第7話 新しいバイト

 今日は、悠が紹介してくれた居酒屋バイトの面接だ。萌とリコは、開店前に店に行くことになっている。


 店はチェーン店ではなくて、個人店だし、サラリーマンのオジサン達が入り浸りそうな雰囲気がある。だから家の最寄り駅近くにある居酒屋なのに、入りづらくて萌とリコは1度も行ったことがない。


 そこでバイトしようと萌が提案した時、リコは『えー、酔っ払いにセクハラされない?』って最初は渋っていた。でも最終的には一緒にバイトしようって決めてくれて、萌は正直、助かったと思った。悠が紹介してくれるならってなんだかよくわからない安心感はあったけど、やっぱり1人でバイトを始めるのは心細い。


「ここ、なんか入りづらくて1回も来たことなかったよね。面接で来たことありますかって聞かれたら、正直にないって言うしかないよね? 理由聞かれたらなんて言う?」


「お酒、あんまり飲まないから、とか?」


「それ、萌が言う?! 『酒の一滴は血の一滴』なんて言う女がお酒飲まないって誰も信じないよ!」


「そんなこと、店長の前で言わないから!」


 家から歩きながら、そんなことをわぁわぁ話しているうちに2人は店の前に着いた。開店前だから入口のドアは閉まっていたが、約束通りに電話をしたら、店長がすぐにドアを開けてくれた。


 店はあまり大きくなくてカウンターの中がキッチンになっている。4人掛けの席もあるけど、チェーン店の居酒屋ほど大勢お客さんが入るような広さではない。


 客席に座るように言われて萌はリコと並んで店長の前に座った。


「店長の真中です。おふたりは佐藤さんと中野さんね。園田君から聞いてるよ。家はここが最寄り駅なんだよね?」


「はい、私達は部屋をシェアしてるんですけど、ここから歩いて10分ぐらいです」


「終電を気にしないでもいいのは助かるなぁ。それだとシフトは夜6時から0時なんだけど、週に何回くらい入れる?」


「私は週2、3回入れます。リコもそうだよね?」


「リコ?」


「ああ、中野さんの下の名前のほんとの読み方は『さとこ』なんですけど、中学生の時から『リコ』って呼んでるんです」


「ああ、そうなんだ。幼馴染なんだね。うちは小さい店だから2人一緒のシフトにはめったにできないけどいいかな? フロア担当は同時に2人だけだし、最初は先輩達にサポートしてもらわないといけないから」


「もちろんです。遊びじゃなくて仕事なので、2人一緒かどうかは気にしません」


「キッチン補助も1日1人いるから、フロアとキッチンに1人ずつ入れば同じ日にバイトできるけど、基本的に掛け持ちはなしでフロアかキッチン専任になってもらうよ」


 キッチン専任もあると聞いて萌の顔色が青くなった。


「え、キッチン……あの、料理できなくても大丈夫ですか?」


「あ、私は料理できます!」


 萌とリコは自炊している――と言うか、自炊している。萌は料理の才能が壊滅的にない。ジャガイモとか野菜の皮を剥くのに時間がかかる上に、皮を厚く剥き過ぎて半分ぐらいの大きさになってしまうのだ。レシピ通りに味付けすればいいのにし過ぎて味が変になるとか、レシピ通りにしたと思ったら砂糖と塩を間違えていたとか、そんなこともしょっちゅう起きる。なので、萌は料理に関しては皿洗い係に徹している。


「キッチン補助って言っても、皿洗いとか、野菜を洗って皮を剥くとか、お通しとか冷ややっこを盛り付けるとか、そんなことぐらいだよ」


「皮剥き、ですか……リコだったらキッチン補助できると思いますけど、私はフロアでお願いします」


「私はどちらでも需要のあるほうで」


「じゃあ、2人ともフロアでお願いね。いつから来れる?」


「えっ、採用決定ですか?」


 時給の話もちゃんとして納得の上、その場で2人の採用が決まった。正直、あまりにもあっさり決まって萌もリコもびっくりした。いつからバイトを始めるかとか、いろいろ詳細をつめて帰ろうとした時、出勤してきた悠の声が聞こえた。


「おはようございます!――あ、佐藤さんと中野さん! 今日、面接だったんだね」


「おかげ様で採用決まりました! よろしくね!」

「いつからなの?」


「来週の月曜がリコで、水曜が私」


「両方とも俺がフロアに入ってる日だ」


「指導よろしくね!」


 バイトが決まって心が弾みながら萌はリコと家に帰って行った。

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