監禁しますと歓迎

 私とシャーロットはバスから逃げられる者は一人でも多く逃がしたかった。

 だって、バスから私とシャーロットは確実に逃げられないのだから、残っている人が多ければ多いほど、私達の負担になるではないか。


 それに、子供を助けたという貸しを作ることは、魔物としての私達の将来的な生存確率が伸びるのだ。魔物の世界は人間達のマフィアぐらいに面子や貸し借りに拘り、それを大事にするのである。

 それなのに、人狼族の姫であるシルビアはリサを守るために残ると言い張る。


「お前達だって守るよ。何度でも言うけど、あたしがここで一番の年長なんだよ。あたしがお前達を守らなくてどうするんだ!!」


 人狼族はくそ義理堅い。

 そしてシルビアは狼と言うよりも、感覚がゴールデンレトリバーに近いな、そんな風に私は思ってしまった。今目が合ったシャーロットもきっと同じ感想ね。こんな時に彼女と共感力なんて持ちたくなかったわ。


「私達の為に逃げて欲しいんだけど」

「そうそう。わたくしたちのために大人達を呼んできて欲しいの」


「それはセイレーンのアリスとヘイリーがやってくれるさ。あたしはその気になれば中等部の男の子だって倒せるよ」


 シルビアは頑として動く気は無いようだ。

 全くもって頑固者。

 シルビアは私達よりも年上なのは間違いは無いが、戦闘力に関しては思い違いをしている。私はハーフでもデーモンだし、シャーロットは純粋なバンシーであり、私達の方がシルビアよりも戦闘能力が高いのは確実なのだ。


 人間の子供に喧嘩で勝つことと、同じ魔物と生存競争をしてきた経験は違うのよ。


 私とシャーロットは互いに顔を見合わせて互いの意思を目線で交わすと、同時にシルビアに向かい合った。


「な、なんだよ」


「そろそろよ。窓を開けて下さる?アリスとヘイリーを逃がさなきゃ」


 シャーロットは数秒前など無かったようにしてシルビアに頼んだ。


「あ、ああ、そうだな」


 シルビアはガタンと大きな音をさせて窓を全開にした。

 すると、アリスとヘイリーは我先にとその隙間から飛び出して、大きな羽ばたきと共にバスから逃げて行った。


「よし、あいつらは逃げ、ああ!」


 私はデーモンの馬鹿力でシルビアを窓から突き落としていた。

 彼女は落ちながらもクルンと身をひねって安全な道路わきに着地し、私達に対して殺してやる的な指のサインをするとそのまま駆け出して行った。


「これで助けは絶対に来るわ」


「どうかしら。悪運だらけのデーモンと一緒なのだもの」


「あなたが水曜の夜に私の家の前でバンシー泣きなんかするからでしょう」


「土曜の夜にも重ね泣きしましたの。日曜は如何でした?」


「日曜の物凄い不幸もお前のせいか!」


 シャーロットと私が諍いをしている間にバスは目的地の敷地への乗り上げ、私達のバスはパスクゥムの新住人達に囲まれた。

 バスが辿り着いた場所はミトラス教という名の宗教施設であった。

 どこまでも見通せる田舎の牧歌的風景に人工的で不格好な簡易施設が建つ姿は、外観に拘るパスクゥムに対しての冒涜に感じた。


 礼拝施設っぽい丸い屋根の体育館のような建物もあり、その隣には急いで建てたような面白みのないコンクリート造りの四階建ての建物がそびえている。

 広大な敷地に建つその不格好な建物群は、建物の外観から人が住めればよい程度のものだったが、ここがパスクゥムの町の端だろうが住民の誰も建設に気が付かなかった事こそホラーだ。


 バスの子供達はぞろぞろとバスから降りて行ったが、運転手まで降りて行ったのでバスが再出発する気配もなく、代わりにバスに乗り込んできた中年女性がバスを降りない私達の元へとやって来た。

 彼女は私達が彼女の存在を無視をしようとしているのに、自分の自己紹介を私達の頭上で熱に浮かされた様にしてし始めた。


「私はここの子供達を監督する寮母のアンジェラ・ママと申します。さあ、子供は何人でもよろしくてよ!さあさあ、バスから降りてゆっくりしましょう」


 ここの社宅の子供がロボットのように洗脳されているのは、風船のように膨れているアンジェラが子供を追いかけなくて済むようにかと、私は目の前に立ち塞がる障害物に対して意地悪く考えた。

 太り切ったシャチに服を着せた様な体系のアンジェラは、顔の大きさの割に小さな鼻で目玉だけが目立つという太った魚系の顔を私達に近づけた。


 うえ、本気で魚の腐臭のような口臭だ。


「いえ、私達は帰りますので、お気遣いなく」

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