第8話 初めての義実家(予定)
萌は悠の実家のドアの前に立った途端、真理達と話した勢いが消えてカチンコチンに緊張してしまった。
「萌、そんなに緊張しないでいいんだよ」
「緊張しないわけないでしょ!」
「俺が萌んちですごく緊張した気持ち、分かるよね?」
「うん、今になって分かった」
悠はドアノブに手をかけた。
「ま、待って!」
「もう俺の親、俺達に気づいてると思うよ」
「えっ! ちょ、ちょっと待ってね」
萌はすーっと大きく息を吸って吐いた。
「じゃあ、行こう」
悠がドアを開けてすぐに『ただいま! 彼女連れてきたよ!』と叫ぶと、ドタドタと高校生くらいの女の子が玄関に走ってきた。その後ろから悠の両親も急いで出てきた。
「わー、これが兄ちゃんの彼女!? こんなかわいい彼女、兄ちゃんにもったいない!」
「こら! 最初に挨拶でしょ! それにこれ呼ばわりは失礼よ!――ようこそ、いらっしゃい。悠の父と母です。で、この失礼な子は悠の妹の
「ママ、ヒドイ! 私のどこが失礼な子なの?!」
悠がボソッと『全部だよね』と言ったので、萌は必死に笑いをこらえた。
「そんなの無視して、さあさあ、中に入って」
「そんなのってひどい!」
ブツブツ言い続ける由香に構わず、悠の両親は2人を居間へ連れて行った。そこでソファに座るよう勧められて萌は自己紹介した。
「あの、改めて初めまして。佐藤萌です。悠さんから聞きましたが、卒業後の同棲を許して下さったそうで……ありがとうございます」
「そんな、うちはお礼なんて言われることはないのよ。逆にまだ結婚しないのに同棲を許しちゃって佐藤さんのご両親に悪いわ」
「でも母さん、俺達は2、3年以内に目標額まで貯金して結婚するつもりだから」
「まあ、そうよねぇ。今時大学卒業してすぐ結婚は早いものね」
「でも兄ちゃんがあの性悪真理姉ちゃんとくっつかなくてよかったよ」
「由香、やめなさい!」
由香が真理のことを持ち出して悠の両親は慌てた。
「いいよ、ほんとのことだから。俺はもう真理とどうこうなる気なんてずっと前からなかったよ。彼女も今は商社マンになる彼氏とうまくやってるみたいだよ。さっき、家の前で真理と彼氏に偶然会ったんだ。今頃、隣でも同じようなことやってるんじゃないかな」
「えっ、真理姉ちゃん、商社マンの彼氏いるの?! 玉の輿だね! でも商社マンはモテモテだって言うから、浮気されまくるかもね。フフフ、そうなったらざまぁみろっての!」
「ちょっと、由香! 口が悪すぎるわよ。そんなことばっかり言ってるなら、自分の部屋に行きなさい」
「ヤダよぉ。ここにいる!」
ガヤガヤとにぎやかな園田家は、萌にとって心地よく、緊張が自然に解けていった。
--------
これでこの番外編1は完結です。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。引き続き、一度袂を分かった真理と野村の再接近を描く番外編2もお楽しみください。
萌と悠が萌のお父さんに車で迎えに来てもらったシーンを書いていて、学生時代に父親に駅に迎えに来てくれた時のことを思い出しました。父親の車と間違って知らない人の車のドアをいきなり開けて「お父さん!」と呼んでしまったことがあります。何の変哲もないありきたりの白いセダンだったので、間違ってしまいました。萌のお父さんが駅まで迎えに行く様子を書いていて大恥かいた昔を思い出しました。でもこれ、日本だったから笑いごとで済んだけど、アメリカとかだったら命の危険あったかも?!昔、ハロウィンで間違って別のお宅を訪ねた日本人留学生が射殺されてしまったという悲劇がありましたよね……
当初は重要な要素としていた津軽弁ですが、私の知識不足で作品中で結局あまり使えませんでした。番外編で出てきた萌の両親は津軽弁ネイティブという設定なのですが、少ないボキャブラリーとネット検索では津軽弁の台詞を十二分に書けませんでした。ということで、千葉出身の悠の前では萌の両親も標準語を話しているということでご理解下さい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます