お出掛けという名の尋問
エージの重圧に私は脅え、脂汗がたらたらと私の背中を流れた。
着替えが無いのに!
あ!着替えってところで、私は時間稼ぎが閃いた。
「パパ?何でも買ってくれるの?何でも?」
「もちろんだよ」
「じゃ、じゃあ、明日のお洋服を買って!今すぐよ!古着屋のエッグバーニーだったら、私の好きなお洋服のブランドが売っていたはずだもの!」
「大人服しか無いだろ」
「こどもでも着れる服もあるのよ!とにかく行きましょう!私は明日もこんなダサい服を着たく無いの。こんな服を着ているローズを他に見せたく無いの!」
テレビドラマの子供のようにエージの手を掴み、そしてリリーには聞こえない声で囁いた。
「ねえ、二人きりで買い物は初めてだわ。ママにお話しできないこともパパ一人だったら教えてあげられる」
私の意図が掴めたのか、エージはリリーにしゃがんだまま振り返った。
「行ってくるわ。君も町で買ってきて欲しいものがあるか?」
「いいえ!行ってらっしゃい。あなた達」
物凄く幸せそうに笑顔をリリーは顔に浮かべ、何も知らないのか全部知っているのかわからない女に私は行ってくると微笑み返した。それから、大好きな父親に娘がするようにして、私はエージの腕に絡まりながらエージとエージの家を出たのである。山奥で殺される予定の人みたいな心持で。
エージは若集の一人に車で先に出て行かせた。私とエージの数メートル後ろには、二人の若集が護衛と言う風に歩いている。つまりこの状況は、車が待つ大通りに私達が出るまでに、エージが知りたい事全てを私が洗いざらい話せばならない状態なのだと理解した。
大通りに着くまでに私が生きていられるだろうか。
「ねえ、テンちゃんを返して?」
「急にしおらしいな。そんなに大事か?」
「だって、最高のペットよ。うんこもしないし、餌も必要ないもの」
「ハハハ。本気でろくでもねぇな!返すがな、あのお姉さん服はどうした?」
「きれいだから買った。スパンコールが付いていたり、全部レースだったり。ミニドレスって書いてあったから子供用かと思った」
「子供には不要なパンプスはどうした?」
「おっきくなったら履くもの。いいなって思った時に買わないとでしょう!十年後には売って無かったら困るじゃない!」
「てめぇは!嘘ばっかりうまいな。さすがデーモンの子供だよ」
エージは私の口を塞ぐような形で右手で私の顎を掴んだ。
まだ痛みは無いが、これから顎の骨を砕くぞ、そんな脅しだ。
「いいから話せよ。てめえは匿っていたかなんかのお姉さんでもいたんだろ。デーモンの末端で、俺達に従えねえって糞なやつらのさ」
「そんな人たちがいたの?」
私の顎はこきゅっと絞めつけられた音を立て、私を見下ろすエージはその音に理性が飛んだのか、小動物を殺す快感に打ち震える子供の狂気を目に宿した。
終わりだ。
「あ、お疲れ様でーす。お散歩ですか?」
エージは自分への挨拶の声にあからさまにびくりと震えた。
私だって脅えた。
見通しの良い通りにはジョスランの姿形も無かったはずだ。
「て、てめえは!」
見るからに慌てふためいたエージは手を緩め、自由になった私はどさりと道路に尻餅をついた。
「こんにちは。久しぶり、なのかな?僕は人の顔をあんまり覚えない性質でして。ええと、デーモン族の顔立ちですが、誰ですか?」
「六番目のエージですわ。ジョスラン先生」
私は聞き覚えのある子供の声に振り向けば、銀色に輝くシャンタン生地のコクーン型のコートを羽織り、アッシュブロンドの髪を編み込みではなく捩じって色ガラス付きのピンでとめる、という髪形をしたシャーロットがジョスランに手を引かれている、という姿を目にした。
ジョスランはジーンズにブルーのボタンダウンシャツという組み合わせで、そこにゆったりとした紺色のセーターを着ているという大学の講師風だ。
コーディネイトがちぐはぐのようで妙に似合っている二人は、素敵なものを見たという風に目を輝かせて腹話術人形のような気味の悪い笑顔を浮かべていた。
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