第21話 スレイマン大帝は笑って、怒っていたけど

「王太子殿下。あなた…やはり男の方だったのですね。でも、何故、ベアトリーチェ陛下やラウラ陛下ではないのですか?」

 クロランドちゃんは、ロレンツィオ君と2人っきりで、一室の、豪華な装飾のある、特別な人間と会するための部屋であることは一目瞭然の、中で対面するように座っていた。テーブルを挟んで。彼女がこの部屋にいるのは、彼女がスレイマン大帝の使者だったからだし、スレイマン大帝の私信に、彼女と二人きりで話しをするように書かれていたからなんだ。

「それが、カリフ様からのお言葉ですか?」

 ロレンツィオ君は、とぼけるように返した。

「カリフ様、スレイマン大帝陛下にあっては、今回のことお怒りでございます。」

 彼女は、表情を強ばらせて言った。強ばらせたのは、スレイマン君の怒りからではなく、ロレンツィオ君の最近の女性関係を、彼が

応えなかったからなんだ。

 スレイマン君は、キープ島、三大陸に囲まれた地中海貿易の要衝の一つ、それを攻略、占領する軍を起こしたんだ。その島を守る騎士団は、悲壮な覚悟で徹底抗戦の構えであり、イスダブル帝国を大のお得意様にしているベニス共和国は、海上貿易の権益では戦い続けてもいる関係だから、即、キープ島騎士団への支援を開始。さらに、救世主教三位一体派教会教皇も、救世主教各国に支援を、対立する聖書唯一派等も、それに賛同。トスカーナ王国も、イスダブル帝国の同盟国なのに、国内からキープ島救援に向かう騎士達が相次いだこともあり、早々に支援を発表。あくまでも、自国の騎士達の意気に対しての餞、反対だけどという形だったけど。

 その支援額は、各国と較べるとはるかに少なく、提供する大砲は旧式な一門のみ、しかも砲弾は数はその一門には多すぎるけど、大砲の直径より大きいものばかり、それでは発射火薬もその分はあるけれど、役に立たないとなっているんだ。でも、スレイマン君、その報告を聞いて、破顔一笑、

「けしからん小僧め!」

と。各国国王達は、多額の支援金額を発表したものの、なかなか拠出せず、実際の拠出額では、トスカーナ王国は、ベニス共和国の次、かなりの差はあるものの。また、

「砲弾は、あの島の騎士団が持つ大砲には使えるのだ。だからこそ、その分の火薬もつけておったのだ!あの小僧め、わしの目をごまかそうとしおって!こんな小細工に騙されんわ!」

 さらに、東ゴート帝国王都への進軍も同時に実行しようとしているイスタンブル帝国に協力するためにトスカーナ王国は、トスカーナ王国にとっても東ゴート帝国は仇敵ではあるが、軍が対峙しているものの、まやかしだと見抜いていた。もちろん大帝陛下ちゃんは、笑っていたけど。

 止む得ないことだと分かっていたし、同盟関係を壊す必要もないんだけど、それをクロランドちゃんに行かせたのは、大帝ちゃんの粋な計らいなんだけどね、僕にとっては迷惑千万!2人の関係は不倫なんですからね!

 でも、クロランドちゃんも、ベアトリーチェ女王陛下やラウラ魔王陛下なら許す、というのは成長したよ、褒めてあげるね。この3人、連帯感、共感、認め合う関係ができちゃった、いつの間にか。

「ロレンツィオ様を愛する私達が、どうして姉妹のように、親友のように、ともにあの方といても良いのではないでしょうか?」

と。却下ですよ。

 先に大きなため息をついたロレンツィオ君は、

「海の魔王の侵攻には、我が国が信頼できる同盟国としての行動をしめすとカリフ様には、スレイマン大帝にはお伝え下さい。そのおりには、ともに戦いましょう。」

 オルシー二ちゃんからの情報とした、僕からの情報、絶対的な信頼度だよ。クロランドちゃんは、ようやく彼女らしい表情を浮かべて、満足そうに頷いた。彼女の頭の中には、彼と肩を並べて、あるいは並んで馬を疾走する姿が広がっていた。でも、それはすぐにに萎んだんだ。冷静に、現実を考えれば、その場所に立つのは彼女達なのだ、と分かったから。今度は、クロランドちゃんが大きなため息をついて、

「どうして私達ではだめなのですか?」

 憂な、そしてすがるような表情のクロランドちゃんも魅力的だね。でも、ロレンツィオ君、なびいちゃ、同情したらだめだよ。

「ベアトリーチェ陛下とラウラ魔王陛下が、私と結婚したとしたら、国益になりますか?より立場を固めることが出来ますか?」

「え?」

「仮に、クロランド殿と私で考えて見てもいい。国のためになりますか?全てをすてて、破滅してもいいのであれば…でも、私達は国に対する義務を棄てることは許されないでしょうし、選択しないでしょう?」

「そうですね…そのとおりです。」

 ロレンツィオ君、よく言った。クロランドちゃんも、よく納得してくれたね。

「では、海の魔王との戦いを待ちわびましょう。」

「私は、その前に、外国勢力に操られた反乱を一掃しなければなりませんが。」

「遅れなどとらないように。私達のロレンツィオ殿下。」

 戦士の顔に戻ったクロランドちゃん、光り輝いているよ。君の武勇、僕が保証してあげるからね。あ~お、そんな顔で、2人は、握手、というより手を握りあったゃって~、まあ、今回だけは赦してあげよう!

「あやつが、あの小僧がそんなことを言っておったか?大言壮語しおって!」

とカリフ、スレイマン大帝は、クロランドちゃんの報告を聞いて、大笑いしながら怒った?。

 片膝をついて、頭を下げたままのクロランドちゃんを玉座から見下ろして、今度は、ニヤニヤしながら、

「三面作戦になるな。海の魔王討伐は、かの小僧、トスカーナのロレンツィオの顔を立てて、委せるとする。あくまでも東ゴート帝国の王都、ウィンナ攻略が第一、ロードス島攻略が第二だ。クロランド、あまり多くは割けんが、ロレンツィオへの援軍も送るから、お前が指揮せよ。奴と肩を並べて、存分に戦え。肩を並べて戦うよう、小僧にも言っておこう。おい、書記、すぐに親書をしたためる。クロランド、お前も準備しておくように。」

 クロランドちゃん、嬉しさを噛みしめて、筆者に無表情を装っているけど。スレイマン君、あまり余計なことしないでよ!2人の不倫を唆さないように!孫みたいな、クロランドちゃんが可愛いからって…。あまり、余計なことはしないでよね。

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