第13話 降雪注意報解除後の朝
降雪注意報のあった夜のバイトの後、萌は泥のように深く寝入ったので、翌朝すっきり目が覚めた。ベッドサイドの目覚まし時計を見ると、もう8時だった。
あまりにぐっすり眠っていたので、悠が本当はチャイムを鳴らしたのではと萌は焦った。
萌はさっと身支度をしてバイト先の居酒屋へ向かった。バイトから帰る時には積もっていた雪はすっかり溶けていた。
居酒屋の表のドアは閉まっており、通用口に回ってチャイムを鳴らしたが、反応がない。
もう1度チャイムを鳴らしてしばらく待つと、ボサボサ頭の真中店長が眠そうな眼をこすりながら通用口のドアを開けた。
「あ゙~、佐藤さん……どうしたの?」
「あっ、すみません、起こしちゃいましたか?」
「いや、片づけが終わったんでもうそろそろひと寝入りしようかと思ってたところだよ」
「えっ、そんなに長く店開けてたんですか?」
「ああ、最後の客が帰ったのが1時間ちょい前かな?」
「あの……園田君はどうしましたか?」
「彼もちょっと休んだら家に帰るって」
「ちょっと話したいので、中に入っていいですか?」
萌が真中店長に許しを得て店内に入ると、悠はテーブルに突っ伏していた。
「……ん? あれ?! 佐藤さん? どうしたの?」
「ごめん、起こしちゃった?」
「いや、まだ寝てないから大丈夫」
「うちに来てひと眠りして休んでから帰ればいいのに」
「いや、そんな女の子だけの家で寝るわけにいかないよ」
「そんな遠慮しなくてもいいのに。リコだって了解してるから」
「でも中野さんは、泊りでまだ帰ってきてないんでしょ?」
「うん、多分、ホテルでゆっくりしてくるんじゃないかな」
――ピンポーン!
その時、通用口のチャイムが鳴った。真中店長が『誰だろ?』とぶつくさ言いながらドアを開けに行った。
「うちの奥さんだったよ」
真中店長は奥さんが来るとは予想していなかったようだった。
「おはようございます。真中の妻です。お疲れ様でした。朝まで大変でしたね。サンドイッチ作ってきたので、よかったら朝食にどうぞ」
「バイトの園田です。ありがたくいただきます!」
「おはようございます、バイトの佐藤です。お気遣いありがとうございます。でも私は真夜中で退勤したので、いただくわけには……」
「いいのよ、雪の夜に働いてくれたんだから。車で来たから、食べ終わったら家まで送るわよ」
朝になったら雪が溶けていたので、真中店長の奥さんは、徹夜の後に電車で帰るのは辛かろうと思って降雪注意報解除後の渋滞の中、わざわざ車で夫を迎えに来た。
真中夫妻は開店当初は店の近くに住んでいたのだが、子供ができたのをきっかけに郊外の一軒家を買って引っ越した。店長は出勤時に電車で来れても、閉店時には終電の時間を過ぎているので、引っ越し以降、店長は近くの月極駐車場を借りて車で通勤している。
でも店長はスタッドレスタイヤを持っていないし、雪の中の運転の自信がないから、昨日は車を置いて電車で来たのだ。
店から自宅が徒歩10分以内の萌は、当然のことながら送迎を辞退した。悠の家は真中夫妻の家より遠く、反対方向の千葉にある。
「店長の家って南林間でしたよね? うちと反対方向なので、電車で帰ります」
「ちょっとぐらい寄り道なんて大丈夫よ」
「でもうち、千葉なんで……」
「あら、そうなの?! でも構わないわよ?」
最初は店長の奥さんも構わないと言っていたのだが、悠の実家のある千葉に行って神奈川へ戻るのはさすがに面倒だったようで、悠が遠慮したらあっさり引いた。
真中夫妻の車を見送った後、萌は悠と別れて家路に着こうとしたが、悠がフラフラと歩いているのを見てやっぱり声をかけた。
「園田君、大丈夫? フラフラだよ?」
「あ、うん。でも電車の中で寝てくから大丈夫」
「ねえ、うちにおいでよ。休んでいったほうがいいよ」
「でも女の子の家で寝るわけには……」
「私達、友達でしょ。女の子とか、男の子とか関係ないよ」
「うーん、そっか……それじゃあ、お言葉に甘えてもいいかな?」
「もちろん!」
悠は徹夜明けが堪えているようでフラフラだったからか、案外あっさりと萌の申し出を受け入れた。
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