失態と失敗
「な、なんで、バラバラにした上に、子宮まで抜くかな」
「子宮を抜いたからバラバラにしたんじゃねぇか!」
「ど、どうして、子宮を抜かなきゃならなかったの?」
「そんなの、俺のDNAを胎児から調べられたら事じゃねえか!個人的には人間とデーモンの遺伝子の違いって奴も知りたかったけどな。ハハハ。ついでに死体を切った鉈はバークの家に捨ててやったぞ!」
バークが婚約者の死をデーモンだと思い込んでいた理由がわかった気がする。
バークに罪を着せようとした男が婚約者を寝取ったデーモンなのだ。
いや、レークスが何もしなければデーモンの殺しと思わなかっただろうが、レークスが追加でやった行為によって恐らくレークスこそ犯人だと、いや、婚約者を殺したデーモンを知っているか私に聞いて来たことから、婚約者殺しの実行犯を捜していたのかもしれない。
バークから婚約者を奪った男にも事情聴取があるだろうし、その男が覆せないアリバイが、そう、私がやったように影武者がいれば簡単だが、法廷で証拠だと使える訳も無いから無罪放免だ。
私は新たな情報にくらくらしており、この事態の変化はジョスランがシャーロットにバークの家にも呪いをかけさせたのかと邪推してしまうぐらいだ。
「奴はそれで第一容疑者になったのだけどな、実際の殺しの証拠の方を上手に隠滅していたのか、逃げきりやがった。俺はあいつに復讐をしたい」
私はレークスをまじまじと見上げた。
「復讐?人間の女を愛していたの?」
彼は私を見下ろして鼻に皺を寄せると、私に対してチィと舌打ちをした。
「てめえも半分人間だろうが。いや、その性格の悪さから考えると、てめえは成長過程で人間細胞が死滅してデーモンの細胞しか増えていないんだろうな。ほんっとにてめぇは血も涙もねえ。あんなに自分を可愛がっているエージを親父のディナー皿に乗せようとしやがったからな」
「え?」
「俺達はびびったぜ。親父に猫可愛がりされているお前がエージに食べられそうだって言った時にはよ」
「ええ?猫かわいがり?あれが猫かわいがり?私はお祖父様に耳を切られてよ!あなたは耳を切るのが可愛がりなの?痛めつけられるのが嬉しい人なの?」
レークスは無表情な顔を私に数秒見せつけると、私の頭をパシッと叩いた。
「あの吸血鬼様がお前を可愛がる気持ちがわかって来たな。俺に脅えるどころかディスってくるガキは珍しい」
確かに、ドンの息子六人のうちインテリヤクザであるレークスは、一番怖い人だと脅えるべきなのかもしれない。
マフィアがゴミ収集業者となって町を支配しているように、パラディンスキ家もゴミ収集部門があってパスクゥムのゴミ関係は完全に独占掌握している。
パラディンスキ家に叛意を持つ家のゴミは収集しない捨てさせないという嫌がらせを考えたのも彼だと聞く。
判り易い殺しや暴力の脅しを受けるのでなく、社会的抹殺された上で命まで奪ってしまうだろう怖い男であるのだ。
私は今更にレークスへの脅えがゾゾっと来たが、自分に怖がらない私に興味を示しているという点を頼みに両足に力を込めて恐怖に耐えた。
「ハハハ、判り易い。急に踏ん張った。ウンチしようとする犬か猫みたいな顔で踏ん張った。バカだ。判り易い馬鹿だ!」
私のレークスへの恐怖は消えていないが、脅えていた分の感情の爆発は起きた。
「何が馬鹿よ!あなたこそ馬鹿よ!あなたはデーモンでしょう!ほんとーに恋人だったらクロエの私物ぐらい持ってたでしょう。それでクロエの死霊から犯人やあった事を聞き出せば良かったじゃないの!」
私は猫のように摘まみ上げられた。
私はレークスの顔の前にまで引き上げられたが、レークスはご神託を手に入れた様な顔で両目を光らせていた。
「すげえな、お前。親父と同じ技が使えるんだ」
「え、え?デーモンだったら誰でも死霊と話せるでしょう」
「できねぇよ、馬鹿。ハハ、すげえぇな!エージは知ってんのか?その技を」
私は首をぶんぶんと横に振って否定する事しか出来なかった。
「道理で親父がお前を引き取りたいって騒ぐはずだぜ。親父はお前の能力の高さをなんとなくだが気付いているんだな。お前に散々に信託財産を積み立てているって知っていたか。あのケチ親父が二十三人の孫のうち、お前にだけ財産を分けているんだ」
「し、知らないけど、それはお祖父さまが大事だって扱う私を殺したりすることがお祖父様への反抗の印としてみなせるからじゃない?ええと、私は単に攻撃を受けるためのデコイなんじゃないの?私が死んだらその分けた財産はお祖父さまに戻るのでしょう。彼には損はないじゃない」
「だな。ハハ、エージの血を引いているにしては、ほんとーに賢いな。賢いついでにお前は俺の駒になれ。ここでイエスと言わなければいけない理由は、なあ、賢いお前はわかるよな」
私は頭を大きく上下させた。
レークスは私の能力を黙っている代わりに駒になれと言っているのだ。
姪に子供用椅子を買ってくれるデーモンなら、人間を愛したデーモンなら、もしかして、そんな悪い風にはならない?
「よし。俺の家に行こう!」
彼は私を猫にするみたいにして肩に担ぎ上げると、店主と相談途中のリリーに声を上げた。
「俺がローズの見守りをするよ!話が終わったらエージとお邪魔虫無しでゆっくり遊べばいい!」
リリーはレークスの提案に、多分聖母ぐらいの笑顔を見せた筈だ。
レークスの肩の上で背中側に頭を下にしてぶらぶらしている私にはリリーの表情などわからないが、物凄く幸せそうな声が家具屋で響いたので絶対にそうだ。
「まあ!レークスさん!ありがとう!お優しいのね!」
「呼び捨てでいいよ。妹になるんだろう」
私はレークスの肩の上で二つ折りになってぶらぶら揺れながら、デーモンの猫かわいがりって言葉通りに猫扱いするだけの事じゃないかと考えた。
こんな扱い、猫こそ嫌うだろうが。
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