第31話 素直になればよかった

 真理は、キャンパスで悠が1人でいるのを見つけてご機嫌で話しかけた。


「悠! 私の言ってたこと、ほんとだったでしょ?」


「ほんとだったけど、今は関係ないよ。今、両想いだって俺達が自分でわかってればそれでいい」


「なんで?! 騙されてたのよ!」


「騙してないでしょ。『うそ告しようとしてた』だけで実際にしてないよ」


「でもそんなこと考えてただけで幻滅するでしょ?」


「まぁね、がっかりしたのは事実だよ。でもその後から今までの付き合いで俺は萌を好きでいたいって思った。だから、このまま付き合い続けるよ」


「どうして?! どうして?!」


 真理の問いはほとんど涙声だった。


「どうしてって……俺は萌のこと、好きだから。それ以外に理由っているの?」


 真理は目を見開いた。


「わっ、わ、私のほうが! 悠のこと、ずっと前から知ってる幼馴染じゃない!」


「そうだね。実家が隣同士で同級生で幼馴染でもあるね。でもだよ」


 真理は息を呑んだ。


 彼女の頬にはマスカラ色の涙が流れていた。涙でマスカラが落ちかけたミス甲北の顔なんて、誰も見たことはないだろう。


「おっ、お、幼馴染って……大事なものでしょ?!」


「普通の幼馴染なら、ね。でも真理は俺のこと、何でも言うこと聞く奴隷みたいに扱ってたじゃないか」


「そんなこと……ない! 悠は私のこと好きだから、私の望むことをしてくれたんでしょ?」


「うん、まぁ、あの頃はね。でも俺の目は腐ってたと思うよ。もうあんな奴隷扱いはもうこりごりだ」


「なっ……!」


「俺にも萌にももう二度と関わらないでくれ。前みたいに萌に危害を与えるようなことがあったら……本当に軽蔑するよ。そうしたら君は……俺の幼馴染ですらなくなる。じゃあね」


「えっ?! 悠! 待ってよ!」


 悠は真理の呼び声に全く応えずにスタスタと去って行き、萌に駆け寄って微笑みかけていた。真理からもその姿は見えたけど、涙で滲んで見えた。

 

 悠からあんな笑顔を向けられたのはもう何年もなかったと真理の胸はキリキリと痛んだ。野村に言われた言葉『素直にならないと後悔する』が繰り返し真理の頭の中に浮かんだ。


――ああ……私……悠のこと……好き、だったの?! もっと早く……素直に告白すればよかった……


 真理はマスカラ色の涙を静かに流した。

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