第10話 再会

「いらっしゃいませ!――あ……先輩、お久しぶりです」


 萌達が辞めてしまったテニスサークルのイケメン先輩相良さがらりょうが同年代の男の子達と居酒屋に入って来た。


「おお、佐藤さん! 久しぶり! ここでバイトしてたんだ」


「はい。今、お通し持ってきますね」


「あ、待って。佐藤さんと中野さん、やっぱりサークルに戻ってこない? 佐藤さん達がいないと寂しいよ」


 イケメンにそんなことを言われて萌はついどきっとしてしまった。


「いえ、運動苦手なのを痛感したので、勉強とバイトに専念します」


「あーあ、相良、振られちゃったね。こんなかわいい子、お前のサークルにいたの?」


「あれ? この子、去年のミス甲北じゃない?」


「あ、すぐにお通しお持ちします!」


 萌はそそくさとお通しを取りに行った。カウンターには料理を取りに来た悠もいた。


「佐藤さん、あのグループに絡まれてたの? 大丈夫?」


「ありがとう、大丈夫。あの中の1人がテニスサークルの先輩なんだ。でもサークルは辞めちゃったけどね」


「そうなんだ。助けが必要だったら俺を呼んで」


 萌は悠に礼を言って相良達のテーブルにお通しを持って行った。その後、特に相良は萌に話しかけることもなく、グループで飲み食いし、相良は会計のためにレジまで来た。


「先輩、まとめてお会計でいいでしょうか?」


「うん――ねぇ、佐藤さん、今度連絡してもいい?」


「え? 先輩、私のID知ってましたっけ?」


 萌は、つい本音が出てしまった。


「サークルのメッセージアプリのグループに入ってたでしょ?」


「私達、サークル辞めましたからグループからも抜けましたけど」


「でも俺、記憶力いいから」


 ――ゲゲゲー! 覚えてなくていい!

 またあの筋肉痛の日々には戻りたくない萌は、気がつかないうちに顔をしかめていた。


「でも私、テニスしないから、先輩に連絡する用事ないですよ」


「ご飯でも食べに行こうよ」


「え……」


「あ、佐藤さん、お酒好きだったよね。じゃあ、飲みに行こう」


 少々強引な相良に戸惑ってレジを打つ手が止まってしまった。そこに店長から声がかかった。


「佐藤さん、悪いけどレジ早く済ませてこっち助けてくれない?」

「あ、店長、すみません! 今、急いで会計します!――相良先輩、すみません、お店に迷惑かけちゃってるので、急いで会計しますね」


「あーあ……邪魔が入ったか……」


「え? 先輩、何か言いましたか?」


「いや、何でもないよ。それじゃまたね」


 会計を済ませていった相良達が出て行ってから、萌は急いで店長のところへ行った。


「会計で時間をとってしまってすみません」


「今は混んでないから大丈夫だよ。それより佐藤さんのほうこそ大丈夫だった? 俺はキッチンから出られないから、そういう時は他のフロア担当に頼って」


 萌がフロアに戻ると、悠が話しかけてきた。


「サークルの元先輩だっけ、やっぱり絡んできたね。ごめん、注文とってて気がつかなかったよ。大丈夫だった?」


「うん、大丈夫。ありがとう。それより最近、大学で新田さんにまた絡まれるんだけど、何か知ってる? 新田さんもほんとは園田君と同じバイトしたかったのかな?」


「誘ったけど断ってきたよ。アイツはモデルしてるから居酒屋バイトなんてしたくないって」


「そうなんだ。誘われたのに断ったのなら、なんでまた絡んでくるんだろう?」


「あんまりひどいなら俺から文句言おうか?」


「え、大丈夫だよ、このぐらい。それより仕事に戻るね」


 これで悠が真理に文句を言っていたら、もっとひどいことになっていただろうとは、2人とも呑気にも全く思っていなかった。

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