第3話 女はめんどくさい
『いいなぁ、あんなかわいい子が幼馴染だなんて』
小学生の時からずっと言われ続けてきた。少し大きくなってからは『かわいい子』が『美人』に変わったけど、羨ましがられたのは同じ。
確かに新田真理は美人だ。そして俺の初恋の人だった。
家が隣で、母親同士の仲がいい。小さい時からお互いの家でよく遊んだ。遊び疲れた時なんかは同じ布団で昼寝したことすらあった。
でも俺が淡い恋心を自覚し始めた頃、真理も自分の容姿の良さに気付いてどんどん俺に対して態度が大きくなっていった。
真理が洋服屋をハシゴする間、俺はひたすら待って荷物持ちになって、最後にスイーツをおごるのがルーチンだった。スイーツを食べる間、その日に買った服を見せられて『真理に似合いそうだ』とか、『それを着た時の真理はかわいいだろうね』とか褒めないと真理はむくれて機嫌をとるのが大変だった。クレーンゲームで目的の物を取れるまで止めさせてくれないのもザラだった。持ち金がなくなって目的の物が取れなかった時はもちろん罵倒された。カラオケに行く時は、真理の歌をさんざん聞かされて褒めないと怒られ、俺が1曲も歌わなくても料金は俺の小遣いから払わされた。そんなのは氷山の一角。
誰かに『園田君と付き合っているの』って聞かれると、『やだ~、只の幼馴染だよ!』と真理は俺の前で平気で答えた。『そうだよね、真理ちゃんの彼氏だったらもっと…』って俺のことをコケにするようなことを言われても真理は自分のことを持ち上げられてご機嫌だった。
まあ、仕方ない。確かに付き合ってはいなかったから……最初は告白する勇気がなかったからだけど、段々奴隷のような扱いに疑問になってきたから告白しなくてよかったと後になって思うようになった。
そんなこんなでアイツとの付き合いに疑問を持ち始めていた中学2年の時、小遣いをコツコツ貯めて買ったプラモデルを壊されてアイツへの情はとうとう砕け散った。プラモデルがもうすぐ完成するという時に機嫌の悪い真理が俺の部屋に入ってきて、俺がプラモデルに集中してて上の空でアイツの言うことを聞いていたら、激高してプラモデルを壊しやがった。今まで真理に怒ったことのない俺が『出てけ!』と叫んだら、流石にまずいと思ったのか、『パパに買ってもらってそこまで組み立ててもらうから許して』って懇願された。そういう問題じゃないっていうのに。
しばらく無視していつものように一緒に登下校しなかったら、アイツは俺の親に泣きつきやがった。
「悠、真理ちゃんと喧嘩したんだって?仲直りしてあげてちょうだい。プラモデルぐらいであんなにかわいい幼馴染を泣かせたらダメよ。そんなの買ってあげるから」
俺の親の目は節穴か?!プラモデルだけが原因じゃない!息子の俺が真理の奴隷のようにこき使われてたのに気付かなかったんだろうか?
その後中学卒業まで1年ちょっと我慢した。おとなしく言うこと聞くふりしてひたすら『うん、うん』って返事しただけ。
高校は少し遠いけど、男子校にしてすっきりした。真理にはどうしてってうるさく言われたけど、『じいちゃんの母校に行きたかったから』で通した。
大失敗だったのが、大学だ。親が家から通える大学だけ進学許可すると言うので、真理にはなるべく志望校を隠していた。それに甲北大学は真理の偏差値ではちょっと無理らしいと聞いていたから安心していたら、アイツは同じ大学の同じ学部に受かってゼミまで同じにしやがった。
案の定、真理は大学でも俺に付きまとった。中学の時以来得意のスルースキルを発揮してスマホゲームをしながら適当にウンウンってアイツの話に付き合った。でも去年、学祭でミス甲北に選ばれて真理に告白する男が増えてから、真理は付け上がって俺のスルーにイライラし始めた。多分、俺如きに軽くあしらわれているのがミス甲北のプライドを傷つけたんだろう。崇拝者達を侍らして俺をちらちら見るようになった。でも、俺には全然ダメージない。
同じゼミにもう1人ミス甲北-佐藤萌-がいる。去年の学祭で真理と同率1位でミスコンに優勝した。そいつも真理と同じでかわいい自分に自信があって気が強くて俺は苦手だ。真理と同類同士、犬猿の仲らしい。
その佐藤が最近、ちらちら俺を見ている。自意識過剰かと思ったら、そうじゃなかった。授業の後、佐藤に呼び出されて駅前のムーンバックスへ行った。真理がそれを知ったら確実に面倒なことになる。
さっさと終わらそうと思って『何の用?俺は忙しいんだけど』って話しかけたら、機嫌を損ねた。佐藤も真理と同じか、はぁ~、女ってめんどくさい。
本題に入る前に口論になって佐藤はムーンバックスを出て行った。泣きそうになっていてちょっと罪悪感を覚えた。あっちが俺の都合も考えずに勝手に呼び出したんだ。そんな感情を持つ必要はないよな?!でもわざわざ呼び出して何の用だったんだろう?なんだかもやもやして気になった。
俺が佐藤と2人でムーンバックスに行ったって真理が知ったら、うるさく聞いてきて大変だろうなと思ってたら、ほんとにしつこくて大変だった。どうして俺の交友関係(まあ、佐藤は俺の友達じゃないけど)をいちいち真理に報告しなきゃいけないんだ?仮に恋人同士だとしてもいつもそんなことを報告しないといけないのは息苦しくてゴメンだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます