木曜日は曇り空

始まりなのか終わりの鐘なのか

 私の体は温かく大きな体に包まれて締め付けられている。

 何も見えない暗闇なのは、私の命が終わるその時だからではなく、私は生まれながらにして目が見えないからである。

 だから、私の耳は他の人よりも鋭く、そして、嗅覚も人並み以上だった。

 彼の猟犬として彼の役に立つぐらいに。


「ああ、死なないでくれ。ああ、これは俺のせいだ」


 私はあなたのせいではないと彼を慰めてあげたかったけれど、もうすでに私の体からは力が失われており、私の身体は死の前の痙攣をしている。

 びく、びく、と命があった事を示す痙攣を終えたら、私はそこで完全に終わる。

 それでも全く悲しくないのは、彼、ヴィクトールが生き残っているから。

 私の為に泣いてくれるからだろう。

 私はあなたの為に泣いてあげれなくなってごめんなさい。


 ピピピピピピ


 電子音がけたたましく鳴り響いている。私はまず煩い時計を止めると、涙の滲みでていた瞼を拭いながら身を起こした。

 これはいつもの夢。

 私の前世の最後の時だ。

 私は自分の部屋を見回して大きく息を吐いた。

 白で統一されたベッドに机に本棚、ファブリックは真っ白なレースを縁どったベビーピンクの洪水だ。

 小さな天使の人形がぶら下っているモビールだって天井から吊ってある。


「天使なお姫様仕様の子供部屋を作ったのが、デーモンの愛人をしている女だってところが皮肉よね」


 私はベッドから降りると部屋の洗面所に向かい、シャワーを簡単に浴びるとクロゼットからドレスを取り出して着込んだ。

 白くて甘い世界を壊すような真っ黒のドレスだ。


「テン、いらっしゃい」


 私が呼びかけると部屋の片隅、日の当たらない影から真っ黒な黒貂が飛び出してきて、私の身体を駆け上がると私の首に巻き付いた。

 この子は生きている黒貂ではなく、私が召喚した魔獣でもある。

 転生した私は魔法が使えるハーフデーモンなのである。


「さあ、準備ができた。さあ、今日も復讐のための一日を無事に過ごしましょう」


 此の世はなんて皮肉に満ちているのだろう。

 私を殺したデーモンが今の私の父であり、私と彼を窮地に落とし込んだ密告者が私の今の母なのだ。


 私の前世時代の夢。

 目が見えますように。

 豊かな暮らしができますように。

 それらは叶えられたが、本気でこれは無いと思う。

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