助けがなかなか来ないわけ

 私達の冒険は町まで行く必要は無かった。

 走り出してすぐにピックアップトラックに行く手を阻まれたのだ。

 そのトラックの助手席にはシルビアが乗っていた。

 シルビアはぴょこんと車から降りてくると、私達の方へと駆けて来た。


「大丈夫!リサは大丈夫だね!ああ、ローズがいないじゃないか!」


「そこにいますわ。服が無いから変装は解けないわね。リサは洗脳されておかしいから眠らせています。で、その車に乗っていいのかしら」


「もちろんだよ。そのために来たんだ」


「ほら、手を貸すよ。町が散々な状況でさ、居場所もわかんないこともあるし、君達を迎えに来るのが遅くなってすまないね」


 運転席から降りて来た男は、保安官助手のジェイク・リンドンだった。

 胸には光っていたはずのバッジが無い。


「俺は保安官よりもティリアに忠誠があるからね。嬢さんの頼みは断れねぇよ。職務違反でまた無職だなあ」


「まあ、職務違反をなさってまで私達を助けに来てくださったのね。ありがとうございます。それで、先ほど町が散々だとおっしゃいましたけれど、町で一体何があったのかしら」


「住人の反乱だよ。魔物から人間の生活を守るって急に暴れ出して、ペンキで人様の家の玄関ドアにバッテンを描いて回っている。バッテンを描かれた家の人間は魔物だって、暴力を受けた人もいる」


「抵抗は?」


「町の暴動をビデオに撮っているテレビクルーもいるんだ。全世界にフラーテルの存在を知らしめるわけにはいかないって、フラーテルは人間の振りして逃げまどっている。でもすごく怒りを貯めているから怖いよ」


「そうなんだ!あたしの父さんも保安官と一緒になって暴動狩りをしていたけど、凄く怒っていて怖い」


「それでシャーロットの家のありかを知りたがっていたのね」


「て、おわ!ローズ、服を!」

「うわ!お嬢ちゃん、服を!」


 人狼族はなんて心優しいのだろう。

 私が扮装を解いた途端にシルビアもジェイクも自分が来ている上着を脱ぎ、二人同時に私に差し出して来たのだ。


「まあ、ありがとう。でも変化し直すだけだから大丈夫よ。馬は後部座席に大きすぎでしょう」


 私はいつものようにスタンダードプードルに変化しようとして、でも、急に私の前世だった姿を取ってみようかなんて思ってしまった。

 実は自分の前世がブラッドハウンドだと知っても私は検索などしていなかった。やっぱり乙女心として、本物の犬だったことは認めたくなかったのだ。だからブラッドハウンドなど見たことも無いし、盲目の私が自分の姿など見たことも無いのだから、私は目を瞑って前世の自分であった自分を想像しただけだ。

 ここには人狼と言う犬系のスペシャリストがいる。

 そんな犬はいないよって言って貰えたら、私の前世が犬だったってこと自体が間違っていたかな、って思い込める気がしたのだ。


「うわ!凄く可愛い!」

「け、結婚してください!姫!ああ、なんて美しいんだ!」


 まあ、ブラッドハウンドってそんなに素敵な犬だったの?

 そうね、バークが選んだ犬だものね。

 そうよ、あのバークが私を抱き締めて、子供みたいにワンワン泣いたのよ。

 私の前世は最高の犬だったに違いないのよ。

 シルビアとジェイクの称賛に気が良くなった私は、ウキウキ気分のままピックアップトラックのミラーに自分を映してみた。


 ハハハ、狼の感性ってわかんない。


 茶色の地に背中だけ黒いというカラーは普通だが、全体的にずんぐりとした体は筋肉質で闘犬みたいだ。

 そして、そんな固太りしている体には、小さな褐色の瞳と太くて短い口吻という組み合わせの、普通の犬よりも大きい頭が乗っている。

 大きな垂れ耳は大きいだけで可愛らしさも無いし、喉元の皮など弛んで下がっているという有様だ。


 私の前世は、愛玩犬には絶対になれない、ものすごい強面犬であった。

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