第14話 羊を数えよう
「すみません、お邪魔します」
「どうぞ、どうぞ!」
萌は悠を連れて帰宅した。
萌とリコの2DKのアパートはダイニングキッチンが狭いので、2人がけの食卓があるだけで、それぞれの個室にもソファはない。だから誰か泊まる時は、萌かリコの部屋のベッドを使ってもらっていた。
「こっちが私の部屋。私のベッド使っていいよ。私はリコの部屋にいるから」
悠は、本当はすぐに眠りたかったが、さすがにシャワーを浴びずに人の家のベッドに半日働いた身体で横になるのは気が引けた。
「いや、俺、汚いから寝袋で寝させてもらうよ」
「それじゃ店と変わらないじゃない。せっかくうちに来たんだからちゃんとベッドで寝て。それかそんなに気になるならシャワー浴びてもいいよ。でも疲れてるでしょ? そのままベッドに横になってもいいよ」
「えっと……じゃあ、シャワー使わせて」
萌は箪笥の中でバスタオルとTシャツを探した。
「バスタオルはこれ使って。パジャマは……園田君が着れるようなのはないけど、これぐらい大きいTシャツだったら着れるかな?」
「ありがと。悪いね」
悠がシャワーを浴びる音が聞こえる中、萌はリコのベッドで横になりながらスマホで音楽を聴いていたが、少しうとうとしてしまった。目が覚めた時には、シャワーの音はもう止んでいた。
萌は、ふとシーツや枕カバーを替えてなかったことに気づき、ノックをしてすぐに自室のドアを開けた。
「園田君! シーツとか替えてなっ……! ご、ごめんっ!」
「うわっ!」
ドアを開けた萌の目に飛び込んだのは、パンツ一丁の悠の姿だった。萌のTシャツと自分のTシャツをそれぞれの手で持って迷っている様子だった。
恋愛小説なら、たくましい胸筋やシックスパックに割れたヒーローの腹筋にヒロインの目はハートになるに違いない。でもあいにく悠のお腹は、ぽよんとパンツのゴムの上にはみ出ており、胸もちょっぴりぜい肉が垂れていた。
萌は真っ赤になってドアの前で後ろ向きになって悠に話しかけた。
「ごめん……あの、シーツとか枕カバーとか替えてなかったから、新しいのに替えようかと思って……」
「あ……あ、い、いいよ、このままで……」
「そ、そう……じゃ、ゆっくり休んで。午後まで寝ててもいいから」
「う、うん……ありがとう」
リコの部屋に戻った萌は、自室から持ってきたノートPCでレポートの続きを書こうとしたが、ぷよぷよのお腹がパンツのゴムの上に載っている悠の姿が脳裏にちらついて集中できなかった。
一方、悠もベッドに入ったものの、疲れているのに眠れない。Tシャツは洗ってあったが、なんだか萌の残り香がするような気がするし、布団カバーや枕カバーの匂いは確実に萌の匂いだろう。そう思うと、下半身に熱が集まってきてますます目が冴えてしまったが、まさか隣の部屋に萌がいるのにその本人のベッドで自分を慰めるわけにいかない。
(羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、羊が4匹、羊が5匹……)
悠は頭の中で一生懸命、羊を数えて下半身を鎮静化させようと必死になり、一向に眠れなかった。
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