僕には僕かそうじゃないか、だけ
私の危機一髪の助けのように現れたジョスランとシャーロット。
おかげで私はエージに顎の骨を砕かれる事は無かったが、私の顎を砕き損ねたエージには彼らは忌々しい闖入者でしか無かったようだ。
「そうか、てめえか。うちの若集達を昏倒させたって吸血鬼は」
「ああ、ぜんぜん美味しくはなかったけどね。僕に迫るなんて、ハハ、躾はちゃんとしているのかな」
「俺に何を言っているのかわかってんのか?吸血鬼ごときが」
「うふ。デーモンごときが何をおっしゃっているのやら。あなた方はフラーテルでも新参者。力があると言ってもフラーテルの序列では何番目ですの?」
私は貴婦人然として毒を吐くシャーロットに助けてくれてありがとうと言うべきなのに、私の中のデーモンが勝手に騒ぎだしていた。
「煩い!このババア子供が!序列なんて何よ!デーモンが覆してやるわよ!」
「まあ!怖い。わたくし泣いてしまいそうだわ!」
私は自分の立ち位置を確かめた。
私がいるのは、……エージの家が良く見えるエージの家の敷地脇の道路だ。
「やめてえええ!シャーロット!お願いだからやめてええ!」
しかし血も涙もないシャーロットは両目をボコりと真っ黒の闇に陥没させると、あの新興宗教の施設でやったみたいに悲鳴を上げた。
「ひいいいいいいいいいいいい」
空には暗雲が垂れ込め、雲の合間から紫がかった灰色の雲が飛び出して、ひゅんひゅんとエージの豪邸の周りを飛んでから消えた。
「あああ!また呪われたあああ!」
私は頭を抱え、エージは激高した。
そして彼は怒りのままシャーロットを摘まみ上げようと手を伸ばした。
「わお!僕の可愛い子に何をする!」
小馬鹿にしたような口調でジョスランはそういってシャーロットを抱き上げて庇い、ついでにエージの脛を蹴って転ばせた。
「て、てめえ!」
「ダメだよ。この子は僕が加護を与えた子なんだから。手を出しては、駄目!」
道路に両手をついていたエージは肩を震わせて笑い出し、彼が顔を上げた時には整った顔立ちが消しとぶような真っ青な肌に変わっていた。
額からは大きな角が一本出ている。
私はエージの変化した姿にとっても引いていたのだが、エージは私に畏怖されたのかと勘違いしたらしい。
彼は笑いながら私の頭を撫でたのだ。
「怖いか、そうだ。これこそデーモンだ。ハハ!お前が言う通りじゃねぇか!上位の魔物なんだか知らねぇが、吸血鬼何ぞ序列とやらから引きずりおろしてやる。吸血鬼など、デーモンに比べりゃガラス細工ぐらいに弱い体だ」
エージはジョスランに飛び掛かり、しかしジョスランはシャーロットを抱いたままひらりと身をかわした。
身をかわしただけではない。
エージの耳元に囁いても見せたのだ。
「そうだね。普通の吸血鬼はそうだね。でも僕はジョスラン様だよ」
「てめっ!」
ジョスランはとんっと爪先でジャンプして、エージの再びの攻撃を避けた。
「何がジョスラン様だ!貴様はフラーテルの序列という盾が無ければ何もできない屑だろうが!」
「ううん。できるね。だって僕にはフラーテルなんかない。僕であるかそうでないかしか、僕の世界には無いんだよ。」
ジョスランは朗らかに言い切るとつかつかと勝手に歩き去っていき、私達から十数メートル離れたところでパッと消えた。
「ああ!畜生!消えやがった!あの糞野郎!」
私は目を瞑り周囲の風や空気の動きや臭いを探った。
すると、彼とシャーロットは消えたのではなく十数メートル先にちゃんと存在して歩いており、どうやら彼等は私が使う透明術と同じ事をしていたらしい。
死霊というエネルギー体を使って光を捩じって光学迷彩を作るのだ。
彼がバンシーのシャーロットを連れていたのはそのためなのか、いや、シャーロットを使ってエージに嫌がらせの呪いをかけたかっただけなのか?
呪い。
私は地面にどかっと両手と膝を打ち付けて沈み込んだ。
「また呪われちゃった。」
彼等に助けてもらったのか不幸への後押しをされたのかわからないが、とりあえず、明日出会うだろう不幸が怖い。
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