第7話 再会

 大学生活最後の正月が過ぎて初めての週末――悠は実家の最寄り駅に萌を迎えに来てくれた。


 大学もその間休みだったので、萌と悠が会うのは年明け前に新青森駅で別れて以来だ。


 萌は改札を出る前にもう悠を見つけた。


「悠! 明けましておめでとう! ってもうそんな気分じゃないか」


「ううん、今年萌と会うのは初めてだから、まだそんな気分」


「すっごく緊張してる。悠の家に行く前に充電させて」


「わわわっ!」


 萌が悠に抱き着くと、悠は顔を真っ赤にして焦っていた。


「悠ったら、付き合って何年経っても恥ずかしがり屋だね」


「だって、こんな、外で……」


「フフフ……悠はかわいいね」


「ちょ、ちょっと! 俺は男だよ!」


「男でもかわいいものはかわいいの。悠、ありがと。緊張がほぐれてきた」


 萌がやっと悠を解放すると、悠は目に見えてほっとしていた。


「どうして私が離れるとほっとするの? おかしいよ。あーあ、また緊張してきた。もう1回悠で充電してもいい?」


「い、いいよ、しなくて! うちの実家にはもう話は通ってるんだから、そんなに緊張することないよ。俺なんか、結婚前に同棲なんて許さないってお義父さんに殴られる覚悟で青森まで行ったんだよ」


「殴るわけないよ。第一、あんなヒョロヒョロのお父さんが殴ったとしても全然効かないでしょ。お父さんはそれより悠に『お義父とうさん』呼ばわりされたのが何気に気になってたみたいだよ」


「えっ?!」


「ま、大丈夫。気にしないで」


「えーっ、気になる!」


 そんなことを話しながら歩くとあっという間に2人は悠の実家の近くまで来た。


「あれ?」


 悠の実家の隣の家の前で言い争っている若い男女が見えた。真理と野村孝之だ。大声なので、萌達にも丸聞こえだ。


「挨拶なんてしなくていいよ!」


「同棲するんだからさ、一応誠意見せたほうがいいでしょ?」


「同棲なんてしないでしょ!」


 萌が真理と孝之に新年の挨拶をすると、真理は決まり悪そうに挨拶を返した。


「新田さん達も卒業後は同棲するんだ?」


「えっ?! 同棲なん……」


「そうなんだよ。でも真理が恥ずかしがってさ、親に言いたくないって言うから、一緒に来たんだ」


真理が『同棲しない』と言い終わる前に孝之が電光石火で肯定した。


「そうなんだ。うちらも今日、同棲の挨拶を悠の両親にするために来たの。悠が年末に青森の私の実家まで来てくれたから。じゃあ、うちら行くね」


 萌と悠が門を開けて敷地に入っていくと、孝之が真理を再び説得し始めたのが聞こえてきた。


「ほら、真理。うちらも行こう。同棲の挨拶しなきゃ」


「同棲するとは決まってないでしょ。勤務地決まってないじゃない」


「でも少なくとも研修期間中の2ヶ月は真理ちゃんと一緒に住みたいからさ。ご両親に挨拶しなきゃ」


 ドアの前で萌が緊張で固まってしまって、悠は家の中に入るに入れないでいた。


 その間も真理と孝之の言い争いが聞こえてきて真理の視線もチラチラと2人に刺さってきた。真理は、どうやら口論が聞こえるのが恥ずかしいみたいだ。萌も悠も、決して野次馬根性でドアの前に留まっている訳じゃないのに気まずい。


「あ゙ー、もう! わかったわよ!」


 真理の大きな声が悠達にも聞こえた。彼女は覚悟を決めたようだ。野村を引っ張って隣の家に入って行った。

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