さあ、その扉を開けて進め
腐りものが嫌いなレークスは、バークが茶色の扉をほんの数ミリ開けただけで音を上げた。
私もそれには賛成だ。
腐り切った汚濁の臭いが押し寄せて来て、私の鼻も曲がりそうなのだ。
これは、レークスの書斎にあったあれと同じで、あれよりも数十倍は強かった。
「あ、臭ぇ。こりゃ無理だわ。後で司法解剖の書類を閲覧させてくれ」
「ふざけんな、お前。曇りのない目はどこ行った。生で見たいんだろ、いいから中に入れよ」
一般人の立ち入りを止めるべきバークは、レークスの断りを聞くや一瞬でレークスをキープアウトの現場に入れたくなったようだ。
バークは私がいない方のレークスの肩をぎゅうと掴んで押し始めた。
「ほら動け。大体よ、お前は死体をバラせるデーモンなんだろうが」
「うるせぇよ。俺は出来たての死体専門なんだよ。ライオンさんなの。死肉を漁るハゲワシと一緒にするんじゃねぇ」
「ハハ。フラーテルのくせに例えにグールは使わないのか」
「――グールはな、デーモンの親戚みたいなものなんだよ。今じゃデーモン如きがグールを小馬鹿にしているが、俺達はもともと共食い多種食いして進化して来たんだ。大体フラーテルなんてふざけた存在に、上も下も無いだろうが」
「あんたはデーモンでも真っ当なんだな」
「俺は個人開業の弁護士だからな。客を選んでいられねぇんだよ」
レークスをぎゅうと掴んでいたバークの手は離れ、替りにその手は友人にするようにレークスの肩をパシッと軽く叩いた。
「ろくでもねぇ」
二人は友人のように笑いあい、しかし、そこでレークスが何かに気が付いたかのように声を上げた。
「おかしい」
「どうした?」
「どうしたもこうしたも、お前は何年現場にいるんだ。どうして死体発見した月曜は無理でも火曜の午前中に死体の搬送をしなかった。できただろ?」
「できないんだよ。あんたにだったらわかるかな。とにかくこの中を」
「どうした!お前達はどうしてここにいる!」
聞き覚えのありすぎる低い声に、私達は一斉に声がした方向に向いた。
私はお尻を向けた格好になったが。
「おや、ヴェイレム・パラディンスキ様。あなたに事務所にてお話がしたいとお伝えしておりましたが、こちらに御足労願えるとはありがたい。ですが、その手の中の少女は何です?誘拐の現行犯ですか?」
「ハハハ。いいか。ああ、ちょうどいいかもしれんな。バーク、その扉を開けろ。俺の手にあるこのガキの首をへし折られたくはないだろう。レークスよ、お前でも良い。そこの扉を開けて一緒に中に入ろうではないか」
レークスは再び茶色の扉へ向き、私は今度は闖入者の方を向く形となった。
「さあ、父親の言うことを聞け、レークスよ」
え?
後ろ手に縛られただけでなく、目隠しと猿轡を嵌められたシャーロットを腕に抱く男はドン風の服を着ていてもエージでしかなかった。
そんなドンの扮装をしたエージの隣に立つのは、内臓が腐って膨らんだような体型のアンジェラ・ママだ。
「ゲテモノ食いここに極まる」
レークスの言葉が思い出された。
ドンが変な愛人を囲ったとレークスは言っていたが、彼と接触をしていたのがエージだったのではないのか?
あの宝石を与えたのはエージだったのではないのか?でも、なぜ?
エージはドンのように悠然と微笑むと空の右手をバークに向かって振った。
「ヴィクトール。お前も一緒にその扉を開けて中に入れ」
バークは無表情になるとエージの操り人形のようにぐるりと向きを変え、バークとレークスは自分に命令を下す男の為に茶色の扉の左右を同時に押し開けた。
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