第29話 幼馴染が横取りされた!
萌が4人で初めて一緒に学食へ行った日の午後、真理は親衛隊ボーイズ&ガールズとキャンパスのカフェテリアにいた。
「真理ちゃん、知ってる? 真理ちゃんの幼馴染の……なんて名前だっけ? あの陰キャ君、もう1人のミス甲北と付き合い始めたみたいだよ」
「ああ、悠のことね。でも『もう1人のミス甲北』って誰のこと?」
真理は内心ショックを受けても、平静を装いつつ、その話をした女子学生をギロリと睨んだ。
「あ、いや、真理ちゃんがミス甲北だよね……」
「そうよ。それで悠の話、どこで聞いたの?」
「今日の昼、学食で話してるの、聞いちゃった。佐藤さんだっけ? あの
真理は俯いて黙っていた。その拳はきつく握りしめられていた。
突然、ガタンと乱暴に音を立てて椅子を後ろにどけて真理は立ち上がった。
「真理ちゃん、急にどうしたの?」
「ねえ、真理ちゃん?」
何人かが真理に声をかけても、それに応えないまま、真理は無言でカフェテリアを出て行った。
真理は急いで校舎で悠を探したけど、最初に出くわしたのは元取り巻きの野村孝之だった。
「真理さん! 久しぶりだね!」
「うるさいわね! 今急いでるの!」
「園田君探してるの? 今頃、佐藤さんとイチャイチャしてるかもね。悔しいなぁ。真理さんも彼を取られて悔しいでしょ?」
孝之はニタニタしながら真理を煽った。
「うるさいっ!」
「素直にならないと後悔するよ……ってか、もう遅いか」
「うるさい、うるさい、うるさいっ!」
真理は野村を振り切って進んで行った。その頬はいつの間にか濡れていた。
――悔しくなんかない! 悠が私に黙って他の女と付き合うから、納得できないだけ!悠の奴、生意気よ!
真理は、やっとのことでたまたま1人でいた悠を見つけた。そうでなかったらプライドの高い真理は今聞いたことを悠に問い詰められなかっただろう。
「悠、どういうこと? あの女と付き合っているの?!」
「『あの女』って誰のこと?」
「佐藤……さんのことよ」
「俺の彼女のことを『あの女』なんて呼ばないでくれる?」
「なっ……!」
「俺が誰と付き合おうと真理には関係ないでしょ。次の授業、始まるからもう行くよ」
「ちょ、ちょっと待って! 佐藤さんは本当は悠のことなんて何とも思ってないのよ!」
「何言われたって俺達、両想いだから」
「ぐっ……ち、違うの!! あの人、私に対抗して悠にうそ告しようとしてただけなの!」
「……うそ告?」
悠の興味をやっと引けたと思った真理は、さらに畳みかけた。
「だって悠とろくに話したこともないのに、ムーンバックスに呼び出したんでしょ? 悠がイケメンなら分かるけど、そうでもないのに一目ぼれしないよね。 おかしいと思わない?」
「イケメンじゃなくて悪かったな! からかうだけなら、もう行くよ!」
「あ……待って! ごめんなさい……話を聞いて!」
真理は悠が本気で怒っているのが分かって小さな声で謝った。でも真理がせっかく滅多にしない謝罪をしたのに、悠はその謝罪をさらっと流した。テンパってる真理は幸か不幸かそれに気がつかず、衝撃の事実を話すチャンスとばかりに勢いよく話し出した。
「佐藤さんと……あのいつも一緒にいる
「中野さん」
「え?」
「だから萌の親友は中野さんっていうの」
真理はもちろん、悠が萌を苗字で読んでいないのに気がついたけど、悔しいからそれに反応しなかった。
「あ、そう……その中野さんと佐藤さんが話してるのを聞いた人がいるの。悠にうそ告するのをやめたほうがいいとか……」
「うそだろ?!」
「佐藤さんは、ムーンバックスでなんて言ってたの?」
「な、なんだっていいじゃないか」
「友達になろうって言ってきたんでしょ?」
「ど、どうしてそれを?!」
「友達になるためだけにわざわざムーンバックスに呼び出す? 不自然だよね?」
「あ、ああ……でも……今、俺達が……両想いなのは……ほんとだから……」
悠の顔はショックを隠し切れず言葉が尻すぼみになった。その様子を見て真理はほくそ笑んだ。
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