァ空けてやる。)


そして彼はため息をつき、事の責任を全てコウスケにぶん投げる。

続いてエルは少しだけ頬を赤く染めながら、この演技について小声で語る。


「この演技そのものは本来、奴隷なら皆できるよう教育されるのですが・・・何せ、奴隷を傍に置いて出かける貴族など居なかったもので。」


多少闇が垣間見えたところで、待機列が前へと進んだ。


「そうか。でも心の中は見え透いてる。」

「えっ・・・」


彼の自己証明によって、エルの抱いている感情は時々だが筒抜けになっている。


「少しでも俺に媚び売って気に入られるってか?随分と狡猾な考えしてんじゃん。」

「いや・・・ちが・・・それは・・・」


自身の心の内が伝わっていなかったどころか、むしろ全く違う答えが返ってきて焦ってしまうエル。

その焦りようを見たグレイアは、クスクスと笑ってからその言葉を取り消す。


「っはは・・・冗談だ。ちゃんと俺への恩を感じてくれてるってことは分かってる。」

「じょ・・・冗談・・・っ」


自分がからかわれていたことを察した彼女は、頬を恥ずかしさで赤く染めてからグレイアに体重をかけて寄りかかる。


「・・・」

「いやぁ・・・久しぶりに誰かと出かけたからテンション上がっちゃってな。性格の悪さが出ちゃった。」


へらへらと笑いながらそう話すグレイアに、エルはこれが彼が受けである所以なのだろうと察した。



─────



おまけ

主人公「エルヴァ」の詳細な容姿について。

(17話時点)


名前:エルヴァ

種族:エルフ(純血)

年齢:12歳

声:少し細いが、声量はそこそこある可愛らしい声。


身長:167cm

大雑把な顔のイメージ:美しく、可愛さの中にも気品を伴ったエルフらしい顔つき。整った顔が多いこの世界においても群を抜いて美人。

大雑把な体のイメージ:スラリとしたモデル体型だが、今までの食事があまり良い品質と量ではなかったためか少し骨っぽい。太ももは細く、胸は普通より少し小さいが綺麗な形をしている。


髪色:赤色

髪型:後ろ髪は腰までの長さがある長髪ロング。前髪は右に寄った斜め分けで、頭頂部には短いアホ毛がある。

眉:細く、長さに特色は無い。

目:少し緑色が混ざった淡い青色

目の形:良い意味で特色がない。

まつ毛:年齢に似合わず派手気味だが、下まつ毛はまだあまり生えていない。

口:小さくはない。舌が長い。


肌の色:エルフの特徴が色濃く出ており、かなり色白な肌をしている。

胸:少し小さいが、綺麗な形をした胸。

肩幅:あまり狭くはない。

手の諸々:指の長さや形に特色はなく、手の大きさも年齢・身長比で一般的。

肉付き:今までの環境が故に少し骨っぽい。


服(上半身):へそ上丈のノースリーブインナーシャツ、胸下丈で袖がゆったりと余裕のある長袖パーカー

服(下半身):キュロットパンツ

靴:ワークブーツ

アクセサリ:ウエスト部分に皮製えっちベルト、色々な機能がついた腕輪



次話でグレイアの容姿も載せます。

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