エージの棺は教会の墓地の一角、パラディンスキ家が所有する区画の一つに埋められた。

 広々とした敷地に三基目の墓となるだろうエージの墓の盛り土。

 何十人何百人といたかもしれないデーモン一族の墓がたった三基だけというのは皮肉だと、それだけ共食いをしてきたのだろうと目を瞑った。


 私もいつか喰われるのであれば、私を喰う事しか考えていなかったエージをちゃんと見送ってやることで、私もエージのようにせめて墓を持ちたいと望んでいると、そう、私を喰おうとする者には知って欲しい、それだけだった。


 自分が自分でないと死んでからも思い込まされ続けていたクロエよりも、私は誰にも気づかれないままに喰われてしまったシェリーの方が可哀想だった。

 クロエはバークにもレークスにも愛され思いやられていたが、シェリーは誰の記憶にも残っていないのだ。


「ローズ。家に帰りましょう」


 リリーは私に手を差し伸べ、私はリリーの手を取った。


「あなたは嫌かもしれないけれど、家具はヤニ臭いままでいいかしら?私はもう少し愛する人がまだ生きていると信じていたいの」


「よくってよ、ママ」


 リリーならば私が消えていなくなっても、私のよすがを残してくれるだろう。

 私が生きていた頃を絶対に忘れないでいてくれるだろう。

 私はリリーの手を強く強く握った。


「ローズ?」


「ママは長生きしてよ。ずっとずっと長生きしてよ」


 私が消えていなくなっても、私の事を覚えていてよ。

 私は自分が殺された前世の恨みなど完全に捨て、現世で私を純粋に愛している情の深い母親の胸にしがみ付いていた。

 彼女だけが私の生きていた証の墓石になってくれるであろう、と。

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