第12話 初めての夜は○○の思い出
ちょっと汚い場面があります。
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真理に告白して付き合ってくれとお願いして以来、俺は『大好き』と『付き合って』という言葉を欠かさなかった。でも彼女はまだ園田を忘れられないみたいだ。そう思うと胸が締め付けられる。モテ男の俺が1人の女の子に固執するなんて、俺も焼きが回ったな……
でも俺の勘違いじゃなきゃ、悪くない雰囲気だ。そう思ったのに……
ある日、俺はキャンパスで真理を見つけて声をかけたが、彼女は全然反応しない。仕方ないので、近づいてもう1度話しかけようとして彼女の様子が変な事に気付いた。少し離れた所に手を繋いで幸せオーラを周囲にまき散らしている萌と園田がいた。
「真理ちゃん……」
「あっ、野村君……」
やっと俺の存在に気付いてくれた真理は、泣き出しそうな顔をしていた。俺は咄嗟に彼女を飲みに誘っていた。
「真理ちゃん、今夜、時間ある?」
「え?!」
「ちょっと不運な事があって落ち込んでいるんだ。お願い、人助けだと思って俺を慰めて!」
俺は真理を拝み倒して飲みに行った。彼女は俺を慰めるミッションなんて忘れたかのようにどんどん飲んだ。ほんとは逆に俺が真理を慰めたかったんだからいいかと最初は思ったけど、飲みっぷりが凄すぎて心配になってきた。
「ま、真理ちゃん……それ以上はもう止めた方が……」
「うりゅさい! 飲みゃせろぉ!」
「あっ!」
真理はカクテルを次から次へと注文した。仕舞いに俺が真理の注文をストップすると、俺のチューハイを奪って一気飲みしてしまった。こりゃマズイと思って慌てて会計して彼女の実家まで送ろうとしたんだが、店の前でもっと飲むと暴れてしまった。周囲の人達の目が痛い。
「やだー! 帰らない! もっと飲むぅ~!」
「そんな事言わないで。もうこれ以上飲んだら危ないからさ、早く帰ろう。家まで送るよ」
真理を引きずるように駅まで連れて行ったが、彼女の家の最寄り駅まで行ける終電が行ってしまった後だった。真理の家は遠いので、終電が早い。彼女が帰らないと言ってずっと抵抗していて時間をくってしまったからだ。
仕方ないので、この駅から4駅先の俺のアパートへ連れて行く事にした。ちょっと役得、役得と思わない事もないけど、流石に酔っぱらった女の子をどうこうする程、俺は鬼畜じゃないし、女に飢えている訳でもない。
「えぇ~、野村君ちに行くのぉ? あんな事、こんな事しようってエッチな事考えちゃ
駅で大きな声でそんな事を言われて俺はぎょっとした。まだ近くへ行く電車は出ているので、駅にはそこそこ人がいて周囲の人達がバッと俺を見た。酔っぱらった女の子にいかがわしい事をしようとしている悪い奴と思われたみたいだ。警察に突き出されないか心配になってきた。
だけど幸運な事にすぐに電車が来た。電車に乗ると、真理は急に大人しくなって俺にもたれかかった。ほとんど寝ているようだ。俺はほっとしたけど、4駅なんてすぐだ。
「真理ちゃん、起きて。降りるよ」
「ん?」
電車が駅に着いても真理は座席から中々起き上がらず、半分意識が飛んでいるようだった。仕方なく、肩を貸して引きずるようにして慌てて電車から降りた。駅からは徒歩10分だけど、この状態の真理を抱えて行くのは辛い。かと言って泥酔状態の真理を乗せてくれるタクシーがあるとは思えないし、急行が止まらないこの小さな駅で待っているタクシーがある訳もなかった。
「真理ちゃん、俺の背中に乗って」
「ふぇ?」
反応の鈍い真理を俺の背中に誘導して真理をおんぶしようとしたが、首に腕を回してぶら下がられて窒息死しそうになった。仕方ないので、肩を貸して徒歩10分の道を3倍以上かけて俺のアパートに向かった。道中、真理は千鳥足な上にブツブツ言って時々俺に突っかかってきた。それも俺の事を園田と勘違いしているようで胸が締め付けられた。
「ゆううう、あんたはわたしゅのいうこと聞いてるの?!」
俺は園田じゃないから返事できない。そんな俺に真理はイライラするみたいでポカポカ叩いてきた。そんなんだから、玄関に入った時はやっと着いた事にほっとしていたし、息も絶え絶えに疲れていたので、真理の様子の変化に気付くのが遅れた。
「うわっ! ま、真理ちゃん、トイレはこっち! 我慢できる?」
残念ながら、真理はトイレに着く前に盛大にゲロってしまった。彼女の服も俺の服も床もゲロだらけ……なのに吐いてすっきりしたのか、床のゲロが髪の毛に付くのも気にせずポスンと床に転がって寝息をたて始めた。
「真理ちゃん、起きて! 着替えよう! このままじゃ髪がゲロだらけになっちゃうよ」
いくら話しかけても真理は起きなかった。仕方なく、ゲロまみれの服を脱がせ、髪を拭いて俺のパジャマを着せた。え? 彼女の裸を見れて役得だって? ゲロの匂いと床の掃除が大変でもうそれどころじゃなかった。本当なら、初めて彼女がうちに泊まる時はロマンチックな夜を過ごしたかったのに、ゲロの思い出になってしまった……
真理の吐しゃ物の処理が終わった後、時計を見たらとっくに1時を過ぎていた。彼女は俺のベッドでスヤスヤと眠っていた。俺はソファで眠れずじっと横になっていたが、明け方になって寝落ちしていたようだった。俺は突然罵声で目が覚めた。
「ちょっと! 野村君、どうして私はあんたの家にいてあんたのパジャマ着てるのよ! 私に何したの?!」
「えっ? えっ?」
寝起きで俺は咄嗟に言い返せなかった。
「なんで私、自分の服着てないの?! 私の服、どこ?!」
キンキン怒鳴られてやっと目が覚めてきた。あんなに酔っ払いとゲロと格闘した俺に酷い言いざまだ。ちょっと意地悪な心がムクムクと起きてきた。
「俺達、合意の元に熱い夜を過ごしたんだよ。忘れちゃったの? 酷いなぁ」
「なっ! 何言ってるの?!」
『なーんてね、嘘』って言おうとしたその瞬間、真理の平手が飛んできた。
「いってぇ……嘘だよ、何もしてないよ。真理ちゃんが吐いちゃってそんな事考える暇もなかった。自分と俺の服をゲロだらけにしたの、覚えてないの?」
「えっ?! 嘘?!」
「ほんと。真夜中過ぎてたから洗濯機使えなくて服は手でゆすいだだけ。これからちゃんと洗うよ」
俺が洗濯機の所へ行くと、真理もついて来て洗濯機の中の服をつまんで匂いを嗅いだ。
「うわぁ……ほんとだったんだ……ごめんね……恥ずかしい」
「いや、そんなの気にする事ないよ」
洗濯機と乾燥機を回す間、真理は恥ずかしそうに何度も謝り、帰るまで微妙な雰囲気になってしまった。
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