第11話 降雪注意報

園田君は、バイトの時と大学で全く違う性格のように見える。居酒屋では園田君は他のバイトさん達(と言っても店長を除くと同時に働いてるのはフロアに2人、キッチンに1人しかいないけど)を気遣ってよく声をかけてくれるし、バイトのLINEグループでもたわいもない話を投稿したり、店長と世間話をしたりもする。


大学では彼があまり人と話してるところを見たことがない。新田が話しかけてるのをたまに見るけど、あんまり相手にしてないみたい。でも最近は大学で私とも話すこともある。だいたいバイトの件だけど。


こんなことを考えてたら、園田君に話しかけられてびくっとしてしまった。


「佐藤さん!……あ、ごめん、驚かせた?」

「ううん、大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」

「そう、ならよかった。ところで今度の金曜日のバイト、代わってくれないかな?降雪注意報が出てて帰宅できなくなっちゃうかもしれないから」

「私もシフト入ってるよ。でも雪で帰宅できなくなるほどなら店長も店開けないんじゃない?」

「うーん、それはなさそうだよ。去年もそういうことあったけど店開けてたし」

「でも多分お客さんあんまり来ないだろうからフロアは私1人で足りるんじゃない?私も結構慣れたから1人でも大丈夫だよ。店長だっているし」

「その日にキッチン補助のシフト入ってた桐山君が俺より家が遠いから、俺がフロアとキッチン兼任することにしたんだ。それに雪がやむまで店で待つお客さんが案外多かったりするかも。去年もそうだったよ。皆、仕事休みになるわけじゃないから」

「そうなんだ。じゃあリコに聞いてみたらどうかな?」


でも園田君がリコに聞くよりも、私がリコに会うほうが早かった。


「えー、その日、高校の先輩の結婚式に呼ばれてるんだよね」

「そっかー。じゃあダメだね。でも結婚式から帰って来れなくならない?大丈夫?」

「大丈夫。式場のホテルの部屋を用意してくれるって」

「まさか自腹じゃないよね?」

「ううん、だったら死に物狂いで帰るよ。新郎新婦が負担してくれるって」

「よかったね。でも新郎新婦、親がお金出してくれなきゃすごい負担増だね。雪がすごく憎くなりそう」

「ほんとだよね。私は他人事だけど、先輩は踏んだり蹴ったり?」

「たった5センチの降雪予報でこんなに大騒ぎするっていうのが私には理解不能だけどね」


私の故郷青森では、1晩で膝の高さぐらいまで雪が積もることもざらだ。だからたった数センチ雪が積もっただけで大混乱になる東京の様子を聞いた時には正直言ってびっくりした。でも実際に東京に住んでみると、東京は青森と違って電車や地下鉄網がびっしり広がっていてダイヤも数分置きだから無理もないなと思えるようになった。


リコと2人で話していると、園田君が来るのが見えた。


「園田君!リコ、結婚式に呼ばれてるからバイト代われないって」

「園田君、ごめんね」

「店で夜明かすから大丈夫。店長もそうするって言ってたし、どうせ次の日、何も予定ないし」

「でも店って横になれるとこないでしょ?店長も通勤してるんだよね?」

「うん、でもまあ、1晩ぐらいテーブルに突っ伏して寝ても大丈夫だよ」


それを聞いた途端、宿泊の提案が口を衝いて出てしまった。


「ねえ、リコ……園田君にうちに泊まってもらってもいいよね?」

「えっ、まぁ、そりゃ…うちは2部屋あるし…」


急に言われたリコは駄目とも言いにくくて口ごもってしまった。それに気付いた私は気まずくなった。


「1晩ぐらいベッドで寝なくても大丈夫だよ。女の子だけの家に泊まるわけにいかないし」

「園田君、狼じゃないんだからそんな心配しなくたって大丈夫でしょ」

「そりゃそうだけど……泊めてもらうのは悪いよ」

「1晩ぐらいなんともないよ。ね、リコ?私がリコの部屋で寝かせてもらえば大丈夫だよね?いいよね?」


なんか引っ込みつかなくなってリコに大丈夫だよねと連発してしまった。リコは『あ、うん…』と歯切れの悪い返事でどうするかはっきり結論が出ないまま、私達は園田君と別れて帰宅した。

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