第30話 雨降って地固まる

「悠、おはよ!」

「あ…萌…おはよ…」

「どうしたの?なんだか元気ないよ」


萌と悠は下の名前で呼び合うようになっていたが、ここ数日、悠は心ここにあらずといった感じだ。


悠は真理の言った『うそ告』が気になってしまっている。真理との長年の付き合いで彼女が何か企んでわざと言ったはずとわかっていても、萌にムーンバックスに呼びされたのは確かに不自然だったからモヤモヤしてしまう。


「ねえ…悠?何か気になってるなら教えて。疑問はすぐに聞いて解決するって約束したでしょ?」

「うん…じゃあ、今日、授業終わったら、萌のうちで話そう」


それから1日中、萌は気もそぞろで授業どころじゃなかった。悠ももちろんそうだ。

4限後、リコは気を利かせて孝明の部屋へ行った。萌と悠は無言で電車に乗って最寄り駅で降りた。駅から萌の部屋までの道のりも無言で居心地が悪い。


ガチャガチャ――


萌は鍵を開けて部屋に入った。


「悠、コーヒー飲む?」

「あ、うん…」

「私の部屋で座ってて。すぐに準備する」


キッチンでコーヒーメーカーとミルクフォーマーの準備をして萌は悠の待つ自室へ入った。


「悠、何悩んでるの?」

「えっと…」

「言いづらくても話して。後に引きずるほうがまずいと思うから」


それを聞いて悠は大きく息を吸って話し出した。


「うん…『うそ告』って知ってるよね?」

「う、うん…聞いたことは…あるよ」


萌は悠と目を合わせられず、冷や汗が出てきた。


「実際にやる人も…いるんだよね?」

「あ“-、どうかな?」

「萌が俺と初めてまともに話した日…ムーンバックスで友達になってって言ってくれたよね?あれって…本当は真理に対抗して俺にうそ告するためだったって本当?」


悠の瞳は揺れていて『嘘であってほしい』と思っていることが手に取るようにわかる。


「えっと…と、友達に…なろうってキャンパスで言ったら、新田さんがうるさいでしょ?」

「どうして俺と友達になろうって思ったの?」

「えっと…それは…あっ、コーヒーできてるよ!ちょっと待って!」


萌が立ち上がろうとすると、悠は腕を掴んで離さない。


「萌!コーヒーなんてこの際、どうでもいいよ!ちゃんと話して!じゃないと俺は…萌と一緒に…いられない!」


悠は普段より一段低い声を絞り出すように最後まで言い切った。


「ごめんなさい…うそ告しようとしてたの、ほんとなの…私…私…もう悠と一緒にいられないね…」


萌は悠の腕から逃れようとした。その瞳はもう濡れている。


「じゃあ、萌の今の気持ちは?」

「もちろん…悠が…好き…」

「俺も萌が好き。なら俺達、両想いだ。これからも一緒にいられるよね?」

「うん…うれしい…」

「俺も…」


悠は、萌の頬に流れた涙を吸い取って唇を重ねた。


「これからも一緒だね」

「うん…あ!コーヒー!忘れてた!飲むよね?」


ムーンバックスで初めて2人で飲んだコーヒーも、この日飲んだコーヒーも、萌と悠は忘れないだろう。

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